第15話 花が開くかは愛情次第

 のっそりとした様子で寝室から出てきた光喜はよれたTシャツに下着一枚の無防備な姿。なにかを探すように少し視線をさ迷わせてからゆっくりとこちらを見る。そして俺の存在を認めてきょとんとした顔で首を傾げた。


「なんで勝利がいるの? 小津さんは?」


「あー、それはちゃんと話す。その前にちゃんと服を着ろ」


「……面倒くさい。だるいから座っていい?」


 気だるげに髪をかき上げた光喜はおぼつかない足取りでソファにたどり着くと、そこに腰を下ろしてそのまま横に倒れ込んだ。その姿に腹の底から大きなため息が出る。思わず後ろで様子を窺っている小津をじとりとした目で見上げてしまった。


「小津さん、随分がっついたね」


「……ご、ごめん」


 だるそうな様子は二日酔いかもしれないけれど、襟首が開いたTシャツから覗く首筋やむき出しになった太ももにはっきりとしたうっ血のあとが散っている。正直言うと呆れの気持ちしか湧いてこないが、酔っ払って目を覚ましたらその惨状っていうのは肝が冷えるかもな。


「おい、光喜。お前、小津さんに気があったのか?」


 ソファのクッションに顔を埋めている光喜の傍まで行くと、視線がゆるりとこちらを向く。そしてじっと俺の顔を見てなぜか重たいため息をついた。その反応の意味がわからなくて首をひねれば、小さく唸りながら身体を持ち上げる。


「気があったって言うか、興味があった。が、正しいかも」


 足を投げ出して背もたれに寄りかかると、光喜はちらりと視線を流す。その先にはハラハラしているのが目に見えてわかる小津がいて、目が合うとまた息をついて肩をすくめた。


「俺に気があるみたいだったし、しばらく出方を見てたんだけど、いつまでもアクションがないから」


「それで思いあまって押し倒したってことか?」


 攻められるのは弱いけれど、自分から仕掛ける分には気持ち的に強く出られる。しかしそれでも受け身に回るのはかなりの勇気だとは思う。


「やっぱり小津さんの気持ちに気づいてたんだな」


「えー、俺が気づかないと思った? 自分に気がある人なんてすぐわかるよ」


「まあ、だよな」


 伊達にモテているわけではない。これはうぬぼれではなくて自己防衛だ。自分に好意を寄せてくるのは不特定多数。まともなやつもいれば厄介なやつもいる。トラブルに巻き込まれないためにも、アンテナはしっかり立てておかないと平穏な日常は送れないってわけだ。


「で、小津さんとどうすんの?」


「んー、それは小津さん次第かな? そのまま帰っちゃうようなら、ご縁はなかったってことで」


「うん、それは正しい判断だと思う。やり逃げするような男だったら、俺がボコってるところだ」


「まあ、今回は帰らなかったけど、勝利たち呼んじゃうのはちょっと減点。正直なところがっかり」


 長い脚を引き寄せてソファの上にちんまりと座る光喜にちょっと同情してしまう。なんていうか、これって恋人にいきなり保護者を呼ばれた気分? 他人になんて頼らないで、まっすぐに向かってきて欲しかったってことだよな。

 興味があったなんて強がり言ってるけれど、その気もなく簡単に身体は明け渡せるもんじゃない。縋られるままに思わず来てしまった俺も不注意ではあったが、これはあとからこってり小津に説教だな。

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