第50話「それが、聞きたいんだよね?」
「土曜日のことで、俺と少しだけ話す時間をくれないか?」
『……はぁ。どうやら、涼奈ちゃんから話を聞いたみたいだね』
言わずとも、どうしてここに俺が来たのか。
分かっているみたいだ。
「ああ、正直に全部話す。涼奈から聞いたんだ、お前が……その、この間の土曜日のことで悩んでるって。すまん、お前が部活を休んでたのは知ってたけど、まさかあの時のことが理由だったとは思わなかった」
『…………』
涼奈に教えてもらうまで、どうして中野が部活を休んでいるのか気づかなかった。
「なら、尚更だ。お前とは、ちゃんと話をしておきたい。それに……ずっとこのままってのは、俺も嫌だ」
きっと、今の中野は、俺や涼奈と距離を置きたいんだろう。
だから、部活にも来ないし、教室に行っても顔を見せない。
……けど、だからと言って。
いつまでも今のままってわけにはいかないだろう。
きちんと話をして、解決しなきゃいけない問題だ。
中野は俺の──大事な、"友人"だから。
「お邪魔します」
結局、あの後中野から、自宅への訪問許可が下りた。
涼奈との一件でお邪魔して以来、二度目だ。
「……ふぅ。やっぱり来たんだね、涼太郎」
あまり見ることのない、部屋着姿の中野。
今日は、随分とラフな格好だ。
「ああ。お前としては、来てほしくなかっただろうが」
「そんなことは……まあ、否定しないけどね」
どこか、気まずい空気が流れる。
こうして中野と二人の時間なんて、今まで何度も経験してきたはずなのに。
今日は、いつもと違う。言わずとも、それが分かった。
「……さて、と」
先に切り出したのは、中野だった。
「土曜日のことで、話があるんだよね」
「ああ」
「土曜日っていうのは、この間の……雨宿りをした、あの日のことで間違いない?」
「そうだ。前に、お前も聞きたがっていたよな。俺の様子がおかしくて、自分が何かしてしまったんじゃないかって」
「……そうだね。そして、そのことは涼奈ちゃんから聞いた」
やはり、あの日口を滑らせてしまったことを、今度は涼奈が中野に喋ってしまったのか。
そうすると、もう直球で話をした方がいいだろうな。
「……ここまで来たら、もうストレートに聞く。中野は話したくないことかもしれないけど……」
「いや、別に構わないよ。僕も、いつまでもこのままって訳にはいかないと思っていたから。涼太郎を家に上げたのも、覚悟を決めたからさ」
そう言いながら、一つ息を吸って。
「……あの日、僕が言ったことは本当か。それが聞きたいんだよね」
中野は、そう言葉を口にした。
本人の言う通り、俺は今日、そのことを尋ねにここまでやってきた。
恐らく、それをはっきりとさせなければ、先には進めないだろう。
「答えは──イエス、だよ。あの時、僕が言ったことは本当のこと」
「……じゃあ、中野は俺のことを」
「うん、ずっと好きだった。もちろん、友達としてじゃない。涼太郎のことを、一人の男性としてね」
どうして、俺なんて。
一体、いつから俺のことを。
中野の言葉を聞き、浮かんできた言葉は色々とある。
ただ、それを口にできなかったのは……。
これじゃ、涼奈の時と同じじゃないか。
あの時、涼奈が俺のことを好きなんじゃないかと思うような出来事があって。
それで、涼奈本人にそのことを問いただして、そうして俺は、涼奈のことを傷つけてしまった。
もう二度と、同じことはしちゃいけない。
そう思っていたはずなのに……俺はまた、中野に同じことをしようとしている。
いや、もうしてしまっている。
そのことに気が付いて、中野からの言葉に、うまく返事が出来なくなっていた。
しかし、中野は。
「ただ、一つだけ。僕は涼太郎と付き合いたいとか、そういうことは言わないから。だから、安心してほしい」
「……え?」
「きっと涼太郎のことだから、僕に無理やり気持ちを吐き出させてしまったとか、そういうことを気にしてるだろうからね。これだけは、一緒に伝えないと」
「そ、それは……」
見抜かれていた。
前々から鋭いやつだなとは思っていたけど、ここでも俺の思っていたことを全て見透かしていたようだ。
「加えて言うと、別に涼太郎のためを思ってこういう事を言ってるわけじゃないってのも付け加えておくね。これは涼太郎に限った話じゃないけど、僕は誰かと男女の仲になるだとか、そういうことは一切考えられないんだ。だから、涼太郎への思いを口にするつもりも無かった。……だから、今回のことは本当に不測の事態で……。僕も、どうすればいいのか分からなくて、それでしばらく距離をとってたんだ」
いたって冷静な口ぶりで説明をしてくれる。
誰かと男女の仲になるつもりはない……。何か事情があって、そう思うようになったのだろうか──。
「──理由、気になる?」
「へっ?」
「どうしてそんな風に考えるのかって、気になる顔をしてたから」
「……全部ばれてるな、俺」
「涼太郎だけ特別だよ。君は、顔にすぐ出るタイプだから」
「……まあ、今更隠すのも無駄だな。確かに、気になる。けど別に、無理に聞こうとは思っていない。話したくないのなら、俺はそれでも全然いいし……もし、中野がこのことを無かったことにしたいって言うんなら、俺はすぐにでも家に帰る。もちろん、忘れることはできないと思うけど……」
「いや、別にいいよ。ここまで話しちゃったら、もう正直に全部話した方が楽になれる気がするしね。……その代わり」
「その代わり?」
「この際だから、腹を割って全部話したいと思ってる。僕の全部を涼太郎に話すから、涼太郎も、全部話してほしい」
「俺のこと……?」
「ああ、涼太郎のこと。それから……涼奈ちゃんとのこと」
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