第26話「私は、お兄ちゃんのことが」

 小さい頃、俺と涼奈はとても仲の良い兄妹だった。


 それこそ、低学年の頃までは一緒に遊んで、お風呂も一緒で、寝る時も隣同士枕を並べて一緒に寝て……今じゃ、考えられないよな。

 けど、それが俺の日常だった。

 涼奈が隣にいる。それが、俺の当たり前だったんだ。


 いつからだろうか。そんな当たり前が、当たり前じゃなくなったのは。


 ある日を境に、涼奈は俺と距離を作った。

 明らかに、避けられているのが分かった。話しかけても無反応。それまで、俺に向けてくれていた笑顔はすっかり消え、いつしか俺と涼奈は、全くと言っていいほどコミュニケーションを取らなくなった。


 だけど、それは仕方のないことだとすぐに割り切ることもできた。

 兄妹ってのは、得てしてそういうものだと。周りの誰もが、そう言うから。


「涼奈の、本当の気持ちを聞かせて欲しい」


 心のどこかで諦めていたのかもしれない。

 涼奈とまた、こうして一緒に何かをすることは絶対にないと。

 もう、子供の頃みたいな関係に戻ることは無いだろうと。

 きっとそれは、涼奈も同じだったと思う。もし、母さんたちから話を聞かなかったら、きっと俺たちの関係は、何も変わらないままだっただろう。

 だからこそ、俺は知りたいんだ。涼奈の、本当の気持ちを。


 どうして涼奈は、また俺と、こうして言葉を交わそうとするのか。

 どうして、一緒に出掛けようとするのか。

 どうして、一緒にテレビを見ようとするのか。

 どうして、お弁当を作ってくれるのか。


 どうして……兄のことが好きな妹キャラクター『高峰奏』と、同じ行動をとろうとするのか。


「……本当の、気持ち」

「涼奈なら、この質問の意味が、分かるよな?」


 虹色グラフィティをプレイしているはずの涼奈なら、この場所で、このプレゼントを渡し、この質問をする。その意味が、分かるはずだ。

 なぜならこの言葉は……ゲームで主人公が、妹の奏に向けて投げかけた言葉と、一言一句違わないものだったから。


「……お兄ちゃん、虹グラプレイしてたんだね」


 虹グラ……ああ、このゲームの略称か。


「ああ。といっても、プレイしたのはつい最近のことだけどな。悠一から半ば無理やり渡されて遊んでたんだ」


 今思えば、前に部室で虹色グラフィティの話題を出した時、涼奈がやけに取り乱していた理由も分かるな。

 あの時は、好きなアーティストが……なんて誤魔化してたけど、本当はこのゲームのことだったんだろう。


「最初は、今日出掛ける場所の参考になるものがあればと思っていたんだ。恋愛ゲームってのは、あまり触ったことが無かったからな。何か、新しいヒントになるものがあればと思ってたんだけど……プレイしていくうちに、段々と違和感を覚えてきてな」


 少し顔を伏せながら、涼奈は俺の言葉を黙って聞いている。


「妹キャラの高峰奏の行動。それが、どこかで見たことあるものばかりだった。……涼奈が、ここ最近俺に取っていた行動ばかりじゃないかって」


 もはや、偶然で片付けられなくなるほど。

 涼奈の行動の一つ一つを、高峰奏を見ていると思い出してしまい。


「涼奈は、どうしてあんなことをしたんだ? どうして、高峰奏と同じ行動をとったんだ?」

「……だから、私の気持ちを知りたいってことなんだよね?」

「ああ。そうだ」


 俺がそう答えると、涼奈は伏せていた顔を上げ、俺の目をまっすぐと見て。


「もう、今更ごまかしてもしょうがないよね。……わかった、正直に全部話す」


 そう言い、一つ息を吐いて。


「私は、お兄ちゃんのことが好き。大好き。兄妹としてじゃなく、一人の男性として……好きなの」


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