第36話「思わず、好きになっちゃいそう」

 そうして、各々自己紹介を始める。

 中野、俺、涼奈と順番に話していき。


「伏見悠一です。一年生の時から一応部員だけど、部活に来たのは半年ぶりくらいか……?」


俺の隣に座る悠一が、そう挨拶を口にした。


「ああ、そうだな。大体半年だ」

「はー。あれからもう半年か……まあ、これからもちょくちょく顔出すかも知れないんで、よろしく。特に一年生の二人はね」

「はい」


 涼奈がそう返事をするも、その隣にいる芹沢さんは、どこか上の空みたいで……。


「芹沢さん?」

「え? あっ、はい!」


 思わず声をかけると、ハッとした表情で返事をしてくれた。

 何だか、さっきから様子がおかしい気がするんだけど……どうしたんだろうか。

 時折、チラッとこちらを見ては、またすぐに視線を別の場所に移したりしてて……俺、何かしたっけ?


「次、芹沢さんに自己紹介をお願いしたいんだけど……大丈夫?」

「わ、わかりました! 私ですねー! えっと、芹沢有紀って言います! 涼奈と同じクラスで、そろそろ入部期限が迫ってるので見学に来ました!」


 元気のいい挨拶をしてくれる芹沢さん。

 入部期限……そうか、もうすぐそんな時期だったな。


「まあ、この時期はウチの部も部員が増えるからね。無所属の生徒がドッと入ってくるよ」

「ああ、そういや俺と悠一が入部したのも去年のこのくらいの時期だったか」


 必ず部活動に所属すること。

 そんな規則があるウチの学校では、珍しいことではないらしい。


「さて。それじゃ次に今後の活動について話をしていこう。さっき鷹野先生にも確認してきたけど、やっぱり一学期中に何か一つ、活動実績を作らなければいけない状況らしい」

「一学期中ってことは、もうあんまり時間がないな」

「ああ。だから、できれば今週にでも動きたいと思う。そこで、だ。実は週末の土曜日、こんな催しがあってね」


 そう言いながら、中野は一枚のビラを取り出した。

 そこに書かれていたのは、海岸のゴミ拾い清掃の案内。

 ここから何駅か離れたビーチで、毎年行われている恒例行事らしい。


「これに参加すれば、実績としては十分だとお墨付きをもらってきたところだよ。条件として、五人以上の参加が必要らしいんだけど……どうだろう、みんな」

「分かった。俺は参加するよ」

「私も、そういうことなら参加します」


 俺、そして涼奈の二人が返事をする。

 デートのやり直し……という話も出ていたが、今週は厳しそうだな。またこれは来週にでも延期になりそうだ。


「んじゃ、俺も参加すっかな。どうせ今週は暇だし、たまにはいいことしないと」


 悠一も同意。

 さて、残るは芹沢さんだけど……。


「あ、私も参加で!」

 と、割とやる気がありそうな様子。

 部活見学という名目で来たと言っていたけど、すっかり部員みたいな感じになってるな。

 まあ、本人が納得してるからいいのか。


「よし。それじゃ、先生には僕から伝えておこう。また連絡するから、そのつもりで」


 ひとまず全員の了承を取り、今週の土曜日、久しぶりに部活動をすることが決まった。

 休みの日ってのが少し面倒な感じもあるが……まあ、たまにはいいか。



 週末の予定を決めてから、これと言って活動することも無かった私たちは、結局十七時前には解散することになった。

 お兄ちゃんと杏子さん。いつものように三人で一緒に帰ろうと準備をしていると……。


「ねね、涼奈。この後時間ある?」

「この後?」


 一緒に部活動へ来ていた有紀から、そんな誘いを受けた。

 この後か……三人で帰って、晩御飯の支度をしようと思ってたんだけど……。


「お願い! ちょっとだけ、相談に乗ってほしいんだよね!」


 そう頼まれてしまったら仕方ない。


「んー、分かった。あまり遅くならないなら」

「やったー! ありがと、涼奈!」


 こうして私は有紀を連れて、つい最近来たばかりの喫茶店へと、また足を運ぶことになった。



「で、相談ってどうしたの?」

「そう! それよ」


 各々注文したドリンクを口にし、本題へと入る。

 なんとなく、部活動のことなんじゃないかな……とは予想がつくけど、内容までは全く見当がつかない。


「実はさ、今日部活の場で会って思ったんだけど……」

「うん」

「ビックリするくらいタイプで、思わず好きになっちゃいそうだったの!」

「ふーん……って、好きに!?」


 待って、有紀が言ってる人って、もしかしてお兄ちゃんのこと……?

 でも、今日部活動でって言ってるし……え、本当に?


「いやぁ、ビックリしたよ。まさか、こんなにも身近に、素敵な人がいたなんて」

「……あのさ、有紀」

「え?」

「その、タイプの人って……誰か聞いてもいい?」

「もちろん! その相談がしたくて、涼奈を呼んだんだし!」


 ……聞くのが怖い。

 そんな、まさかお兄ちゃんなんてことは──。


「──伏見先輩、カッコいいよね!」


 ……。

 …………。

 ………………。


 よ、良かった。お兄ちゃんじゃなかったんだ。


「ん、涼奈どうしたん?」

「い、いや! なんでもないよ。うん、何でも……」

「じゃあ、話続けるね! それで、今週の土曜日なんだけどさ……」


 ……はあ。ビックリした。

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