スカウトアプリ

 華やかな芸能界に憧れる女の子は多い。雑誌のモデル、アイドル。一昔前なら原宿や渋谷でスカウトマンに見いだされたり、オーディションに応募したりするのが一般的だった。東京近郊ならいざ知らず、地方で暮らす中高生にとってはハードルの高いものだった。


 しかし、今は違う。スマートフォンにアプリをダウンロードするだけで簡単に登録できた。アプリ内のAIが、自撮りの写真やカラオケの歌声、会話の面白さ、運動能力などを勝手に分析してモデル事務所やプロダクションに売り込んでくれた。


 AIが作業を行うのでプライバシーも完璧。偽のスカウトマンにだまされたりすることもなかった。事務所やプロダクションにしてもスカウトマンに無用な経費がかからず、オーディションの費用を節約できた。


 新人タレントになれる期間は意外に短い。せいぜい、中学校から高校生までの6年間が旬と言ったところだ。全国規模で探せることから、事務所やプロダクションサイドも、こぞってスカウトアプリを採用した。


「ねえ、ねえ。今、人気の寺本栞ちゃんとか、平川ゆりちゃんとかってスカウトアプリ出身なんだよね」


「そうそう、この間、新人賞を取った小山志穂も『スカアプ』でスカウトされたらしいよ。何と副賞一億円」


「みんな地方出身者なんだって。ちょっと方言とかある方がかわいいよね」


「実は私も『スカアプ』入れてみたんだ。もう中学生だし」


「うっそー。私も入れたの。この間」


「やっぱり?楽しみだよね。採用される子はだいたい半年でメールがくるんだって」


「いーなー。選ばれたら田舎暮らしを脱出して、東京に行って大都会でオシャレし放題だもんね。憧れの俳優と恋に落ちたりして」


二人は田舎のファストフード店で夢に浸った。


ポロリン。ポロリン。


一人の女の子のスマートフォンが鳴った。


「うっそ!『スカアプ』からメールが来た」


女の子は急いでメールを開いた。


『おめでとうございます。あなたの飼っている犬のポンタが、大手携帯会社のCMに起用されることとなりました』


彼女のスマホには、たれ目の愛くるしい子犬を抱いた、どこにでもいそうな女の子が写っていた。






おしまい。

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