第37話「雨、降ってきたな」

 そうして、週末がやってきた。

 新たに部活へと通い始めた二人を加え、俺たち五人は海岸でのごみ拾い清掃を行うべく、電車を乗り継ぎ海へとやってきた。

 県内でも観光地として有名なこの場所は、丁度シーズン入りを目前に控え、この時期に海岸をきれいに清掃しようということらしい。


「意外と遠かったなー」


 目的地に到着するや、悠一がそう口にする。

 確かに、思ったよりも遠い道のりだった。四十分くらいは電車に揺られていたか?


「でもでも、電車の中で色々お話しできて楽しかったですよ!」


 そんな悠一の言葉に反応を見せたのは、新加入のメンバー、芹沢さん。

 ここ数日、悠一によく声をかけているのを見かける。


「さてと、それじゃ集合場所へ行こうか。こっちだよ」


 そんな二人のやり取りを眺めていると、中野の声が聞こえてきた。

 口ぶりから、どうも集合場所までの道のりを熟知しているらしい。


「中野、場所知ってるのか?」

「ああ。ここは昔、来たことがあるからね」


 なるほど、海水浴か何かだろうか。

 とにかく、知らない場所で道に詳しい人間がいるのは助かるな。



『えー、みなさん。お集まりいただき、ありがとうございます』


 やがて、中野の案内のもと会場まで到着した俺たち五人は、各々軍手にゴミ袋という『THE・ゴミ拾い』の格好で、主催のおじさんの挨拶に耳を傾けていた。


『今日は天気が崩れるかもしれませんので、充分注意して──……』

 

 そういえば、予報だと午後から雨が降るかもしれない、みたいな話をしていたような。

 流石に雨が降る中ゴミを拾うのは辛いものがある。

 

 その後の説明を聞いた感じだと、ひとまずグループに分かれて海岸周辺の清掃をすることになるらしい。

 俺たち五人は、全員で同じグループに所属する……のかと思っていたが。


「あの三人にして、大丈夫なのか……?」


 何故か俺と中野が二人で行動し、涼奈と悠一、そして芹沢さんの三人が同じグループに所属するという、仲間割れが発生したのであった。

 理由は定かではないが、どうにも涼奈もこの案に乗る気らしい。

 何やらサポートがどうのとかって言葉が聞こえてきたが……一体、何のことだか。


「さてと。それじゃ涼太郎、僕らも始めようか」

「あ、ああ。そうだな」


 三人は、駅の近くを清掃することとなり、俺と中野はその正反対の、若干人気のなさそうなところでゴミ拾いをすることとなった。

 当然、俺たち以外にもグループメンバーはいるが……こちらの人数は、若干少なめに構成されている。


「……なんというか、若干心配だな。あの三人」

「まあ、大丈夫だと思うよ。ただゴミ拾いするだけだしね」

「まあ、そうだけど……」


 涼奈と芹沢さんは友達同士だからいいけど、悠一は大丈夫なのか。

 そんな心配をしつつも、今更どうすることもできず……結局、中野とともにゴミ拾いを始めることに決めた。



「……ふぅ。疲れた」

 やがて、二時間近くが経過した。

 すっかりゴミ拾いに集中してしまい、当初の集合場所から随分と離れた場所までやってきてしまったことに気づく。


「なんか、ずいぶん遠くまで来たな」

「そうだね。そろそろ戻ろうか──っと」


 気づけば他のグループメンバーも見当たらず、一度集合場所へ戻ろうとしたその時。


「──雨、降ってきたな」


 先ほどから、若干曇り気味だなとは思っていたが、ついに雨が降ってきてしまった。

 しかも、降り始めてすぐに勢いを増し、わずか数十秒で土砂降りというレベルまで達してしまう。


「おいおい、かなり強いな。どうする?」

「そ、そうだね。このままだと風邪を引いてしまう……とりあえず、近くに休憩所があったと思うから、そこへ行こうか」

「休憩所?」


 そんな場所があったのか。

 そういえば、中野はこの辺りに来たことがあるって言ってたな。


「よし、それじゃ走るか!」


 ひとまず雨を避けるため、中野についていき、簡易的な屋根と椅子のある休憩所へと走って向かった。



「……はぁ、すっかり濡れたな」

「そうだね、僕もびしゃびしゃだよ」


 息を整え、中野の方へ視線を向ける。

 すると──。


「……っ!?」


 そこには、全身雨に濡れ、服がぴっちりと体にくっついてしまっている、中野の姿があった。

 体のラインがくっきりと分かる。……その、上も下も。

 おまけに、髪もしっとりと濡れていて……思春期の男としては、反応したくなくても反応してしまう!


「……ん? 涼太郎、どうかした?」


 そんな姿を目にしてしまった俺は、思わず中野から視線を外し、慌てて後ろを向いた。

 さ、流石にその姿を見つめるのは、色々マズい気がする。


「い、いや……何でもない。それより、よくこんな場所知ってたな」


 このままだと、意識しっぱなしになって良くない。

 そう思った俺は、ひとまず話題を変えるべく、場所の話を振ってみる。

 すると、中野は。


「ああ。この辺りには、ウチの別荘があるからね。子供の頃、たまに来ていたんだよ」


 と、ごく普通のことを口にするように、説明してくれた。


「へぇ、別荘ね。……って、別荘!?」

「そうだよ。ちょうどこの休憩所から五分くらい歩いたところだったかな」


 前に中野の家を訪れた時、女子高生が一人で暮らすにしては随分と高そうなマンションだなとは思ったが……もしかしなくても、中野の家ってかなりの金持ちなのか?


「まあ、別荘って言っても、それほど大きなところじゃないけどね。涼太郎、豪華な屋敷みたいなの想像してるんじゃない?」

「いや、まぁ確かに想像上の建物はそんな感じだったけど……普通に、別荘があるって時点で凄いことだと思うけどな」


 この際、大きさとかはどうでもよくて。

 そんなものを実家が所有しているという時点で凄すぎるのだ。


「……ふむ。そうだね」


 やがて、止む気配のない雨を眺めながら、中野は。


「このまま、ずっとここにいるのも何だから……一旦、そこへ避難しようか」

 と、提案してきた。


「避難って……その、別荘にか?」

「ああ。一応、近くに来ることは分かっていたから、念のため鍵を用意しておいてよかった」

「……けど、大丈夫なのか? その、色々と」

「ん? 掃除は定期的にしてくれてるみたいだから、綺麗だと思うよ」


 いや、心配してるのはそこではなく。


「勝手に知らないやつを上げたりして、大丈夫なのかなと……」

「ああ。そういうことか。まあ、黙っていればバレないだろうし……それに」


 ──クシュン。

 思わず、寒さでくしゃみをしてしまう。


「このまま止みそうにない雨を外で待っていたら、風邪を引くかもしれないからね」


【追記】

昨日投稿分にて、複数のコメントで質問があったので回答を。

芹沢さんがこちらを見ていたのは、主人公ではなく隣に座っている悠一を…というつもりで、あのシーンは書きました。

ただ、僕の文章では上手く伝わっていないようで…すみません!

(自分で解説するの、なんか恥ずかしいですね)

そのうち、きちんと分かるように改稿をしていこうと思っているので、よろしくお願いします。

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