地球侵略
我々は数十万光年の彼方から、遥々と銀河系の辺境の惑星、地球へとやってきた。この星の知的生命体『人間』なるものが築き上げた文明は、我々に比べて遥かに稚拙(ちせつ)なものだった。
彼らの持つ軍事力は我々の足元にも及ばず、火薬を使った原始的な銃器や電子装置でコントロールされる原子爆弾などであった。我々の技術をもってすれば、一瞬にして機能不全(きのうふぜん)に陥(おとしい)れることができる。これなら数日で地球上の全てを支配できる。我々はマザーシップから切り離して、軌道衛星上に展開した戦闘ロボットの降下準備をしていた。
「コマンダー、準備が整いました」
「うむ。我々に目を付けられた『人間』どもには同情するが、数十万光年も旅してきた我々だって暇ではない。中途半端に欲深い『人間』どもに苦しめられてきた動物たちを解放し、地球生命の繁栄を支援するためだ。情けは無用だ。これより人類殲滅作戦(じんるいせんめつさくせん)を開始する」
「了解です!」
「ちょっと待ってください。コマンダー、滅ぼす前に『人間』達の文化を記録しておきましょう。文明は幼稚(ようち)でも、我々の発展に役立つヒントがあるかもしれません」
「うむ、それもそうだな。分かった。許可する。それまで、バガボガの実でも食べて長旅の疲れを癒(い)やすとするか」
「早速ですが、大変な事実が判明しました」
「なんだ」
「それが『人間』達の世界には『料理』と言う名の文化があるようです」
「『料理』だと。なんだそれは」
「はい。食べ物を色々と加工し、味付けを変えるもののようです。見てください。このビデオを。ネットワーク上に無数のレシピなるものが発見されました」
「意味がわからん。そんなものに手間と時間をかけても摂取(せっしゅ)できるエネルギーの量は変わらんだろ!合理性を欠いている」
「はい。おかしな種族です」
「うおっ!」
「どうした。まだ何かあるのか?」
「そっ、それが。見てください。これを」
「慌てるな。モニターに映し出せ」
「・・・」
「なっ、なんだこれは。手から炎が飛び出したり、物体を空中に浮かべたりしているではないか。そっ、空を飛んで剣を振るうやつまで。あっ、剣先から破壊光線が・・・。あり得ない。科学や物理法則を完全に無視している」
「た、大変です。コマンダー、こちらを見てください」
「ななんと。『変身』の一言で戦闘形態に。こ、こっちは巨大化まで。我々の文明を凌(しの)ぐ技術力だ」
「・・・」
「うわっ!砂の巨人から水の化け物まで。死んだ『人間』が気体となって、襲ってくるものまでいます。こんな形のないものをどうやって破壊するのですか」
「コマンダー、あのう。こんな得体のしれない星を、我々の力で制圧できるのでしょうか」
「・・・。見なかったことにしよう。撤収するぞ!収集したおぞましいデータはすべて消去せよ。この星は触れてはいけない『禁断の惑星』とする。撤退だ」
おしまい。
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