惑星移住

 地球温暖化によって地表温度が急激に上昇。森や草原は失われ、湖も海も蒸発してしまった。地上の野生動物は次々と死滅し、農業も、漁業も、酪農も壊滅的状況に陥っている。人類は生き残りをかけて新しい惑星へと移住することになった。


 俺達は選ばれた仲間、五千人と共に超巨大宇宙船で漆黒の宇宙へと旅立った。地球を出発して七百三十四年。宇宙船は、AIによって緑豊かな惑星を探し求めながら銀河を進む。どんなに巨大な宇宙船と言えども限界がある。五千人を目覚めさせたまま旅するのでは、スペースも食糧も酸素も膨大にかかってしまう。


 乗員はコールドスリープで肉体を若いまま維持し、新天地の開拓に備えた。しかし、全てをAIに任せっきりでは数千年かかるかもしれない旅に不安が残る。そこで、一年交代でクルーの五人が起きて宇宙船の見張りをすることとなっていた。


 千年に一度の任務が訪れた。俺は五人の仲間達と共に、棺桶より一回り大きいだけのベッドで目覚めた。五千人のベッドが立体的に並ぶ光景は壮観で、巨大な蜂の巣の様だ。


 一年間、船を見まもってきた前の五人と引き継ぎ業務を行った。最後にパーティを行ってから、彼らを千年の眠りにつかせた。俺達五人は、一年間の旅の番人となった。


「今頃、地球はどうなっているのだろうか」


「七百年以上も経っているのだから、知り合いはおろか子孫だっているかどうか分からないさ」


「滅びていなければ良いけど」


「出発した時の環境を考えれば全滅だってありうる」


「そうだな。だからこそ、俺達が最後の人類としてなんとしても繁栄できる惑星を探し当てなければならない。俺達ならできるさ。五千人もの仲間がいるのだから」


 暗い気持ちになる仲間を俺は励ました。


「そうだな」


 こうして俺達五人の一年間の生活が始まった。基本的に船の運航も惑星の調査も全てAIがおこなっているので俺達がすることは何もない。地球から持ってきた膨大なビデオ資料を観たり、トレーニング機器で運動などをしながら気ままな一日を過ごす。


 十ヶ月ほど経過し、そろそろ繰り返しの生活に飽きかけていた時だった。AIが突然告げた。


「居住可能惑星発見。進路を変更します」


「まじかよ!やったぜ。俺達、ラッキーだ」


 五人の盛り上がり様と言ったら、それはもう大変なものだった。それはそうだ。遂に人類の悲願、子孫繁栄の地が手に入るのだ。俺達はAIに惑星の映像を映し出させる。青い海、緑生い茂る大地。失われた地球の姿を期待する。


「えっ?真っ白い球じゃん」


「氷の惑星か・・・。まあ、寒くても水があるだけましか。テラフォーミング装置で温暖化ガスを発生させて数百年ほど時間をかけて改良するしかないな。それまでは衛星軌道上をコールドスリープで周回するか。知的先住生物と血みどろの戦争をするよりずっとましだ。俺達はツイている」


「地表温度23度、湿度40%。大気の組成は地球と同じ。地上表面の物質の組成はケイ素の粉体。山も海も存在せず。水はケイ素中に含まれている模様。地中には炭素や鉄など生命維持に不可欠な分子も確認できます」


「すごいぞ。地球とは大違いだが、整地も土地改良も不要とは。これなら直ぐに俺達の基地が作れる。地球から持ち運んだ種や動物たちの胚を使って地球を再現できる。これぞ正に神様の贈り物だ」


 俺たちは宇宙船に眠る四千九百九十五人を叩き起こして、この惑星に移り住んだ。なにしろ生物が一切いないので、天敵になるものや感染症の病気もなく、日照りや冷害もない。持ち込んだ植物は健やかに育ち、動物たちは地を駆け回った。ここは地上の楽園だ。


 ある朝、目が覚めると見知らぬ宇宙船が舞い降りてきた。


「あんたら、おいらの商売道具に、何、かってに住みついてんねん」


 タコの様な異星人が一人、飛び降りて叫ぶ。


「この惑星はな。おいらが金持ちの宇宙人に売るために作ったんだべ。あーもう。手あかがついたじゃんかよー。一回でも人が住んだら中古品だべ。どないしょっと。弁償してくれるんかいな。欲しかったら、この契約書にサインして、金を払わんかい」


「へっ。売り物だったのですか」


「見りゃーわかるだろ。こんな人工的な惑星が何処にあんねん」


「まあ、その・・・」


「おいくら位するのですか」


 俺は恐る恐るタコ星人に聞いた。


「一兆ビルだ」


「ビルと言うのは?金(きん)で換算するといかほどに」


 俺は冷や汗をかきながら質問した。金は重すぎて宇宙船には殆んど積み込めなかったのだ。かと言って紙幣が通用するとも思えない。


「金?ああ、ゴールドか。そんな食えもせず、柔らかすぎて武器にもならない金属などに価値はない」


「では、我々はどんなもので支払いをすればよろしいでしょうか」


「ん?お前ら臭うぞ。まずは風呂に入れ。話はそれからだ」


「五千人がですか。分かりました。すこし時間をください」


・・・・・


「全員、お風呂に入りました」


「うむ。次はこの上に転がって、中のパウダーを体全体にまんべんなくまぶせ。これは体を殺菌、毒を中和して清めるものだ」


「それが終わったら、この液体に浸かるのじゃ。この液体は筋肉を柔らかくして、ストレスを取り除く。徐々に熱くなって味が浸透・・・」


 ん?どこかで聞いたような。やたらと注文が多い。


「あのー。宇宙人さん?口からよだれが垂れているんですけど」


 俺達、五千人が束になって宇宙人を取り押さえた。今晩の夕食は久しぶりにタコのスープだ。一口しか飲めないが、宇宙人の味付けも悪くない。






おしまい。

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