勇者になれる薬

 俺の職業ステータスは農民。ステータスゲージは下のようにオール1。


[ステータスゲージ]

名  前:ヤソキチ

年  齢:22歳

性  別:男

レ ベ ル:1(死ぬまで、何をしても絶対にあがりません)

体  力:1(スライムに触れただけで即死です)

防 御 力:1(病気、ケガ、火傷、凍傷でも簡単に死にます)

攻 撃 力:1(農民一人を倒せるかどうか。基本相打ちです)

魔 法 力:1(嘘をついて人をだますのがせいぜいです)

特殊能力:1(田畑を耕し、植物を育てられます)

職  業:生真面目な農民

攻撃呪文:神様おねげぇだ。雨を降らしてけろ!

武  器:木のクワ、石のカマ

防  具:ズタボロの服


 夢も希望もない。王様や役人に搾取されるだけの人生だ。ああ、神様!なんで俺は勇者じゃないんだ。俺だって男だ。勇者になって貴族や民衆から尊敬の眼差しで見つめられたい。


 今日も勇者のご一行が大魔王討伐の為に王都を出発する。石壁に守られた城下町では、出発式のお祭りが盛大に執り行われている。民衆の歓声が風に乗って俺の畑に響いてくる。


 石ころだらけのやせた土地。力いっぱい木のクワを振るっても、わずかばかりの土を砕く程度。手にできたマメの痛みが脳天を貫く。土煙に鼻水と涙が顔を伝う。やってられっかよ。


 カン!


 ボキッ。


 うわっー!俺の木のクワが・・・折れた。ギルドに借金をしてやっと手に入れた木のクワが。ちくしょー。ふざけんなよ。んっ?何か埋まっている。


 俺はガサガサの手で土を掘った。爪の中に砂粒が入り込んで痛いけど、かまうもんか。クワが無ければ、もう耕すこともできない。後は餓死するのを待つだけだ。その前に借金の返済が滞ってギルドに殺される。たったの10ケロの借金でだ。


 最下級モンスター、スライム一匹倒した時のドロップが100ケロ。俺の年収に匹敵する。戦士や魔法使いなら子供でも遊びながら倒せると言うのに。貧富の差どころじゃない。それくらい俺の能力はクソなのだ。


「なんだこれ?」


 青白く輝く液体が入った小瓶が出て来た。お宝だ。咄嗟に胸元を包むボロ布に手を突っ込んで隠す。俺は辺りに誰もいないか確認した。誰もいない。恐るおそる胸元から小瓶を引き出す。


 なんて綺麗な品物なんだ。金や銀で装飾された透明なガラス瓶。これだけだって1000ケロはくだらない芸術品に見える。中身の液体に期待が高まる。古代語で何やら記されているが学のない農民に読める筈もない。


「どうせ、クソ以下の人生だ!」


 俺はふたを取って一気に飲み干した。


 頭の中に天使の声が直接響いてくる。


『ピポン。チートによって、ヤソキチは勇者のステータスに変更されました。


ピポン。レベルが99になりました。

ピポン。体力が99になりました。

ピポン。防御力が99になりました。

ピポン。攻撃力が99になりました。

ピポン。魔法力が99になりました。

ピポン。特殊能力が99になりました。

ピポン。職業が伝説の勇者になりました。

ピポン。攻撃呪文、アトミックボンバーを覚えました。

ピポン。伝説の武器、勇者の聖剣を手に入れました。

ピポン。伝説の防具、勇者の鎧、盾を手に入れました』


 体が一瞬青白く光って、ズタボロの服が伝説の鎧にかわった。折れた木のクワは聖剣、石のカマは伝説の盾にかわった。


 どうやら俺の飲んだ小瓶の液体は『勇者になれる薬』だったようだ。


 こうして俺はクソ農民から伝説の勇者に転職した。仲間を集いダンジョンを駆け巡る。能力がカンストしているのでもはや敵なし。瞬殺でモンスターを倒して現金をドロップさせる。ウハウハ生活を満喫していると、王様が現れた。


「勇者よ!いつになったら大魔王を倒しに行くのだ」


 民衆の声援に見送られて晴ればれしく王都を出発。魔王のダンジョンであっさりと大魔王を倒した。


 頭の中に天使の声が直接響いてくる。


『ピポン。伝説の勇者、ヤソキチによって大魔王は滅ぼされました。次の選択肢から行動を選びなさい。


一、電源を切って人生(ゲーム)を終える。


二、ステータスを初期設定に戻して人生(ゲーム)を最初からやり直す。


三、異世界に転生して新たな冒険を始める』


 俺は迷わず三を選んだ。体が青白い光に包まれて眠くなる。


・・・・・・・・


 スマートフォンからエンディング曲が軽やかに鳴り響いている。俺は新しい世界で目覚めた。六畳もないワンルームの安アパート。俺の職業ステータス欄には『社畜』と言う見慣れない単語。なんど確認しても、その他のステータスゲージはオール1。茫然とスーマートフォンに映し出されるエンディングテロップを見つめる。


『監督・プロデューサー:ポンコツ神様』


「なんだこれ?」






おしまい。

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