古里の海辺
夏の間、ライフセーバーのアルバイトをしている。
今日はお盆ということもあって人出は少ない。が、夕方に砂浜で見慣れないおっさんがうろうろしているのを見つけた。年季の入った釣具を持っているが、どうも雰囲気が普通じゃない。
俺はそのおっさんに声を掛けることにした。
「おい、おっさん」
おっさんは走って来る俺が見えていたようで、立ち止まって待ち構えていた。
「何用だ」
「あんたここで何してるんだ? 釣りをするなら波止場にでも行ってくれ」
俺が波止場のある位置を示すと、おっさんはそっちを向いて目を細めた。
「なるほど、行ってみよう」
おっさんはそっちに向かって歩きだした。
俺はなんとなく気になって、おっさんにもう一回声を掛けてみた。
「なあ」
「まだ何か用か」
俺は肩を竦めた。
「あんた、この辺の人じゃないだろ。
おっさんは小さな溜め息をついた。
「わからぬ。儂の故郷がここでなければ、どこへ帰ればよいのか」
「はあ?」
おっさんが突然わけのわからないことを言い出した。ちょっとボケが入ってるのかもしれないな、と俺は思った。
その次におっさんはこう言った。
「儂はただ、苛められていた亀を助けただけなのだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます