宇宙人襲来

 僕は朝のニュース番組を観ながら、のんびりとトーストにかじりついていた。今日もまた、かわり映えのしない繰り返しの一日が始まろうとしている。毎日、毎日、牢獄の様なブラック企業に出社し、生産性の欠落した事務仕事を続ける。


「まあ、給料が出て、死の恐怖もなく生きていけるだけ幸せか」


 朝のニュース番組は、戦争孤児となった少女の物語を特集として報じていた。僕なんかがどうにかできるとは思えない、遠い世界の話だ。遠くの悲劇よりも、身近な現実。『働き方改革』なるものが叫ばれる中、一向に改善しない職場環境を呪ってしまう。


「行きたくねーなー。どうせ僕の仕事なんて、世の中の何にも役立っていない。てか、アホ課長の出世の手助け。よいしょ要員だものなー。社長に常務、部長に『イエス』意外の言葉を放ったことがないイエスマン課長。そいつの部下だもんなー」


『大変です。巨大なUFOが出現しました。アメリカ、中国、ロシア、ドイツ。各国の主要都市の映像を生中継でお知らせします』


 突然のニュースに僕はトーストを落としてしまった。大丈夫。五秒ルールでまだ食べられる。僕はそれを拾い上げて口に入れ直した。


「マジかよ。会社行くのやめようかな。てか、行かなくていいよね。大事件だもの」


『大変です!巨大宇宙船から宇宙人が続々と上陸してきます』


「すっげー。SFみたいだ」


 僕は画面にかじりつく。


 ドサッ!


 隣の部屋の住人がずっこける音。僕の住んでいるアパートは家賃と壁の厚さが連動している。おかげで隣人の行動が筒抜けになる。もちろんこちらの行動も。なのでいつもはお互いにひっそりと暮らしている。


 ガサ、ガサ。


 慌てて荷物をカバンに放り込んでいるのだろうか。避難するったってどこに逃げるっちゅうのよ。


『うわー!攻撃してきました。光線銃みたいなものを持って、ビームを放っています。うひょー。戦車が一撃で吹っ飛んだ。げげー。戦闘機も・・・。人類の通常兵器はまるで無力です』


 ドッカン。バッタン。


「だからー。慌てたってしょうがないだろ」


 僕は隣りに聞こえる様に少し声を張り上げた。


「助けてください。お願いします!」


 壁の向こうから若い女性の声。はじめて聞いた。お隣さんは女性だったのですか。知りませんでした。そうと知っていれば・・・。いや、間違いなんて起きないか。そんな勇気も金もないし。


 ボゴーン!!!


「うっそ」


 壁を突き破らないでください。


 って美人さん?芸能人?かわいい。


 いや、でも、アパートの壁が!弁償するのにいくらかかるんですか。これっ。


 まいっか。僕が壊したわけじゃないし。


 うわっ。壁が無いと言うことは・・・。お隣さんと共同生活!美少女とラノベ的展開があるやも。ヤバイ。


 って、パニクっている場合か?


「お願いです。追われているんです。助けてください」


 可愛い顔で泣かれても。僕に何ができるって言うのよ!


「追われているって、あれにですか」


 僕はテレビを指さす。うわっ。ニューヨーク、全壊しているし。


「はい。地球に隠れていたのに見つかったみたいです」


「キミ、もかして宇宙人?」


「そうなります」


「地球が襲われているのはキミのせい?」


「はい」


 そんなに簡単に肯定されても。


「何で追われているの?」


「私がアンドロメダ星雲の統一女王だからです」


 星雲、丸ごと一個かよ。銀河連邦みたいだ。規模がデカすぎる。んぎゃ。北京も、パリも、ロンドンも火の海!


「捕まったらどうなるんですか」


 SF映画だと、悪の皇帝が宇宙を蹂躙するとかいい出すんだろうなー。んで、僕がヒーローとかにまつりあげられて死線を行き来する羽目に・・・。物語ならともかく、現実を考えたらブラック企業の方がよっぽどマシだよな。


「連れ戻されちゃいます」


 あんな凶暴な連中から逃げて来たのか!こんなかわい子ちゃんを追い出したら男が廃る。でもなー。あの光線銃で撃たれたら痛そうだよなー。てか、死んじゃうよね。間違いなく。


「アンドロメダ星雲の統一部隊とかが救援にきたりしないのですか?」


「何を言っているのですか?あれがアンドロメダ星雲の統一部隊です。私を迎えに来ました」


「迎えって!」


「家出したんです。私」


「はあっ!星雲レベルの近所迷惑じゃんかよ」


「だって。お城から出てみたかったんだもの」


「地球の為にお帰り下さい」


「けち!」






おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る