第13話「お前にだけは、絶対にやらんぞ」

 中野のサプライズ訪問の結果、俺と涼奈、そして中野の三人は仲良く揃って学校へと向かうこととなった。

 今まで一人で登校するのが当たり前だったから、不思議な感覚だ。こうして女の子二人と一緒に学校へ向かうなんて……といっても、一人は同級生の友達、もう一人に至っては妹だけど。

 他愛のない雑談が続く。

 この三人で、一体どんな話をしながら学校へ向かうんだろうかと少し心配していたが、意外にも話は弾んだ。主に、涼奈と中野の間で。

 二人とも、共通の話題である料理について色々話しているみたいだ。普段はどんな料理を作っているだの、あの料理はこういう隠し味があるだの……駄目だ、俺は全く間に割って入れそうにない。

 と、若干の置いてけぼりを感じていると、中野が「そういえば」と話題を切り替え。


「涼奈ちゃんは、今日からうちの部に来てくれるんだっけ?」

「あ、はい。一応、そのつもりです」

「そっか、それは嬉しいね。なんたって、うちの部活はとにかく人の集まりが悪いから……」


 そういえば、涼奈もボランティア部に入部したんだっけ。

 結局理由は聞けずじまいのままだったけど……まあ、恐らくは中野の存在が大きいのだろうと思う。気づけば随分と仲良くなってるみたいだし、大方、中野の誘いを受けてってところじゃないかな。

 それと……自惚れじゃなければ、俺がいることも影響しているかもしれない。

 ここ最近、涼奈は俺との接点を少しずつ持とうとしてくれているから……その辺も、一つ理由としてあるのかな。


 ただ……それで、涼奈をうちの部に入れるのは、若干心苦しいところはあるのも事実。

 先ほど中野の言った通り、うちの部はとにかく人の集まりが悪い。

 部員自体は七人……いや、八人だったっけ? もう少しいたような気もするが、ほとんど部活へ来ないからもう把握しきれない。


 一年生の二学期までに、全生徒は必ず何かしらの部活に入部するように。


 そんな校則があるおかげで、帰宅部志望の生徒たちも、強制的に何か部活動へ入部しなければいけない。しかし、まともに部活動をするのは面倒……なら、適当な部活に入部して、幽霊部員として籍だけおけばいいじゃないかという考えをしたやつらが、うちを選んで入部するというわけだ。

 その結果、ボランティア部は幽霊部員だらけの部活になってしまい……比較的真面目に部活動に取り組む中野と、別に真面目でも何でもないが、中野一人にするのも可哀想だと思った俺の二人が、主な活動メンバーになっている。

 時折、クラスメイトで友人のあいつも来たりするが……最近は、彼女が出来たとかで、めっきり姿を見せなくなったな。

 

 とまあ、そんなわけで。

 いずれは涼奈もどこかの部に入らなきゃいけないわけだし、ここで部活に入るって選択は決して間違っているとは思わないけど、ボランティア部ってのは正しい選択なのかどうかは微妙だ。

 涼奈が良いなら、俺は構わないけど……。


「……そういえば、杏子さんはお兄ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べてるんですよね?」

「うん、そうだよ。良かったら、涼奈ちゃんも一緒にどうだい?」

「そうしたい気持ちはあるんですけど、いつも友達と一緒に過ごしているので……」

「それは残念。ああけど──」


 その後、主に涼奈と中野の会話を後ろで聞くような立ち位置で歩き続け、学校へと到着した。涼奈は結局、今日の放課後から部室へ来るみたいだ。

 今日から一体、どうなることか。



「やーっと来たな。涼太郎」


 涼奈と中野、二人と別れて教室へと入ると、丁度さっき思い浮かべた友人──伏見悠一ふしみゆういちに声をかけられた。 

 同じボランティア部に所属しながら、ほとんど部活には顔を出さない幽霊部員もとい、サボり魔。


「なんだ悠一、朝から鬱陶しいテンションで」

「見たぞ、朝から女の子二人を連れて登校しているところを」

「女の子二人って……お前、一人は同じ部活仲間で知ってるだろうが」

「ああ知ってるよ。お前と中野が、何故か仲がいいことも知っているけど……今まで一緒に登校なんてしてなかっただろ? だから、気になったんだ」

「まあ、確かに。一緒に通い始めたのは今日からだな」

「それに、もう一人の子もめちゃくちゃ可愛かったな……誰だ、あの子は?」

「誰って、妹だけど」

「……妹?」

「ああ。妹の涼奈だ。うちの学校の一年生」

「ちょっと待て。お前、妹がいたのか?」

「言ってなかったか? まあ、別にわざわざ教えることでも……」

「なんでそれを先に言わねえんだ!!」


 なんだ、急に大きな声を出して。


「妹ってお前……あの妹だろ? 一緒に家に住んでいる女の子で……お兄ちゃんとか呼んでくれる……」

「間違ってないけど、その言い方はどうなんだ。というか、急に何を言い出してるんだ」

「俺はな……俺は、最近気づいたんだ。妹こそ至高の存在だと」


 朝から何を言ってるんだこいつは。


「妹は良いぞ……決して兄を裏切らない。俺のことも裏切らない……嗚呼……」

「盛り上がってるとこ悪いけど、話が全く見えてこないんだが。大体、お前彼女出来たとかではしゃいでただろ? そんなこと口にしていいのか?」


 そう尋ねると、悠一はギロリと目線をこっちに向け。


「涼太郎、その話題はこれ以上口にするな。いいか、分かったな?」

「お前……もしかして」

「……ああそうだよ! 振られたんだよ、たった二週間でな! 別の男が好きになったとか、そんなわけわかんねえ理由でよ! だったら俺の告白を受けたのは何だったんだ……!」


 ああ、そういうことだったか。

 二週間か。儚い命だったな。


「けど、いいんだ。お陰で、もっと素敵な出会いをすることができたからな」

「お、そうなのか? ……って、お前まさか」

「虹色グラフィティに出てくる、主人公の妹、高峰奏ちゃん……あの子こそ、俺の運命の相手に違いない……」


 やっぱりギャルゲーの話だったか。

 彼女が出来て、その趣味は封印するだのなんだの言ってたが……結局、戻っちまったんだな。


「奏ちゃんと出会ってから、俺は気づいたんだ。妹こそ至高だと。なあ涼太郎、お前の妹も、奏ちゃんみたいに素敵な存在なんだろうな……」

「……言っとくが、お前にだけは絶対にやらんぞ。色んな意味で危険すぎる」

「そんなの勿論だ。俺は、お前に妹がいたっていう事実に声を上げているんだ」


 そんなことを言われても。


「それに、俺には奏ちゃんがいるからな。……そうだ、今後お前にも貸してやるよ」

「貸す? 何を?」

「虹色グラフィティに決まってるだろう……! 奏ちゃんを抜きにしても、アレは良いゲームだぞ。今年発売されたギャルゲーの中でも、トップクラスの作品だ。ぜひお前にも、プレイしてほしい」

「いや、俺は別に興味ないんだが……」

「いいから! 今度持ってくるから、絶対にプレイしてくれよ! っと、そろそろホームルームの時間だな。詳しい話はまた今度だ!」


 そうして、自分の席へと戻っていく悠一。


 ……いや、本当に興味ないんだけど。

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