第47話「どんな理由があったとしても、私は」

【謝罪】

 前話について、一部修正した箇所があるのでお伝えします。

 具体的な内容に関しては、近況ノートに記載しておりますので、そちらをご覧ください。

https://kakuyomu.jp/users/miya_miya2525/news/1177354054894593977


─────────────────────────────────────────────────────

【本編】


「今日も中野は来てないのか……」


 中野が部活動に来なくなって三日目。

 今日も彼女の姿は、部室に無かった。


 理由もなくサボるような奴じゃないのは分かっているが、彼女の口から何も説明が無いので、どうして休んでいるのかが分からない。

 それだけでなく、毎朝の迎えも来なくなってしまったし、お昼休みも部室に姿を現さないので、ここ数日は一人でご飯を食べている。

 気になって、休み時間の度に中野のクラスへ向かってみるが、いつも姿がない。クラスメイト曰く、休み時間が始まると、すぐにどこかへ消えてしまうそうだ。


「……ちゃんと学校に来てるってことは、部活を避けてるってことなのか?」


 いや、もしかしなくても、俺や涼奈と会うことを避けているのだろう。

 何が理由なのかは分からない。

 知らない間に、中野を傷つけるようなことを言ってしまったか? 


 ううむ、全く心当たりが無いが……。


「お疲れ様ですー。……って、あれ? 今日もお兄さん一人ですか?」

 と、色々考えていると、新入部員で、涼奈の友達の芹沢さんが一人で部室へやってきた。


「あ、そうだね。中野は今日も休みみたいだし、悠一は相変わらずのサボりだ」

「あー、伏見センパイ今日もいないんですね……」


 悠一の休みを聞き、明らかにテンションが下がった様子。

 ここまで露骨だと、流石の俺でも、芹沢さんが悠一に対して何らかの好意を持っていることは分かる。

 確かにあいつは、中身こそあんな感じだが、顔だちは結構いい方だしな。

 ひょっとして、部活に入部したのもそれが理由だったりするのだろうか。


「そういえば、涼奈は? 一緒じゃなかったの?」

「あっ、そうでした。実は涼奈、今日は用事があるから先に帰るそうですよ」

「え、もう帰ったの」

「はい。……なんか、涼奈ここ最近変なんですよねー。どこか上の空っていうか。お兄さん、何か心当たりとかありません?」

「涼奈が変……んー、言われてみれば……」


 確かに、最近どこか様子が変だなとは思っていた。

 芹沢さんの言う通り、時折ボーっとする時間が増えたり……それに、中野が来なくなってからも、特にそれを気にする様子も無くて。


 心当たり……無いわけじゃない。

 この間、ついうっかり中野のことを喋ってしまったあの出来事が関係しているのであれば、それを芹沢さんに話すわけにもいかないし……。

 一応、誤解されないようにきちんと説明はしたが……どうなんだろう。やっぱり、あの一件がきっかけだったりするのだろうか。


「……ごめん、俺も良く分からないな」

「そうですかー。……で、今日はどうします?」

「そうだね。二人しかいないし、今日は解散にしようか」

「了解です! あ、お兄さんに一つお願いがあるんですけど……」

「ん?」

「伏見センパイに、部活来るよう言ってもらっていいですか?」

「悠一に……ははっ。分かった、言っとくよ」

「ありがとうございます! それじゃ、よろしくお願いしますね!」


 ……なかなか積極的な子だなと、思わず感心してしまった自分がいた。



「……ええっと、ここだよね?」


 地図に示されている場所は、間違いなくこの場所。

 目の前にそびえ立つ、見るからに高級そうなマンション。


「杏子さん、いるかな……」


 ボランティア部の顧問、鷹野先生に教えてもらった住所をもとに、杏子さんの家へとやってきた。


 理由は一つ。この間の話が、まだ途中だったから。

 どうしてお兄ちゃんに告白したのか。その質問に対して、明らかにうろたえた様子を見せていた杏子さん。


 もしかしたら、私の認識と、杏子さんの認識に大きな違いがあるのかもしれない。

 だから、ここ最近杏子さんが私たちを避けるようになった。

 そう考えて、もう一度ゆっくり話をしなきゃいけないと思ってここまで来ちゃったけど……出てくれるのかな。


 ──ピンポン。


 エントランスへと足を運び、部屋番号を入力してチャイムを押す。

 ガチャ、という音が聞こえてきた。どうやら、家には帰っていた様だ。

「……やあ、涼奈ちゃん。申し訳ないけど、今日はちょっと立て込んでてね」


 少しだけ無言が続いたのち、普段よりも低めのトーンで杏子さんは返事をくれる。


「あの、杏子さんが私たちを避けてるのって、私があの話をしちゃったから……ですよね」

「──……」

「あの時の話の続きをしたくて来たんですけど……難しそうですね」


 返事がない。

 無言ということは……多分、そういうことなんだと思う。

 だったら、仕方ない。杏子さんが話したくないのなら、私の思いだけでも。


「私、杏子さんにどんな事情があるのかとか、よくわからないですけど……だからといって、お兄ちゃんのことを諦めたりとか、そういうことは考えてないです」

「──……」

「……ええっと、それだけです。また、話したくなったら連絡ください」


 そう言い、マンションを後にする。

 初めて杏子さんから、お兄ちゃんに対する好意を聞いた時に思ったことと同じ。

 杏子さんにも、色々な事情があるんだと思う。だけど……だからって、私はお兄ちゃんのことを諦めたりだとか、そういうつもりは無い。


 だから、こんな状況だけど……。



「──お、涼奈。お帰り」

「ねえ、お兄ちゃん。前に言ったこと、覚えてる?」

「前に言ったこと? えっと、なんだっけ……」

「デートのやり直し。今週末、一緒にお出かけしたいな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る