第9話「クラスメイトと妹が、出会う」
「あれ、涼太郎?」
涼奈との買い出しを済ませ、次の予定を決めていると、誰かが俺の名前を呼んでいることに気が付いた。
この声は……。
「おお、中野か。偶然だな、こんなところで」
中野杏子。同じ部活に所属している同級生で、女子生徒の中では学校で一番仲のいい奴だ。
「そうだね。僕は休日に、涼太郎がこんなところをぶらついていることにビックリしたんだけど……ところで、そちらの方は?」
失礼な、俺だって休日に外出くらいするぞ。
……まあ、今日は涼奈に誘われてのことだったが。
「妹の涼奈だ。一応、俺たちと同じ学校に通っているから、もしかしたら顔を見たことあるかもな」
「ああ、噂の……そっか。僕の名前は中野杏子。涼太郎とは同じ部活に所属してる、部員同士なんだ」
「あ、どうも……。高垣涼奈です」
「うん、よろしく。涼奈ちゃんって、呼んでもいいかな?」
「それは、別に構いませんけど……」
緊張しているのか、涼奈の口調が少し硬い。
まあ上級生だしな……こればっかりは、仕方ないか。
「じゃあ、僕のことも杏子って呼んでくれていいよ。涼太郎も、別に名前で呼んでもいいって言ってるんだけど……」
「いや、流石に女子を呼び捨てにするのはちょっとな……妹ならまだしも」
もう何度、名前呼びをしてと言われたことか。
そこまで気にすることでもないような気もするが、やっぱり同級生の女の子を呼び捨てにするっていうのは、ちょっとだけハードルが高いのが本音だ。
それに、中野は学園でも人気があるし、変に関係を勘繰られてややこしいことになるのも、お互い本望じゃないだろう。
「それより、涼太郎たちは何をしていたんだい?」
「ああ、夕飯の買い出しにな。涼奈の付き添いだ」
「なるほど。それは殊勝な心掛けだね。噂には聞いていたけど、涼奈ちゃんは料理が得意なんだって?」
「え、どうして知ってるんですか?」
中野の言葉に、若干驚きを見せる涼奈。
「涼太郎から話を聞いたんだよ。それに、涼奈ちゃんのお弁当も見せてもらったしね」
おまけにおかずまで取り上げてたけどな。
「……そ、そうだったんですね。お兄ちゃんが……」
どこか嬉しそうな表情を浮かべる涼奈。
料理を褒められるのが、よっぽど嬉しかったのか。
「……けど、一つ聞いてもいいですか?」
だが、そんな表情もつかの間。
「お兄ちゃんと……えっと、杏子さんは、一緒にお昼ご飯を食べているんですか?」
「そうだよ。一年生の頃からだから……かれこれ、半年くらいになるかな」
「もうそんなに経つのか。早いな……」
半年前、とある出来事がきっかけで中野と一緒にご飯を食べるようになった。
時間が経つのは本当に早い。すっかり日常と化した昼食時間も、初めはお互いなんとも言えない空気が流れてたっけ……。
「そう……なんですね」
そういえば、涼奈には言ったことなかったっけな。
まあ言うタイミングも場所も無かったし、わざわざ教えるほどのことでもないだろうけど。
と、そんなことを考えていると、突如中野から、こんな提案が投げられた。
「んー。そうだね、涼奈ちゃん。ちょっと向こうで一緒に話をしない?」
「え?」
「涼太郎はそこで待ってて。涼奈ちゃんと、女の子同士の会話ってのをするから、さ」
「お、おう。それは別に構わないけど……」
出会ったばかりの涼奈と二人で会話……一体、何を話すつもりなんだ。
そんな疑問をよそに、中野は涼奈を連れて、少し離れた場所へと向かっていった。
……俺一人を残して。
◆
「お待たせ、涼太郎」
五分くらい話をしていただろうか。
ようやく、中野と涼奈が戻ってきた。
「いや、そこまで待ってないから大丈夫だけど……何を話していたんだ?」
「ん? それは乙女の秘密ってやつだよ。詮索するのは野暮ってものさ」
「……乙女の秘密、ねえ」
なんだそれは。
どうにもうまくごまかされた感じがするが……まあ、聞いても教えてくれないんじゃ、どうしようもない。
と、そんなこと思っていると、
「さてと、それじゃあ向かうとしようか?」
「え? 向かうって、どこへ?」
「もちろん、涼太郎の家に決まってるじゃないか」
「……え?」
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