【授業終わりとヤンキーと】
殆どの人間は一日に九千回以上選択をしていると言われている。普段の日常で当たり前に行われる取捨選択は迷いを生み、考える時間を作る。大小様々な選択を迫られ、時間を費やして選択している。ともなれば人生は選択の連なりと言えるだろう。中には考える時間を惜しみ、短縮する少数の者もいるだろう。ある程度テンプレートを自分の中で決め、ルーチン化して悩む時間をかけない。
そういった人間は天才と呼ばれる傾向があった。一般人と違い、普段の生活に取られる選択という時間の浪費を嫌い、勉学や発明に時間を費やすからだ。
前置きはこの程度にして、ここにいるごく一般的な高校生である俺は人生の時間を費やして悩んでいた。もちろん小さな悩みに長い時間を費やして。
「……うーん、どれにしようか」
ポップな外装と甘い香りを漂わせたキャラバンカーの前で看板に書かれたメニューを凝視する。
その隣では注文を終えた可憐が注文品の完成を楽しみに待ちわびていた。彼女の表情はこれから出来上がるクレープへの期待が食べる前から頬を緩ませている。
学内では中々、見ないその表情に優越感を覚えるのは男冥利に尽きると言うべきか。とにかくそんなことよりも俺も早く選ばなくては……。
「史弥くん、決まりそうですか?」
「悩むなぁ~。普段クレープなんて食べないからさぁ」
「これなんかどうですか? バナナチョコクレープ」
「バナナか~、それも良いな~でもこのイチゴストロベリーホイップも捨てがたい」
「確かにそれもおいしそうですもんね。あッ! ありがとうございます!」
そうこうしていると出来上がったクレープが店員から可憐の手元に渡される。可憐が選んだのはイチゴストロベリーホイップクレープ。この店で一番人気のクレープだ。
──しかし、イチゴストロベリーって一緒の意味だよな。と、俺は口が裂けても可憐には言えないな。それ程に可憐の笑顔は眩しい。もう何でも良いや。
「うわ~美味しそうです! でもほんとに良いんですか?」
「この前の実習のお礼だから気にしないで食べて。俺からのほんの気持ちだから」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて頂きます。では……」
少し控え目に最初の一口をかぶりつく可憐。小さな口でゆっくり咀嚼していく。
「うん、よし。じゃあ俺はバナナチョコクレープにしよう! すみません店員さん! このバナナチョコクレープを下さい!」
俺は店員へ注文をする。注文を承った店員が慣れた手つきでクレープ生地を焼き上げる間、横で美味しそうに食べる可憐へ視線をスライドさせる。
口の端から零れる生クリームを忙しそうに舌で
そんなことに思考を巡らせているとふとこちらの視線に気付いたのか一瞬目が合う。
そのまますぐにクレープを食べる手を止めて俺に襲る襲る口を開く。
「史弥くんは食い意地のある女の子はき、嫌いでしたか……?」
なんでそんな事気にするのだろうか。良く分からないけど俺はそんなの気にしない。
「ハハッ、急にどうしたの可憐?」
「そ、その他意はないんですが……。で、結局どうなんですか⁉」
「うえぇ⁉ まぁ、そのぉ、なんだろう。良く食べる女の子も可愛いと思います」
可憐の圧力に気圧されて、敬語口調で返答をしていた。ここまで気にする意図が分からないが何か気に障ったのかな。
「そ、そうですか……。ではその話ついでに、ふ、史弥くんに彼女さんっているんですか……⁉」
可憐が食べるイチゴストロベリーホイップクレープの赤と紅潮した頬と並び、同化しつつある彼女。
何故、そんな事を聞きたがるのだろう……? ハッ、もしや俺にいたらこの状況が彼女(仮)に申し訳ないと気を遣ってくれているのか⁉
「大丈夫いないから。今まで生まれてきてこの方、彼女なんて出来た事ないからさ!」
自虐ネタを笑って披露してみる。すると、
「そ、そうですか……」
少しホッとしたかと思うと小声で、「……良かった」と呟やく可憐。
非常に失礼な事を言われた気がするが、聞こえないフリをして今は流す。折角、お礼をしに来たのに余分な一言で水を差すのはやめよう。
……それにしても最近の可憐の様子はおかしい。
学内でボーっとしていたかと思うと、喋りかければ、突然顔を真っ赤にしてしまったり、やたら今のように交友関係を気にしたり、嗜好を気にかけたりする。
ここは友人として様子が可笑しいのは看過できない。最近の様子の変化については言及しておこう。
「最近、何かあった? もし悩み事があれば聞くけど……」
「い、いえ! そんなのありませんから大丈夫です!」
「そうなの? なら良いけど……」
「全然そういう事じゃなくて…………史弥くんのニブちん……」
丁度、俺のクレープが出来上がり、それを店員から受け取る。もらったクレープを一口、口に運びながら、最後の一言が聞き取れなくてもう一度聞きなおす。何か言ったかな?
「最後何か言った?」
「何も言ってません!」
「えっ? ちょ、ちょっと可憐!」
スタスタと近場にあるベンチに歩いていく可憐に慌てて俺は駆け寄る。明らかに何処か怒っているようにも見える。
「一体なんだ……?」
結局、よく分からない地雷を踏み抜いたようだ。先人達の知恵に女の子は不思議な生き物と揶揄されることがある。今、まさに俺はそれを体験した瞬間だった。
追い付こうとする時に一口運んだクレープが喉を通る。だが慌てて飲み込んだのが原因か無味に感じる。この味も五百五十円。
綺麗な茶髪の髪を
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