第55話「お兄ちゃんの、好みが知りたい」
「水着を買いに……ですか?」
旅行の誘いを受けた日の夜。
急に杏子さんから連絡が届き、いったい何事かと思ったら……一緒に、水着を買いに行かないか、という誘いの電話だった。
『うん。来週まで、あまり時間がないからね。明日の放課後にでも行こうかと思っていたんだけど……涼奈ちゃんも、一緒にどうかなと』
水着……確かに、新しいの欲しいなぁ。
去年は受験だったりで泳ぎに行けなかったし、今持ってる水着といえば、中二の時に買ったやつと、スクール水着しかない。
流石に、中学生の頃の水着ってのもあれだし、スクール水着なんてもっての外。
それに、今年はお兄ちゃんと一緒に泳ぎに行くわけだし……うん。ここは、絶対に新しい水着を新調した方がいいよね。
……こ、今年は思い切って、ちょっと派手なのにしてみたり。
『涼奈ちゃん?』
「へ……? あ、ごめんなさい! 水着ですよね、ちょうど私も新しいの欲しいなって思ってたので、ぜひ!」
『ふふっ、良かった。それじゃ、放課後にまた』
「はい。楽しみにしてます」
……水着かぁ。どういうのが、お兄ちゃん喜ぶかなぁ?
ひとまずパソコンで通販サイトをチェックしてみる。水着自体にも色々な種類があるし、例えばビキニを選んだとしても、そこから更に細かい種類に分類されている。
せっかく買うなら、お兄ちゃんの好みに合ったのを選びたいんだけど……私、お兄ちゃんの好きな水着のタイプなんて、分からないしなぁ。
うーん……、かといって直接聞くのも難しいし。
と、そんな時。あることを思い出した。
「……そういえば、虹グラにも水着イベントってあったっけ」
あのシーンでは、主人公とヒロイン四人が、一緒に海へ行く話だったと思う。
それで、確か……。
「……うん、やっぱり四人とも違うタイプの水着だ」
ゲームを起動し、ギャラリーページを開く。
そこで、海イベントのイラストをチェックすると、ヒロイン四人が別々の水着を着ていた。
……また、虹グラを使ってお兄ちゃんにアプローチするのかと、若干悩ましいところではあるが。
「けど、それで好みを外しちゃったら、勿体ないもんね……」
もっと怖いのは、逆に杏子さんが、お兄ちゃんの好みを知っている可能性もある、という所だ。
私と比べて、杏子さんのプロポーションは完璧に近い。
出ているところはしっかり出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。
……正直、胸の大きさに関しては、断然負けている。あの杏子さんが水着になるとなれば……流石のお兄ちゃんも、少しは意識しちゃうはず。
そうなると、こっちは別の方法で攻めるしかない。
お兄ちゃんの好みを把握する。それが、水着でお兄ちゃんにアプローチするためには、必要不可欠なのだ。
「……ええっと、このイラストをダウンロードして、スマホに送信して……」
ゲーム内のイベント絵をPCに落とし、スマホに送る。
そしてそれを、お兄ちゃんのLINEにメッセージを添えて……。
「送信っと」
お兄ちゃん、どんな返事をくれるかなぁ……。
■
──ピコーン。
ベッドに横たわり漫画を読んでいると、枕元に置いてあったスマホから、通知音が聞こえてきた。
この音は、LINEだな。誰だろう、こんな時間に。
悠一辺りが、またしょうもないことを送って来たか……それか、もしかしたら中野かもしれないな。今日、旅行の話とかしたし、そのことかも……。
「……ん、涼奈?」
そんなことを考えながら電源を付けると、通知欄に表記されていた名前は『高垣涼奈』の文字。更には『画像が送信されました』という言葉と、『どの子が一番好きだった?』というメッセージで。
……駄目だ、LINEを開かないと、内容が分からんな。
いったい何事か……と思い、パスコードを入力しメッセージを開くと。
「……なっ。こ、これは……」
そこに表示された画像には、見覚えがあった。
これは確か、虹色グラフィティに出てくるキャラクターたち。
そして、俺の記憶が正しければ、これはみんなで一緒に海へ行った時のイラストだったはず……。
「……え、どういうこと?」
そこまでは理解できた。
だが、どうして涼奈がこのメッセージを送って来たのか。それに関しては、まったくと言っていいほど、見当がつかなかった。
「何これ、俺は何か試されているのか……?」
以前の一件以来、涼奈から虹色グラフィティに関する話題が出ることは、ほとんどなくなっていた。
無論、俺から話をすることもないので、すっかり忘れかけていたが……突然、こんなメッセージを送られたら、流石に動揺してしまう。
どの子が一番好きだった?
これはそのまま、イラストに映っている四人のうち、どの子が好みかを問うているんだろう。
正直、妹キャラの奏以外攻略していないので、どの子が好きかと聞かれても……と思うのだが、この場合、見た目で回答しろということか?
だとすれば、個人的な話をすれば、俺は主人公の幼馴染キャラである、
見た目もそうだし、特にこのイラストに関しては、普段控えめな性格の彼女がちょっとだけ大胆な水着をチョイスした……というシーンでもあり、そのギャップに惹かれたのは事実。
とはいえ、涼奈や悠一ほどゲームに思い入れがあるわけではないので、あくまで「可愛いなぁ」くらいの感想だったんだけど……それを正直に答えていいのか?
「……けど、そう答えるしかないよなぁ」
質問の意図が分からず、思ったことをそのまま入力していると。
「……待てよ。この場合、奏って答えないと駄目なのか?」
涼奈が俺に好意を抱いてくれていることは知っている。そして、涼奈にとってこのゲームに出てくる妹キャラの奏を、自身に重ねてみていたことも、俺は知ってしまっている。
で、あれば。
ここで涼奈の満足する答えとは即ち、奏という回答なのではないのか……?
けど、奏を選んだら、涼奈はどう思うだろうか?
だ、駄目だ。考えれば考えるほど、全く分からない。
そもそも、この問題に答えがあるのかも、どういう意図があるのかもさっぱりだ……!
そうして、悩みに悩んだ末。
「……全員同じくらい好きだったけど、強いて言うなら、若干奏が気になっていたかなぁ……と」
何だか優柔不断っぽい回答になってしまったが、答えが全く分からない以上、そう返すしかないだろう
どんな返信が返ってくるのかは分からないが……。
『そっか、ありがとう。参考にするね』
やがて、五分後に届いた涼奈からの返信を読み。
「……さ、参考にするって、何を!?」
余計、この問題が分からなくなってしまった……。
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