第19話「悩みと、それに対するヒント」

 涼奈のやつ、なんでわざわざ『デート』なんて言い方したんだろうな。

 日頃のお礼にと、何かできる範囲のことで涼奈の願いを聞いた俺だったが、予想外の返答に少しだけ頭を悩ませていた。

 改めて話を聞いてみると、要するに『一緒に出掛ける』ってことらしいんだけど……だったら、わざわざデートなんて言わなくてもいいんじゃないだろうか。

 男女で出かけることを総じて『デート』と呼ぶのであれば、確かに俺と涼奈が一緒に出掛けても、それはデートになるだろう。

 ただ、俺と涼奈は兄妹だ。

 兄妹が一緒に出掛けることをデートと呼んでいいのか……? いや、この辺はもしかしたら感覚の違いがあるのかもしれない。

 いずれにしろ、俺と涼奈が週末に出掛けることは決定したわけで、今俺がすべきことはこんな正しい呼び方を考えることではなく……。


「いや、どこに連れて行けばいいんだ……」


 授業合間の休み時間、周りに誰もいないことを確認し、ため息交じりにそう呟いた。

 右手に握ったままのスマートフォンに表示されたページは『女子高校生が喜ぶ人気スポット十選』なるサイト。

 映画館、カラオケ、ショッピング……いやこれ、高校生カップルが行きたいデートスポットランキングの間違いじゃないか?

 まあ高校生っていう身分を考えると、これくらいに落ち着くのかなとも思うが、それにしても涼奈が求めているのって、こういうのとは違う気もする。

 そもそも本当に映画やカラオケに行きたいんだったら、別にお礼とか関係なく誘ってくれれば行くしな。以前の仲ならまだしも、今なら普通に楽しめると思う。

 だからこそ、今回はそういう『いかにも』な場所を選ぶのがいいのでは。そう考え、先ほどから色々なサイトを見て回っては、頭を悩ませ続けていたのである。


 今回、涼奈からの要望は二つ。


 一つは、俺が行き先を決めること。

 二つ目は、中野に相談しないこと。


 二番目が難しい……多分、涼奈から言われなければ真っ先に相談へ行ってたはずだ。

 とにかく、俺には圧倒的に知識が足りない。女の子をどこに連れて行けば喜ぶのかなんて、今まで一度も考えたことが無いんだから仕方ないとは思うが。

 ……うん、自分で考えてて悲しくなってきたな。

 それにしても、このままだとマズいな。何か、ヒントになりそうなものが欲しいところだけど……。


「よ、涼太郎。なに難しい顔してんだ?」

 と、そこにやってきたのは悠一だった。

「ああいや、別に──」


 なんでもない。そう返事をしようとして気づく。

 そういえばこいつ、ついこの間まで彼女がいたんだっけ。二週間で振られたらしいけど。

 ……涼奈からの要望は『中野に相談しないこと』だったな。なら、悠一に相談するのはアリか……?

 もちろん、あくまで遠回しにだけど。


「なあ悠一、一つ聞いてもいいか?」

「ん? 別に構わんが」

「悠一は、前に付き合ってたとかいう女の子と、どんなところにデートで行ってたんだ?」


 あくまで興味本位という雰囲気で尋ねてみる。

 すると、悠一の表情は途端に強張り。


「……ってねえよ」

「え?」

「前に付き合ってた彼女とデートなんて、行ってねえよ!!」


 と叫ぶもんだから、教室にいた何人かがこっちを向くが、悠一の顔を見て「また伏見が何か叫んでるぞ」くらいにしか思われず、すぐに日常へと溶け込んでいた。

 ……って、そんなことを気にしている場合ではなく。


「俺だってなあ、利香ちゃんとデートしたくて色々調べたさ! けど、誘う前に振られたらどうしようもないだろ!?」

「……そ、そうだったのか。それはすまん」


 どうやら俺は、悠一のトラウマ的な何かに思いっきり触れてしまったらしい。


「デートでプレゼントを渡すために、駅前のマッグでバイトまで始めたってのによ……結局、プレゼントを買う前に別れたから、残ったのはバイトのシフトだけだわ畜生が!」


 振られてもなお、ちゃんと出勤したのか。偉いな。

 今、話題はそこではないけど。


「……まあ、俺ももうそろそろ吹っ切れた頃だけどな。前も言ったが、今の俺にはこれがあるからよ」


 感情の落差が激しい悠一は、さっきまでキレていたかと思いきや、途端に冷静さを取り戻し。鞄をガサゴソと漁ると、何やらパッケージに可愛らしい女の子が移ったケースを取り出した。


「ほら、約束通り持ってきたぞ。これが『虹色グラフィティ』だ」

「虹色……ああ、前に言ってた」


 そういえば、前にこいつがゲームを貸してくれる、みたいな話あったな。

 約束をした覚えまではないけど……というか、学校に持ってくるとは思わなかった。

 そんな俺の表情を見て、何やら勘違いしたのか。


「ああ、心配するな。俺は虹色グラフィティを三本持ってるからな。プレイ用、観賞用、そして布教用だ。だから、俺がプレイできなくなる心配はない」


 いや、俺が渋い顔をしたのはそういう意味ではない。


「……はあ、分かった。借りるだけ借りとくよ」

 ただまあ、友人の善意を無下にするわけにもいかず、結局俺は虹色グラフィティを受け取り、鞄へとしまった。


「んじゃ、ぜひともプレイして感想を聞かせてくれ! 頼んだぞ!」


 そう言い、自分の席へと戻る悠一。

 ……ま、そこまで薦められるなら、少しだけプレイしてみるか。


 それに、一応は恋愛シュミレーションゲームみたいだし……もしかしたら、週末の参考にできるところもあるかもしれない。

 幸いまだ涼奈との約束まで日もあるし、ゆっくり考えながらこのゲームで遊んでみよう。

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