【生徒会長と風紀委員】
「君が
そう問われた俺達二人は
静かな部屋に窓の隙間から漏れる運動部の掛け声が室内に
女子生徒の立ち振る舞いは凛々しく素晴らしく姿勢が正しい。可憐も整った顔立ちをした美少女だが、この女子生徒も美少女と言われる分類に入る容姿をしていた。しかし、可憐とは違うベクトルだ。黒髪長髪、黒タイツを履いた長い美脚。男子生徒達を魅了してしまうだろう。制服がセーラー服であれば、まさに地で文武両道をいくような大和撫子と形容できる容姿。言動は整然としたハッキリな口調で、先輩らしさも感じる。
そんな凛々しくも奥ゆかしい女子生徒は、さらに口を開いて自身の名前を名乗った。
「私は三年 生徒会長
俺達がここに呼び出される理由は一つしかない。先日行われたECTの騒動であり、可憐による乱入事件だ。
この事件は学内の話題の的になるまで話は広がっており、知らぬ生徒はいない程になっていた。過去にない前代未聞の乱入騒動により可憐は有名人になり、俺は涼の被害者として名を連ねている。そのことを重々承知していた二人は、訊くまでもなく同意の返事をすると冬月会長は続けた。
「なら分かっていると思うが先日行われたECTでおきた騒動の経緯と聴取になる。学校側からはこの件について生徒会及び風紀委員へ協力要請が出されていてね。そして我々は正式に受理してここにいると言う訳だ」
ここで風紀委員であり、先輩でもある戦国先輩は補足する。
「二人ともまだ知らないといけないから言わせてもらうが、ここ国立稲沢高等学校の生徒会と風紀委員は自治活動及び能力不正使用の取り締まりを任されていてな。今回はその原因究明の協力要請が学校側からあったんだ。まあ大体何があったかは二人以外からも聴取して理解している。大変だったな二人とも」
戦国先輩は二人に簡潔に説明し、職務と先輩という難しい立場でいながらも俺達を気遣ってくれる。だが生徒会長という立場にいる責任者である冬月会長は公平な立場を示して諫める。
「戦国! いきなり二人に肩入れしてどうする! まずは事実確認からだろ!」
「冬月会長、しかし……」
戦国先輩は反論の言葉を述べようとしたがキツく眼で威圧されると押し黙る。あくまでも公平的な立場で物事を考えろという意味だ。
「では、事の経緯を説明してくれ。それと戦国は口を挟まぬこと」
戦国先輩を横目に、職務を全うしようと、冬月会長は経緯説明を求める。それから俺と可憐はお互いの経緯を説明した。冬月会長は時折、頷きながら話しを聞き、思慮深い顔をしていた。
しばらくして聞き終えると冬月会長は話をまとめた。
「ふむ、では須山くんはシールド能力がカットされたチョーカーを
「はい」
俺は可憐の分も含めて返事をする。隣で声を張った俺の代わりに同意を表明して可憐は頷いていた。生徒会長の顔から少しの緊張が解けていく。
「説明ありがとう。これで事実確認ができた。我々が事前に現場に居合わせた生徒達からの聴取内容と合点がいく。『なぜか通らないはずの攻撃が男子生徒に直撃し、そのあとから同じクラスの女子生徒が突然乱入して場が騒然になった』、ただその攻撃が意図的に怪我をさせようとしていたように見えたという証言や乱入した女子生徒が庇うように応戦していたという証言とね。これで事故に見せかけた故意の傷害という事実が残るわけだ」
冬月会長はひとまず納得を見せていた。だがすぐに腑に落ちない表情を見せる。
「鈴原涼はチョーカーが非作動状態だと分かった上で今回の実習を行っていたという事か……。となると誰が一体……」
冬月会長は顎に手を置き、軽く俯いて思案するが、答えが出ない様子だった。
「どうかされたんですか?」
そんな冬月会長へ俺は問い掛ける。問い掛けられた冬月会長は面を上げると未だ答えが出ないみたいだった。
「今回の事件には不自然な点が多くてね。ここからの話は他言無用で頼みたいが良いかな?」
俺達は頷き同意を示す。
「実は今回、須山君が使用したチョーカーだが、どうやってすり替えたのかが分かっていない。元々、学校関係者と教職員しか触れないよう、厳重保管されている物だ。生徒がどうこうできる代物ではない。だが現にすり替えが行われた。もちろん主犯格である鈴原涼が計画したことに間違いはない」
「どうゆう事ですか?」
「すり替えたはずなのに、記憶が曖昧で覚えてないんだ。まるでその部分だけが抜けてしまっているかのように」
「自分達が画策して準備したはずなのに記憶がないんですか?」
「そこが今回の可笑しなところだ。いずれにせよこれから主犯格である鈴原涼と先ほど話に出た、共謀している二人へ深く追求していく事だろう」
ここで冬月会長はこの話題に一区切りつける。
「今、涼はどうしてるんですか?」
俺はこの騒動を起こした本人がどうなったのかを尋ねる。気持ちに怒りの色はなく、ただ冷静に、興味本位で訊いた質問だった。
「現在はニューマン専門管理病院にて
そこでパッと思い出したように今度は冬月会長が可憐へ話を振る。
「そうだ、次に春山さんが破壊した電子ロック式自動開閉扉の件についてなんだが」
言われた可憐はバツの悪そうな顔になる。人助けとはいえ、学校所有の備品破壊を行った事実に変わりないからだ。この件については、可憐の悩むところになってしまうし、俺もカバーできない。だが擁護しないかと言われれば、間違いなく俺はする気だ。
