第10話「どういうことか、俺にもよくわからない」

 どうしてこうなったのか。

 何度考えても、正しい答えを導くことは出来ないまま、俺、涼奈、そして中野杏子の三人は、高垣家のリビングへと集結していた。

 結局、涼奈と中野が何を話していたのかも分からず終い。この状況と、何か関係があるのか……と疑わざるを得ないが、結局何の説明も無いので、仕方なく状況に流されるしかないのが今の俺。

 そして、何故かは良くわからないが……涼奈と中野が、妙に仲良さげなのが気になる。


「──ああ、そこはね」

「そうなんですね……じゃあこっちは──」


 一台のスマートフォンを並んで座りながら眺め、仲良さげに話している二人。

 ちなみにここへ戻ってくるまでの間も、俺そっちのけでずっと二人で喋っていた。この二人、ついさっき出会ったばかりだよね?

 どうしてこんなにも仲良さげに喋っているのか、本当によくわからない。


「……なあ、そろそろ状況の説明をしてほしいんだけど」


 しびれを切らし、ついに質問を投げかけてしまった。

 中野が我が家へ来た理由。そして、涼奈とこの短時間でここまで仲良くなったきっかけ。


「ああ、そうだったね。今日は涼奈ちゃんと一緒に、料理がしたいなと思ってきたんだ」 

「料理? 中野と、涼奈が?」

「そうだよ。前にも言ったと思うけど、これでも僕は結構料理をする方でね。そして、涼奈ちゃんも料理好き。せっかくの機会なんだし、一緒に色々と作ってみたいと思って、僕から誘ってみたんだ」

「そうだったのか……涼奈も、良かったのか?」

「うん。楽しそうだし、いいかなって」


 そうか。まあ、お互いが良いなら別に俺は構わないが。

 けど、これでようやく二つの疑問が解けた。

 中野がここへやってきたのは、涼奈と料理をするため。涼奈と仲良くなったきっかけは料理。先ほど仲良さげに話をしていたのも、なるほど料理についての話題だったか。



「さて、それじゃ始めようか」


 数十分談笑したのち、涼奈と中野は二人で仲良くキッチンへ向かった。

 俺はというと……特に手伝えることも無いので、相変わらずリビングでテレビを眺めながら休憩中。流石に何もしないのはどうなのかと思い、声をかけてみるが。


「涼太郎は座っててくれていいよ。ここは僕らに任せてくれ」


 と言われ、結局そのまま。

 ……それにしても、涼奈と中野、随分と仲良くなったな。

 出会ってすぐは緊張してるのか、少しぎこちない感じが出てたけど、二人で話をしてからというもの、一気に距離が縮まった感じがする。

 料理という共通の話題があったのは分かるが……それにしても、ここまで仲良くなるものか。

 少しだけ、そんな疑問を覚えつつも……二人が説明をしてくれない限りは分からないし、それに、仲が良くないってことなら心配もするが、仲良しになる分には一向に構わない。

 とりあえず、今は二人の料理を待つことにしよう。


「涼太郎は、唐揚げが好きなんだっけ?」


 キッチンから、中野の声が聞こえてきた。


「ああ。鉄板だな、唐揚げは」

「了解。なら唐揚げと……あとは」


 それに、俺の好物を作ってくれているみたいだしな。黙っておとなしくしておくのが、吉だ。



「……おお、めちゃくちゃ豪華じゃないか」


 あれから時間は過ぎ、気づけば食卓には所狭しとおかずが並べられていた。

 中心を陣取る唐揚げ。付け合わせのサラダに、味噌汁のオマケつき。付け合わせの小鉢には……なるほど、ひじきの炒め物か。これはいいな。


「僕もビックリしたよ。涼奈ちゃん、すごく手際がいいからね」

「いえ、杏子さんに比べれば……色々、勉強になりました」

「褒められるのは嬉しいね。僕なんかで役に立てたのなら光栄だよ。……さて、それじゃあ食べようか」


 中野の合図で、一斉に箸をつける。

 まずは唐揚げ。……うん、これは美味い。


「涼太郎、味はどうだい?」

「完璧だ。今まで食べた唐揚げももちろん美味かったが……今日のは、更に美味しい気がするな」

「だ、そうだよ。よかったね涼奈ちゃん」

「……はい」


 少しだけ、表情が綻ぶ涼奈。なるほど、唐揚げを作ったのは涼奈だったか。

 そういえば、二人で食事をするときは、改めて味の感想を伝えることも無かったからな……今までも、毎日美味しいとは思って食べていたが、もっと感想を言うべきだったかもしれない。


「こっちの小鉢とお味噌汁は僕が作ったんだ。よかったら感想を教えてくれると嬉しいな」

「よし来た、どれどれ……ん、普通に美味い。中野の料理を食べるのは初めてだけど、まさかこれほどの腕前とは……」

「ふふっ、ありがとう。そうだね、涼太郎に僕の手料理を振舞うのはこれが初めてだよね。よかったよ、君に感想を言ってもらう機会が出来て」

「いや、これ本当に美味いな。できればまた食べたいくらいだ」

「そうだね、また機会はいくらでもあるさ。……ね、涼奈ちゃん?」


 そう言いながら、涼奈に目線をやる中野。

 ん? どういう意味だ。


「機会はいくらでもあるって……どういうことだ? また、うちに来るのか? 俺は、別に全然構わないが」


 涼奈と随分仲良くなったみたいだしな。

 そう思い、中野に尋ねてみると。


「実は、涼奈ちゃんがうちの部に入部することになったんだ。だから、これからはもっと一緒にいる時間が増えると思う。こういう機会も、これからいくらでも作れるだろうさ」


「ああ、なるほど。涼奈がうちの部に……って、え?」


 え?

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