第28話「ウチに、来ないかい?」
「……暗いな」
玄関を開け、リビングへ向かう。
部屋は真っ暗だった。リビングだけではない、浴室も、階段も、電気がついていない。
ただ、涼奈の靴があったのは確認した。
恐らくは、自分の部屋に戻っているんだと思う。
「……涼奈、ただいま」
閉ざされた部屋に向かって、声をかけてみる。
当然、返事はない。部屋の中から、涼奈が出てくることも。
結局、それ以上何も言うことは出来ず、部屋へと戻った。
「……ふぅ」
自室へと戻り、ベッドへ腰かける。
……これから、どうすればいいんだろうな。俺は。
虹色グラフィティをプレイして、涼奈を水族館へと連れてきた時点で、こうなることは十分に考えられた。
涼奈が、本当の気持ちを喋ってくれるかは分からなかったが……結果的に、涼奈はずっと我慢していたもの、溜め込んでいたものを、俺にぶつけてくれたわけだ。
だから、俺も正直に自分の気持ちを全て返した。
俺は、涼奈のことを妹以上には見ていない。
涼奈の告白を、受けることは出来ない、と。
俺は、誰かに告白をした経験はない。もちろん、誰かに告白をされた経験も。
だからこういう時、どうしてやるのが正解なのか。全くもって答えが出てこなかった。
涼奈に謝ればいいのか?
気持ちに応えられなくてごめん。今まで気づいてやれなくてごめん。
それで、涼奈は納得するのか?
するわけがない。いくら答えが分からない俺でも、それが間違っていることくらい、分かっている。
結局、いくら考えても答えは出てこず。
「……お腹空いたな」
気づけば、帰宅してから三時間近く経っていた。
時刻は十八時。いつもなら、涼奈が晩御飯を作り始めている時間だが……。
「……流石に、今日は」
台所へ行ってみたが、やはり涼奈の姿はない。
まあ、普段の晩御飯が大体二十時前と考えると、まだしばらく時間はあるが……あんなことがあった後だ。きっとしばらくは、部屋から出てこないだろう。
……と、なると。
「俺は良いとして、涼奈はどうするんだ」
俺は良い。最悪、近くのコンビニで飯を買ってくればそれで済む話だ。
だが、涼奈はどうする? 部屋から出てこない以上、自分の飯も用意できないということだ。
もしかしたら、俺が寝た後に外へ出てくるのかも知れないが……正直、少し心配だ。食欲だって、あるのかも分からんしな。
試しに、冷蔵庫の中身をチェックしてみる。
食材として使えそうなものは沢山あったが、どれも調理して初めて口にするようなものばかりで……今すぐここで食べられそうなものといえば、魚肉ソーセージくらいか。
仕方ない。コンビニに行って、弁当でも買ってくるか。
とりあえず涼奈の分も買って帰ろう。もしかしたら、無駄になるかも知れないけど、その時は俺が食えばいい。
そう思い、冷蔵庫を閉め財布を取りに部屋へ戻ろうとすると。
──ブーブー。
ポケットに閉まっていたスマートフォンから、振動を感じた。
「電話か……って、中野?」
着信相手は、中野だった。
とりあえず、電話に出てみる。
「もしもし」
『やあ、涼太郎。急にすまないね。ちょっとだけ、時間を貰ってもいいかな?』
「あ、ああ。別に構わないけど」
中野から電話がかかってくるなんて珍しいな。
『実は、涼奈ちゃんのことでね』
「涼奈!?」
ちょうど今、涼奈に関することで悩んでいたところだったこともあり、突然その名が出てきて思わず驚いた声を上げてしまった。
『……どうしたんだい、涼太郎』
「あ、いや。何でもない……ああ、何でもないぞ。なんでも……」
『……はぁ。その様子だと、涼奈ちゃんとの間に、何かあったんだね』
「……いや、それは」
察しがいいのか、それとも俺の態度がバレバレなのか。
一瞬で、涼奈と何かあったとバレてしまった。
『今日は、せっかく涼奈ちゃんが入部してくれたんだから、何か歓迎会みたいなことをしたいなと思って相談の電話だったんだけど……どうやら、その話はあとにした方がいいみたいだね』
「うっ……すまん」
『いや、いいさ。なんとなくだけど、事情は分かるから』
「そうなのか?」
『ああ。どうせ、涼太郎が何かやらかして、涼奈ちゃんとまた距離が出来たとかそんなところだろう?』
「い、いや……それは」
あながち、否定できない。
「……まあ、やらかしたってのは少し語弊があるけどな。ただまあ、色々あって涼奈とまた距離が出来たのは事実だ」
『まあ、事情は聞かないでおくよ。高垣家の兄妹事情に、首を突っ込むのは良くないだろうしね。それで涼太郎は、今なにをしていたんだい?』
「あー、飯をな。どうするか考えていたんだ」
『なるほど。涼奈ちゃんに、晩御飯を作ってもらえないってわけだ』
「……概ね、そんなところだ」
そう答えると、中野は「じゃあ」と言い。
『ウチに、来ないかい?』
と、提案をしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます