下巻
【教職員会議での一幕、それは序章】
「これが事実なら、実に興味深い」
一声、投じた男は視線を集める。声を放った人物は中央に鎮座していた。
周囲にはビジネススーツ姿の男女、白衣の研究員が入り混じり円卓で着席している。とある会議室の一室に集まった一同。彼らは定例となった会議を行っていた。内容はごくいつもの定時連絡だったが、終盤になって一件のイレギュラー報告が上がったのだ。
「我々、研究チームは
代表者然とした白衣を着た研究者の男性が、我々という多人数容詞を使ったことで、総意の発言を示唆していた。さらに研究者は興奮気味だった。
興味と探求がフツフツと湧き上がり、この案件と研究にすぐにでも取り掛かりたいと言わんばかりの様相を呈している。
しかし、それはスーツ姿の一団内にいる男性の一人から否定される。
「いや、これは秘匿するべきだ。アンチアビリティーの報告は世界でも初めて。ニューマンに対しての抑止力として重宝される人材と同時にニューマンを脅かす天敵という見方もある。そんな人間がいることを発表しては、国内・外の組織を問わず、狙われて拉致されかねない。まだ野蛮な危険思想であるオールドショックが根付いている今では様々な組織の軍事利用への懸念と危険が付いて回るだけだ」
「では、発表はしないと?」
「あぁ、そういうことだ。ことは慎重に対応しなくては。ニューマンと旧人類との均衡を保つためにも、ひとまずは我々、“ネス‶内のみでで共有するだけとしよう」
スーツ男性は告げると居住まいを正して深く坐り直した。
反対意見を聞いた研究員は落胆し、沈むように肩を落とす。新特異能力の解明は研究者にとって探求の的であり、飽きないテーマなのだ。。
「……分かりました」
研究員が渋々納得したのを見届けると気を取り直したスーツの男性は今後の方針を固めにかかった。
「君達はこのまま研究を続けてくれ。新特異能力の詳細なデータをとり、本部に逐一送っておくように」
スーツの男性はその言葉を最後に締め
「それなら彼を風紀委員に推薦してみては
突拍子もなくビジネススーツの一団の一人から投げ込まれる提案。
「風紀委員?」
中央に座して座る中肉中背、年配の年相応の男──風間特等と呼ばれた男は片方の眉を軽く吊り上げ、ピクリと動かす。
「何故、そう思う?」
風間は軽く手を前で組み直し、関心を抱いたかのように話しを続けさせる。もちろん風間自身なんとなく言いたいことの形は朧げに感じ取れていた。
「あれは不正能力使用を取り締まる役職。実地試験に
「ふむ。しかし、本人にはどうやって説明するつもりだ?」
「本人が一番理解できるでしょう、この役職の意味を。それに強制させるわけではないのです。あくまでも本人の自由意志に委ねるとして、生徒会へ交渉を一任。もし断るようなら別の方法でデータを取りましょう」
「それならいいだろう。まず強制していない事が重要だ。学外──引いては世間体の面子がある。この案に異論や意見がある者はいるか?」
沈黙が周囲に流れる。それは全員が肯定したことを意味していた。
「では決まりだな。今回の決定を後日、生徒会へ通達してくれ。これにて教職員会議を終了とする」
一礼した教職員達は立ち上がると、会議室を早々と退出していく。
ただその中で風間だけは立ち上がらず、先ほど目を通したであろう資料を開く。
教職員達が全員室内を退席したのを確認すると呟いた。
「
静まり返り、誰もいなくなった会議室内で風間はこれまでの経歴を纏め上げた一個人の資料内容を眺め、書面では分からない人物像を一考するがやはり分かるはずもなく、何か嵐の前の静けさのような気持を感じながら小さな溜息をつくのだった。
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