第18話「今週末、一緒にデートして欲しいな」

「あれから一週間経ったけど……お兄ちゃん、私のことどう思ってるのかな?」

 虹色グラフィティの奏ちゃんに倣って、色々なアプローチを仕掛けてみた。お弁当

を作ってあげたり、勇気を出してソファで隣同士座ってみたり、……その、これは正直どうかと思ったけど、つい脱衣所のカギをわざと閉め忘れてみたり……お陰で、お兄ちゃんとの接点は沢山生まれたし、今まで離れていた距離を縮めるという目的の一つは、少しずつ達成できていると思う。


 多分お兄ちゃんも、少しは私のことを意識してくれている……はず。多分。きっと。


 けど、それが『女の子』としてなのか、『妹』としてなのかは、正直わからない。

 もちろん、前者であってくれないと困る。

 私の最終目標は『お兄ちゃんと結ばれること』であって、お兄ちゃんと仲直りして、これからも仲良く兄妹として過ごしていくことじゃない。

 だからこそ、もっとお兄ちゃんに私のことを意識してもらわないといけないんだけど……お兄ちゃん、かなり鈍感なところがあるから、正直このままだと進展しない気がする。


 そもそも、一年以上一緒にいる杏子さんの好意にも気づいていないみたいだし……はぁ、一筋縄じゃ行きそうにないよね。


 ……でも、杏子さんもお兄ちゃんにアプローチをかけていく、みたいなこと言ってたし、うかうかしてたら駄目かもしれない。

 幸い、今のところはまだ大丈夫そうだけど、それもいつまで続くか。

 気づいたらお兄ちゃんと杏子さんが付き合ってた……なんて展開になったらと思うと……ううっ、頑張って同じ部活に入部して、本当に良かったな。


 けど、逆に助かったりしている部分があるのも事実で。例えば今朝なんかも。


 お兄ちゃんと一緒に学校へ行こうと思ってたけど、上手く誘うことができなくて困ってたから……正直、あのタイミングで杏子さんが来てくれたのは、ありがたかった。

 私も一緒に誘ってくれたし、杏子さんはライバルだけど、すごくいい人だなって思う。

 杏子さんが色々と話してくれなかったら、同じ部活に入るって思いつきも生まれなかったかもしれないし、今日だって、お兄ちゃんと緊張してうまく話ができていないことを指摘してくれたお陰で、明日から頑張って一歩進んでみようって気持ちにもなったし……こうして考えると、なんだか杏子さんには、随分と助けられているような気がする。


 もちろん、杏子さんはお兄ちゃんのことが好きだってハッキリと言ってたし、そんなことはないんだろうけど……明日からは、自分でも頑張っていかなきゃな。

 お兄ちゃん鈍感だし、もっと積極的にならないとダメかも。

 まずは、自然体で話ができるように……小学生の時を、思い出して。

 そんな決意を胸に、私は眠りへつく。

 そうして、うとうととし始めた意識の中で、一つだけ浮かんできた疑問。


『そういえば、杏子さんっていつからお兄ちゃんのことが好きなんだろう……』


 聞いて教えてくれるのかは分からないけど、正直すごく気になる。

 いつか機会があったら……聞いてみよう……かな……。

 


「おはよ、お兄ちゃん」


 涼奈とこうして会話をするようになって、一週間が経っただろうか。

 今朝もいつも通り、涼奈の作ってくれた朝食をいただくべく食卓へ向かうと、やけに元気な挨拶を涼奈からもらってしまった。

 いつもはもう少しトーンが低いというか、クールな感じの喋り方だったと思うんだけど……もしかして、昨日中野に言われたことを気にしているのか?


「ああ、おはよう……えっと、涼奈」

「ん?」

「いや、なんかいつもと違うなって。無理してないか?」


 思わず尋ねてしまう。

 だが、そんな心配は無用とばかりに。


「大丈夫、無理なんてしてないよ。昨日までは……その、お兄ちゃんと久しぶりに話をしたから、どういう態度で接すればいいのかわからなかったけど……」

 でも、と涼奈は続け。

「いつも通りの私でいればいいんだなって気づいたから。だから、別に無理なんてしてないよ。これがいつもの私だから」

「……そうか、それならいいんだ」


 そう言い、朝食を並べてくれる涼奈。

 かれこれ数年喋っていなかったからすっかり忘れていたけど、涼奈の元々の性格って、こんな感じだったっけ。どちらかといえば内向的な印象だったけど、小学生の頃は確かにこれくらい良く喋ってくれていたような気もする。

 まあそれに、最近はたまに慌てた一面とかも見せてたしな……本当に、今までは緊張して固くなっていたんだろうなって思う。正直、俺も涼奈に何を話せばいいか分からなかったからな……お互い、似たようなことを考えて、この一週間ろくに話すことが出来ていなかったんだなと、今になって改めて気づいた。

 けど、どうやら涼奈の方は、無事吹っ切れたみたいだ。

 これは、俺の方も頑張っていかないとな……。

 そんなことを考え、トーストを齧っていると。


「……そ、そういえばさ、お兄ちゃん」

「ん?」

「昨日の話、なんだけど。とりあえず決まったよ」


 昨日の話……そうだ、涼奈に何かお礼をしたいから、内容を決めておいてほしいって話をしたっけ。

 さて、一体涼奈は何を……何か買ってほしいものがあるとか、そういう感じかな?

 幸い、小遣いはそこそこ残っているはずだし、ある程度は大丈夫だと思うけど……。


「今週末、一緒にデートして欲しいな」


 ……で、デート!?

 


【あとがき】

 お世話になってます。

 ちょっとしたお知らせですが、これから過去投稿分を読み直し、一部改稿作業を行っていこうと思っています。

 現段階ですでに日本語がおかしい箇所だったり、誤字脱字が見られたりしているので、そういったところを修正していきます。

 物語自体に影響が出るわけではないのでご安心ください。

 それでは、引き続きよろしくお願いいたします。

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