第6話「二人並んで、仲良くテレビを」
その後も、涼奈の様子がおかしい状態は変わらず続いていた。
お弁当を作ってくれるようになったことから始まり、お風呂で鉢合わせても怒られず、かと思えば、お弁当を作らなくても大丈夫と言ったら逆に怒られて……いや、正確には怒られたのとはちょっと違うけど。
今までとは違う、涼奈の行動の数々。
それは確実に、俺の中で違和感として残り続け……少しずつ、涼奈のことを日々の生活の中で、意識するようになってきた。
そんな極めつけは今日。夕食後のことだった。
◆
それは、夕食後のことだった。
時刻は八時。木曜日のこの時間は、毎週楽しみにしているバラエティ番組が放送される時間だ。
「この番組面白いんだよなぁ……。ふむふむ、今週はアイドルが無人島でサバイバル生活を送るのか……」
番組表を眺めながら、ソファに座って一息つく。
ふう……今週は、色々なことがあったからなぁ。ここらで少し休憩って訳じゃないけど、のんびりする時間を作るのもいいだろう。
ちょうど、涼奈も部屋に戻っているみたいだし……思いっきりだらけながら楽しもうか。
何てことを考えながら、番組が開始するのを待っていると。
──ガチャ。
リビングのドアが開くと共に、涼奈が部屋へとやってきた。
まあ、それは別に不思議なことではない。涼奈もこの家に住む家族、リビングくらい利用するだろう。
もしかしたら、キッチンへ飲み物を取りに向かうのかもしれない。
どの道、俺には関係ない……そう考え、再び意識をテレビに集中させると──。
「…………へ?」
何故か涼奈は、俺の座っているソファへと腰掛け、すぐ隣でテレビを見始めたのであった。
……え、なにこの状況、どうなってるんですか!?
何の説明もなく、当たり前のように隣へと座っている涼奈に、俺は何も言葉を発することが出来なかった。いや、正確にはちょっとだけ驚いた声が漏れてしまったけど、涼奈は何食わぬ顔のまま、ジッとテレビを見つめている。
俺と涼奈、互いに無言のままソファで隣り合わせに座るという、全くもって謎の時間がやってきたのであった。
『はーい、今日はこの島で三日間、サバイバル体験を行いまーす』
テレビから、アイドルたちの元気いっぱいな声が聞こえてくる。
だが、相変わらずこの部屋は無言に包まれたまま。テレビ番組の音が、響くのみであった。
……駄目だ、全く集中できない。アイドルよりも、今は隣の妹が気になって仕方がない!
「えっと、涼奈さん?」
「……なに、お兄ちゃん?」
「いや、どうして俺の隣に座ってるのかなぁ……と思って」
「私もソファに座りたかったから」
一言。そう、答えた涼奈の表情は、いつも通りだった。
「ああそう……。いや、それは別にいいんだけどね。これだけ無駄に広いソファなんだから、もう少し離れて座ってもいいんじゃないかなぁ……と思ったり、思わなかったり」
「……」
あ、無視された。
「……いやまあ、別に良いけどさ」
会話終了。
結局、何一つ涼奈のことは分からないまま時は流れ……。
「……」
「……」
結局あれ以降、お互いに何も言葉を口にしないまま時は流れ、気づけば一時間番組は終了してしまった。
いや、涼奈のことが気になって、番組の内容が一ミリも頭に入ってこなかったぞ……結局、アイドル達は無人島で無事にサバイバルできたのだろうか。
いや、そんなことはもはやどうでもよくて。
結局涼奈は、何がしたかったんだろうか。ソファに座ってテレビを見たかっただけ、なんて言ってたけど……座るなら、もうちょっと離れてもいいはずだろう。人一人分くらいはスペース空いてるぞ。。
なんて、色々と考えていると、番組終了と同時に涼奈はスッと立ち上がり、リビングから出て行ってしまった。
気のせいか、随分と早足だった気がする。そして、結局何も説明はないままで。
「……わ、わからん。俺には涼奈が、全く分からん」
ここ最近、涼奈の様子がなんだかおかしいことには気づいていた。
お弁当を作ってくれたり、今日だって、何故か隣に座ってテレビを見始めたり。
それが、どういう意図があるのかは分からないが、いずれにしても。
「あの日がきっかけなのか……?」
両親から、涼奈の生い立ちを聞いたあの日から、涼奈の様子が少しだけ変になっている。
やっぱり、あの日の出来事がきっかけと考えたほうがいいだろうか。
そう考えると……一つだけ、これなんじゃないかという理由が思い浮かんできた。
「……もしかして、涼奈は」
……とりあえず、明日中野にでも相談してみるかな。
◆
「……これで、いいんだよね」
真っ暗な部屋の中。いつも通りパソコンの電源を起動し、いつも通り───を立ち上げる。
「お弁当作って、お風呂で鉢合わせして、ソファに座って一緒にテレビを見る……うん、ここまでは間違えてないみたい」
一つ一つ確認し、私は次の行動を考えるべく、マウスをクリックする。
「……つ、次もこんなに大胆なことするの!? どうしよう、私の心臓持つかな……」
未だに、心臓が鳴り続けている。
さっき、お兄ちゃんのすぐ隣にずっと座っていたからだ。あんなにもお兄ちゃんに近づいたのは、もう何年ぶりか分からない。
「今日も、幸せな時間だったなぁ……よし。明日も、頑張ろう」
次の行動をしっかりと把握し、───を閉じる。
そして次に、明日のお弁当に入れるおかずを、考えるのであった。
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