第7話「妹の様子がおかしい理由を、俺なりに考えてみた」

「相談があるんだ」


 昼休み、いつも通り部室へと足を運ぶ。

 すでに昼食を取り始めていた女子生徒──中野杏子の姿を確認した俺は、開口一番彼女に相談を持ち掛けた。


「相談? 珍しいね、涼太郎が僕に相談なんて」

「まあ、こういうのは女性に聞くのが一番かなって。ちなみに、相談内容ってのは妹のことなんだけど……」 

「妹ちゃんね。最近、そのお弁当を作ってくれてるっていう」


 前にある程度説明しているので、話は早かった。


「実はな、最近妹──涼奈の様子が、なんだか変なんだ」

「変?」

「ああ。この弁当にしてもそうだし、それ以外でも、やけに距離が近いというかなんというか……」

「ふむふむ……。ちなみに、そうなった原因って分かる?」

「あー……まあ、一応あるにはあるんだけど。ちょっと言いにくいというか」


 流石に、血の繋がりの無い義兄妹だった、とは軽く口には出せない。

 俺が高垣家の息子じゃなかった、って話なら別としてだけど。


「なるほど。まあ、人には言いたくないことの一つや二つあるだろうし、無理に詮索はしないよ」

「すまん、助かる。けど、涼奈との間で大きな出来事があったのは事実だ。それこそ、今までの関係を大きく変えてしまうほどのことが」

「うん、、それじゃまとめるね。涼太郎と涼奈ちゃんだっけ? 妹の二人に、数日前、大きな出来事があった。それ以来、お弁当を作ってくれたり、距離感が近くなったような気がすると……」


 ふむふむと、考え込む中野。

 そこで俺は、昨晩出した結論を、中野に伝える。


「そこで俺は、一つの結論を出した。涼奈は……俺と"兄妹"として仲良くなるために、不器用ながらも色々としてくれているんじゃないか。そう思うんだ」

「…………ん?」


 俺と涼奈は、昔はそこそこ仲のいい兄妹だった。

 それが、気づけば距離ができ、今の関係に落ち着いてしまっている。

 その原因は何か……と考えた時、そういえば中野が「兄妹の在り方」について説いてくれたことを思い出した。

 兄妹とは、互いにそこまで干渉しない存在だと。その理由は、思春期特有の「恥ずかしさ、照れ」からくるものが多いと。

 恐らく涼奈が俺と距離を取ったのも、それが原因だと思う。

 だが、それも数年前のこと。今ではすっかり考えが変わっていてもおかしくない。

 例えば──また兄と、兄妹として仲良くしたい、とかな。

 しかし、長いことコミュニケーションを取っていなかった間柄。そう簡単に、元の関係に戻るのは難しい。そこで、この間の一件をきっかけにしようと、そう考えたんじゃないかと、俺は推理したのだ。

 と、中野に話してみたところ。


「──ははっ、なるほどね。涼太郎は、そっちの方向に思考が行ったんだ」


 突然笑い出し、そんなことを口にした。


「ど、どういうことだ? 中野は、別の考えがあるっていうのか?」

「まあ、あくまで可能性の一つだけどね。それに、涼太郎の考えが普通っていうか……まあ、そっちの方が、恐らく正解なんじゃないかな?」

「普通? うーん、いまいち分からんけど……」

「まま、僕の言ったことは忘れてくれていいよ。涼太郎は、何も余計なことは考えなくていいから」


 そういい、これ以上のことは教えてくれなかった。

 中野の考え……気になるな。何なんだろうか。


「で、涼太郎はこれからどうするんだい?」

「どうするって?」

「だって、涼奈ちゃんは涼太郎と仲良くなろうとして頑張ってるわけだよね。なら、兄として、それにどう応えるのか……ってこと」

「ああ、そういうことか。うーん……俺の考えが正しいのなら、俺も涼奈の気持ちに応えなきゃだよな。正直、上手く涼奈と話ができる自信はないが……兄妹なんだし、不仲よりは仲良しの方がいいだろう」


 それに母親からも、涼奈のことを支えてほしいと言われているしなと、心の中で付け加えておく。

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