第57話「お前、エスパーか?」
中野に誘われ、涼奈と三人で旅行にやってきた。
……まではよかったんだが。
「ん? どうかした、涼太郎」
「……いや、何でもない。うん、なんでも……」
なんでも、あるんだよなぁ……。
どうして中野は、知り合いとはいえ、男と同じ部屋で寝泊まりすることに何の違和感も覚えないのだろうか。
相手が俺だから……と考えるのは、若干おこがましいだろうか。
いや実際、中野からハッキリと好意を伝えられている以上、そう考えるのも致し方ないというか。まあ……俺だから、なんだろうな。
それに関しては、別に悪い気はしない。
俺だって男だ。告白を断った相手とはいえ、同級生の女子と一晩同じ部屋だなんて……そりゃ、どっちかと言えば嬉しい。
けど……やっぱり、色々複雑だ。
「杏子さん、冷蔵庫ってどこにあります?」
「ああ、それなら階段を降りて、右側の部屋に……」
そしてもう一人。
涼奈も、同じ部屋で寝泊まりすることになっている。
涼奈に関しては、兄妹ということもあって、そこまで緊張することもない。
ないけど……最近、涼奈はずいぶん俺に対してのアプローチが強くなってる気がするからなぁ。
中野と同じく、涼奈からも明確に好意を伝えられていて、血の繋がりもないと来た。
これもまた、なんとも複雑なところである。というか、この状況色々と凄いな。自分で言うのもなんだけど……。
告白を断った二人と一緒に旅行をして、同じ部屋で寝泊まりをする。
……ここだけ聞くと、とんだ野郎だな。俺は。
「涼太郎、なんか余計なこと考えてるでしょ」
と、現状について色々と考えていると、中野から声をかけられた。
知らない間に、涼奈はいなくなっている。今、ここには俺と中野、二人しかいない状況になっていた。
「余計なこと……どうだろう、これは果たして余計なのかどうか」
「おおかた、この旅行に来てよかったのかなとか、そんなところじゃない?」
「お前……エスパーか?」
なぜ分かった。
「そんなの、涼太郎の表情を見ればわかるよ。一年ちょっととはいえ、涼太郎とは毎日顔を合わせてたわけだしね。何を考えるかなんて、想像するのはたやすいさ」
「……なんだろうな。これからもお前には、隠し事が出来ないんだろうな」
「そうだね。ちょっとした表情の変化にも気づけるよ。もちろん……対涼太郎に限っての話だけど」
「……はぁ。いらない能力を得てしまったな、お前は。……まあ、中野の言う通りだ。この部屋もそうだけど、この旅行自体、本当に来てよかったのかなと少し思ったわけだ。ほら、一応俺は、お前たちのことを……」
「振ったんだよね、涼太郎は」
「うぐっ──」
そうだけども。
ハッキリ言われると、申し訳なさでいっぱいになる。
「ふふっ、冗談だよ。そもそもこの旅行は、僕が二人に迷惑をかけてしまったことへのお詫びなんだ。涼太郎が気にすることなんて、何一つないよ」
「まあ、そう言ってもらえるのはありがたいが……」
「同じ部屋にする理由はないだろって、言いたいんでしょ?」
「……」
沈黙。それ即ち、肯定。
「それに関しても、僕なりの考えがあってのことだから。涼太郎と涼奈ちゃんには、事前に説明しなかったのは申し訳ないと思うけど……」
「考え?」
「僕はね。この旅行で、三人に残る微妙なわだかまりを、全部なくしたいって思ってるんだ」
わだかまり……?
「この間の出来事があって、結果的には無事解決したわけだけど……どうしても、三人の中で、色々考えちゃうこともあると思うんだよ。今の涼太郎にしてもそうだし、行きの電車での、気の使い合いみたいなのもそう」
なるほど……確かに、中野の言うことは少しわかる。
あの出来事から、それほど日は経っていない。表面上は元通りになったとはいえ、実際にお互い、まだまだ思う所はあるだろう。俺だってそうだ。
「だから、この旅行を通して、それが少しでもなくなればいいなと思ったんだ。同じ部屋にしたのは、なるべく一緒の時間が増えれば、それだけ早く元に戻れるんじゃないかってね」
「うーん……まあ確かに、一緒にいる時間が長くなれば、少しずつ慣れてくるかもしれないけど」
「うん。だから、この旅行では、なるべく三人で一緒にいる時間を作りたいと思ってる。だから涼太郎……」
「……ああ、分かった。俺も、中野の考えには賛成だからな」
「そっか、ありがとう」
完璧に……とはいかないだろうけど、この旅行を通して、少しずつ俺たちの関係も前進していけばいいなと思う。
「さて、それじゃそろそろ海に行こうか。準備しよう」
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新しい妹作品を投稿しました。
タイトルは『実家を出て一人暮らしをしている俺のもとに、妹が突然あがりこんできた。』です。
大学を舞台に、ブラコン全開の妹が色々暴走する話です。ぜひ、こちらも宜しくお願いいたします!
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