第23話「今日、確かめるしかないのか……」
「……全然眠れなかった」
高峰奏を攻略していくうちに、徐々に浮かんでくる疑問。
彼女の行うアプローチは、そのどれもが見たことある……いや、実際に体験したものばかり。
ここ数日、妹の涼奈が見せた行動そのものだ。
そうして、一度気になりだすと止まらず……結局俺は、明け方までゲームをプレイし続けていた。
それだけ長時間プレイすれば、ゲームもある程度進行し……気づけば、初めのヒロインである高峰奏のエンディングを迎えてしまっていた。
奏と付き合い、兄妹という壁を乗り越えハッピーエンドを迎える。
シナリオは凄く面白く、確かに悠一が勧める理由もなんとなく分かったが……今は、純粋にゲームを楽しんだという感想よりも、これからどうするかということで頭がいっぱいだった。
「──って、涼奈との約束の時間まで、もうすぐじゃねえか」
時計の針は、五時を指していた。
今日は週末の土曜日。日頃のお礼をするべく、涼奈と出かける日だ。
涼奈の希望で、午前中から家を出る予定になっている。
早く準備をしないといけないんだけど……結局、このゲームと涼奈の関係性も分からないまま、一緒に出掛けて大丈夫なのか?
流石に、ここまで来て俺の考えすぎって線は薄いと思う。
もしかして、涼奈は……。
そんな考えが頭をよぎる。
あの涼奈だぞ。そんなはずない。
一度はそう否定してみるが、先ほど浮かんだ可能性の話を打ち消すことが出来ない。
そうだと考えれば、これまでの行動の辻褄もあってしまう。
「ああもう、考えても分からん!」
時計を見ながら、ずっと頭の中でこれまでの涼奈の行動を振り返ってみるが、いくら俺が考えても無駄だと気付いた。
結局、本当のことは涼奈にしか分からない。
なら、涼奈本人に聞かなければ、話は始まらないだろう。
……今日、確かめるしかないのか。
◆
「涼奈、準備は出来てるか?」
「うん、いつでも大丈夫だよ」
そう言い、部屋から涼奈が出てきた。
白のトップスに緑のロングスカートを身に纏い、ショルダーバッグを提げている。
今まで、涼奈の私服をまじまじと見る機会なんて無かったから……何というか、すごく新鮮だ。
「……ど、どうかな?」
そんな俺の視線に気づいたのか、少し恥ずかしそうに感想を尋ねてくる。
……ぐっ、頭の中に高峰奏がチラついてしまう。駄目だ、落ち着け。冷静に行こう。
「ああ、似合ってると思うぞ」
ひとまず、素直な感想を述べる。
お世辞ではなく、本当にそう思う。
涼奈のイメージにピッタリの着こなし。他の人が同じ格好をしていても、果たして似合ってると思うのか分からない。
とにかく、涼奈にはよく似合っていることだけは間違いなかった。
「そ、そっか。ありがとう……」
今にも消えそうなか細い声で、涼奈が言う。
赤く染まった頬と、照れた表情を見ていると、何だかこっちまで恥ずかしくなってきた。
……涼奈って、結構可愛いところあるな。
今まで、涼奈のことを強く意識したことが無かったので、思わずそう思ってしまった。
って、だから! 冷静に!
「よ、よし。それじゃ行くか」
「う、うん」
若干のぎこちなさを残したまま、俺と涼奈は目的地へ向かうべく家を後にした。
「そういえば、今日はどこへ行くの?」
家を出てすぐ、涼奈から尋ねられる。
そういえば、まだ行き先を伝えていなかったっけ。……といって、さっき決めたばかりなんだけど。
「今日は、水族館へ行こうと思ってるんだ」
「え……す、水族館!?」
「あ、ああ。子供の時、涼奈が喜んでたのを思い出して選んでみたんだけど……嫌だったか?」
「う、ううん。別に、嫌じゃないよ」
そうは言うものの、明らかに涼奈の挙動がおかしくなった。
そんな反応を見て、昨日からずっと考えていた"ある可能性"が大きくなっていく。
涼奈は、虹色グラフィティをプレイしたことがあるんじゃないか?
──俺が水族館を選んだ理由。
先ほど、涼奈には「子供の時喜んでいたのを思い出した」と、それらしいことを言ったが……実際は違う。
『虹色グラフィティ』で、主人公と妹の奏が付き合う前、一番初めにデートで訪れた場所。
それが、水族館だったのだ。
もし本当に涼奈が虹色グラフィティをプレイしたことがあるなら、この提案に少なからず動揺を見せるはず。そう思って提案してみたんだが……。
「そうか。なら、ひとまず駅へ向かおう」
ただ、俺はいつも通りを装う。
涼奈に確かめるまでは、俺が『虹色グラフィティ』をプレイしたことは知られたくない。
この水族館の提案も、あくまで子供の頃を思い出してということで通したい。
……今日は、一応涼奈へのお礼って意味もあるからな。
もちろん、聞きたいことは沢山ある。
けどまずは、涼奈に楽しんでもらいたい。そんな気持ちも、同じくらい持っていた。
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