第24話「……繋いでくれたら、嬉しい」
電車を乗り継ぎ、目的地である水族館へとやってきた。
ここに来るのは何年振りだろうか。
子供の頃、両親に連れられて涼奈と一緒に来たのを思い出す。さっきはああ言ったけど、確かにここに来て涼奈が喜んでいたのは、なんとなく印象に残っている。
それが水族館へ来れたことの喜びだったのか、家族一緒に出掛けたことの喜びだったのかは分からないが……まあ、なんだ。この場所に俺と涼奈、二人で来ることになるとはなぁ……。
「……お兄ちゃん、どうかした?」
「いや、何でもないよ」
そんな感傷に浸っていると、涼奈が心配そうに顔を覗き込んできた。
あの頃も、こうやって二人で並んで歩いてたっけ。
そうそう……まだ小さかったから、はぐれないように手を繋いでって、そんなこともしてたな。
と、そんなことを思い出していると。
「あ、あのねお兄ちゃん……その、えっと」
今度は涼奈が、何か言いたげな顔でこちらを見ていた。
「ん、何か忘れものでもしたか?」
「ううん、そうじゃないんだけど……」
一体どうしたんだろうか。何か、言いにくいことでも……?
「正直に言ってくれて良いぞ。今日は涼奈へお礼をする日だからな。できることなら、何でもするから」
すると、涼奈は意を決したように。
「……その、手を」
「手?」
「…………繋いでくれたら、嬉しい」
今にも消え入りそうな声で、そう呟く涼奈。
不覚にも、ドキッとしてしまった。
それが、丁度小さい頃のことを思い出していたからなのか、それとも涼奈の表情や声によるものなのかは分からない。
ただ、この瞬間は確実に。
「──て、手をか!?」
俺は、冷静でいようと決めたことを忘れそうになっていた。
「……ま、まあそうだな。俺に出来ることならなんでもするって約束だったし……分かった、手を出して」
突然のことに、流石に動揺を隠しきれはしなかったが、涼奈の要望を聞き入れるため、スッと右手を差し出す。
すると、おずおずと涼奈は左手を差し出し……弱い力で、ギュッと俺の右手を握った。
……な、なんだこの柔らかさは。
振り返ってみれば、今までの人生、女の子と手を繋いだことなんて一度も……ああいや、子供の頃はノーカウントと考えてだ。
そう。一度もなかった。
そもそも、手を繋ぐような間柄に女の子となることも無かったし、こういうことには縁がなかったから、正直かなり緊張する。
……いやいや、忘れそうになっていたけど、相手は妹だ。
いくら血が繋がっていないとはいえ、妹だぞ……? 何を、そんなに焦ることが。
「それじゃ、行こう?」
「あ、ああ……そうだな。行くか」
あろうかと。言いたかったんだが……駄目だ、これを意識するなという方が無理だ。
そうして、涼奈と手を繋ぎ水族館へと入場する。
ついこの間のように、お互い会話が全くない状態で歩き続けていたが……少なくとも俺は、以前とは違う理由で、涼奈とうまく会話することができなくなっていた。
◆
「……さて、そろそろ行くか」
結局、手を繋いだまま水族館を回り続けた俺たちは、一通り魚を見て回り、館内のレストランで昼食をとっていた。
流石に魚料理を食べる気にはならず、お互いパスタを注文。
そんなちょっとしたことから会話は弾み、ようやく照れくささだったりも薄れてきて……いよいよ、今日のメインイベントへと向かおうとしていた。
『イルカショー』
この水族館の一番の目玉であり、今日俺が涼奈に確かめたいことを聞く場所として、密かに選んでいたイベントでもある。
「次は……イルカショーだよね?」
「ああ、ちょうどこの後14時開始みたいだから、タイミングとしてはばっちりだな」
そういう涼奈は、イルカショーという単語に反応を見せていた。
……やっぱり、涼奈も同じことを思い浮かべているのだろう。ここまで、半分確信に近いところまで来ていたが、改めて涼奈が虹色グラフィティをプレイしていたんだなと思ってしまう。
イルカショーは、主人公と奏、二人の重要なイベントシーンがあった場所だからな。
『──それじゃあ次は、イルカさんたちのジャンプを見ていただきましょう!』
元気なお姉さんの掛け声とともに、三匹のイルカたちが宙にぶら下がったボール目がけて大ジャンプを見せる。
『おおー!』
観客も、それに呼応するかのように盛り上がる。
そして、隣に座ってショーを見ている涼奈も。
「わっ……! すごい!」
すっかりイルカショーに夢中になっていた。
……まあ、なんだ。楽しんでくれているならよかった。
今日の一つの目標だったからな。それを叶えることが出来て、少しホッとした。
……じゃあ、そろそろ俺も準備しないと。
「涼奈、ごめん。ちょっと席を外すけど、大丈夫か?」
「え? あ、うん。それじゃここで待ってるね」
「すぐ戻ってくるから、すまん」
そう言い、一旦席を後にする。
それから俺が向かった先は……入口にあった、お土産コーナーだった。
「……よし、これを買って」
そこで、これから使う"ある物"を購入。
急いで涼奈のもとへ、戻るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます