第3話「友人に相談してみたが、やっぱり分からない」

 俺と妹、涼奈の仲は、決して良好とは言えない。

 では不仲なのか? と尋ねられれば、それもなんとも言えないところではあるが。

 そもそもの話。兄妹の仲が良いことって、どうやって証明するんだろうなと時々思う。

 基本的に俺と涼奈は、会話という会話を交わすことが無い。

 同じ家に住んでいるんだ。そりゃ、顔を合わせることもあるし、たまに言葉を交わすことだってあるが……。


「ご飯できたよ」

「了解」


 くらいしか、涼奈との会話を思い出すことが出来ないのが現実だ。ううむ、これを会話と読んでいいものか……。

 そう考えると、俺と涼奈は不仲なのかもしれないが、案外調べてみるとこれが普通だという意見も多々ある。

 特に、俺と涼奈くらいの年齢だったら別におかしな話じゃないらしい。

 兄妹の適切な距離感はこれくらいだ、と考えている人も多く、実際仲のいい兄妹なんてそうそういないというのが、俺の仕入れた情報だ。

 と、考えると。俺と涼奈の関係は『ごくごく普通の兄妹』なのだろうか。

 不仲などではないのだろうか。

 難しい。

 涼奈が生まれて十六年。未だに兄妹の正しいあり方というものを導き出せない。

 特に昨日、両親からあんな話を聞かされたんじゃ、余計考えてしまうものだ。


 昼休み。涼奈の作ってくれたお弁当をいつもの場所で食べながら、友人の中野杏子なかのきょうこに一部を端折りながらそんな話をしてみた。すると中野は、うんうんと頷きながら。


「涼太郎の妹は、まさに『妹』って感じだよね」

「何だそれ、意味が分からんぞ」


 妹なんだから、そりゃ妹だろう。


「いやさ、兄妹ってそういうものだと思うんだ。必要以上のことは話さないし、関わりを持たないっていうか」

「……やっぱ、そうだよな」


 実際、中野の言うことは正しい気がする。

 別に、互いが嫌いあっているわけでもない。日常生活に支障があるわけでもないし、兄妹ってのはこれが普通なんだろう。

 そんなことを考えながら、改めて目の前にいる女性──中野杏子を眺める。

 そのずば抜けた容姿は、学園内でもトップレベル。最も、本人はそのことを自覚していないみたいで、興味もないようだが。

 おまけに成績も優秀。こちらも学年トップの点数を叩き出し、それがまた、彼女の人気を高める要因の一つともなっている。

 そんな学園の人気者と、どこにでもいる普通の男子高校生である俺が、こうして二人きりで昼食を取っているのには、まあ色々と訳があるんだが……簡単に言ってしまえば、同じ部活の友人。そんな感じだ。


「そういえば、中野って兄妹いるのか?」

「うん、いるよ。一番上はとっくに社会人、もう一人は大学生」

「そうだったのか。やっぱり、中野家も同じような感じなのか?」

「まあ、ウチはちょっと特殊だから、参考にはならないだろうけど……兄とは、決して良好な関係とは言い難いね。もう何年も喋った記憶がないし」


 特殊、という言葉が少し気になったものの、あまり触れて欲しくなさそうな口ぶりだったので、突っ込むのはやめておいた。


「なるほどなぁ。てことは、中野もカテゴリー的には妹に部類されるわけだ」

「まあね。一応、妹ってことには違いない」

「ならさ。そんな妹の中野に質問したいんだが……例えばその日の気分で、急に『お兄ちゃんにお弁当を作ってあげようかな』なんて思うこと、あるか?」

「お弁当……? あ、もしかして涼太郎のお昼、妹さんの手作り?」

「ああ、一応な。今まで作ってくれたことなんてなかったのに、急にどうしたんだろうなって」


 考えられる可能性としては、母親が家にいたこともあるので、『ちゃんと兄の世話はしているよ』とアピールしたかったということが最有力だと思っている。

 しかし、それにしてはやけに手が込んでいるというか……ここまで本気のお弁当を用意する必要もあるのかなと、少し疑問に思ってしまうが。


「ふうん……」


 と、中野は、広げていた俺の弁当のジッと眺め。


「なかなか手の込んだお弁当だね。料理する身としては、朝からこんなに作るのは大変だろうなと感心するよ」

「あ、やっぱりそう思う? 俺も、家事は全然だけどさ、何となく大変さは分かるっていうか……」


 中野の目から見ても、やはりこのお弁当は、かなり手の込んだものだという認識らしい。

 俺と涼奈の間で、何か変わったことがあるかと言われれば、やはり昨日の出来事が大きいだろう。

 しかし、血の繋がっていない兄妹だと分かったからといって、どうしてお弁当を作ることに繋がるのか。それは全くと言っていいほど分からない。

 とはいえ、審議のほどを本人に尋ねるわけにもいかないが……。


「ちなみに、さっきの質問だけど」


 中野は続ける。


「僕は、兄に弁当を作ろうだなんて思ったこと、一度も無いよ。多分、これからも一生思わないと思う」

「ふむふむ……。……うーん、余計分からなくなったな」


 とりあえず、この問題は考えてもどうしようもないだろう。

 もしかしたら、単に涼奈の気まぐれというだけの可能性もある。

 ひとまず、五限開始も迫っているということで、一旦この問題は放置し、残りのおかずを一気にかきこみ、昼食を終えたのであった。

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