「扉についてはただの備品破損として処理され、稟議書を通して修復される。学校側も今回の事件はあまり
冬月会長は言葉には出さないが国の隠ぺい体質に辟易としつつ、組織としての体裁を維持するために渋々従っている、そんな印象を受けた。しかし、可憐の責任所在もうやむやになり、結果オーライとなったことは喜ばしい。
未解決ではあるが収束した今回の事件にそのまま生徒会長は一息つくと、ここで公私の公の部分を私へ切り替えたように、人の悪い笑顔を見せ始める。
今度は可憐へ冗談交じりに問い詰めていく。
「しかし無茶をしたな春山さん。そんなに須山君を助けたかったのかい?」
そう言った冬月会長は俺へ近づき、値踏みするように足先から頭頂まで見る。なんだなんだ。
「確かに制服越しだが体つきは他の高校生に比べて良い方にみえる。ルックスもそれほど悪くない。君はスポーツか何かをしているのかい?」
「えぇ、武術を少々」
「そうなのか。なら納得できる体つきだ。ところでなぜ春山さんは私と須山君の間に入ったのかな?」
気付けば可憐は、俺と冬月会長の間に体の半身を割り込ませ、まるで身辺警護するSPかのように乗り出していた。その行動に疑問符が浮かぶ。
「可憐? 急にどうした?」
「え? あれ? いや、どうしちゃったのかな! わたし!」
咄嗟に取った行動なのか、可憐は自分でとった行動に呆気からんとしている。そこで何かを悟ったのか冬月会長は得心がいったように半眼を閉じてこちらを見て笑う。
「なるほど、そういことか。ふははははっ! 須山君も中々、人が良いのだな」
「おっしゃる意味が分からないのですが……」
「今はまだ良いと思うが、あまり朴念仁だと愛想をつかされるから気を付けた方が良い。
これは女性としてのアドバイスだ」
「ですから仰る意味が……」
それ以上の言葉が出てこない程、意味が理解できなかった。
横目で可憐を見ると目が合うが、すぐに向こうから逸らされてしまう。その頬が仄かに朱色に染まっているようにもみえた。そして唯一、答えが分かりそうなクラスメイトは黙秘して答えを教えてくれない。自分で答えを考えろ、そう告げているように。
助け舟を求めて俺は視線をスライドする。戦国先輩を視野に入れ、視線に救援を含めて送る。だが、この中のもう一人の男である先輩も首を傾げている。
「ダメだぞ須山君。戦国も筋金入りの
「それってどうゆうことですか⁉」
戦国先輩は狼狽えながら、説明を求めたが冬月会長はスルーした。結局、この話は男子二人と女子二人に埋められない溝を残して終息となった。
一通りの聴取が終わり、話しきった二人は退出するため一礼して生徒会室を後にしようとした時、呼び止められる。正確には俺だけが呼び止められた。
「すまないが須山君は残ってもらえるかな?」
とても自然な流れだった。退出間際に声をかけたのは狙っていたのかと思えてしまうほどに。可憐だけに席を外して欲しいとは言わなかったのは冬月会長なりの気遣いなのだろう。残される理由は身に覚えはないが、断る理由もないのでそのまま残る事にした。
可憐は残る俺に「扉の近くで待ってるね」と耳元で囁いて先に退出してく。い、いかん。何故かムズムズして頬が緩んでしまうじゃないですか。
そして静寂が残された三人を包む。だがすぐにその静けさを破ったのはここに残るように頼んだ冬月会長だった。
「残ってもらって申し訳ない。実は須山君に伝えないといけない事があってね」
「なんですか? その伝えたいないといけない事とは」
「君のEAに関する話しだ。実は君と鈴原涼のECT時に残された映像記録を観させてもらった。能力の使えない状態で実に奮戦した戦いだったよ。最後の映像を観るまでは」
「それは可憐が助け出すまで……」
「そうじゃない。君が庇うまでの事を指して最後と言ったんだ」
言いかけた俺の言葉にかぶせる様に遮って訂正すると冬月会長は続けた。
「君は最後、可憐さんの盾になって庇った際にEAを発現したんだ」
そう告げた冬月会長は不可解なほど楽しげだった。そんな生徒会長に真っ向から意見をぶつける。
「しかし、変化と呼べるものは何も起きませんでした。あれで何か起きていたと言うのですか?」
「起きていたじゃないか。君の前で鈴原の能力を消滅させるという事象が。一応言っておくが、これは私の推論で話しているのではなくて、ECTに立ち会っていた研究者と教師陣からでた答えだ。実際にECT専用スーツには多種多様な計測機器が備わっていてね。その中の一つに、能力使用を表す計器も備え付けられていた。そして、計器はあのタイミングで激しい反応を示していたんだ」
俄(にわか)には信じられないが、事実を受け止めるしかなかった。だからだろうか押し黙り、しっかりと冬月会長の話に耳を立ててしまう。
「映像記録を検証してでた結論を伝えよう。君の能力はニューマンを “無力化 ”する力だ」
「……それは具体的にどういった能力なんですか?」
さっぱり話が掴めない俺の口から出たのは疑問の言葉しか出てこなかった。
「発動兆候や条件は今後、君の協力のもとで解明していく事になるが恐らくはある条件下で対象の能力を完全無効化するといったところだろう。なにせ類似するEAが存在しないものだから、研究者達も興味津々だったよ。もしこれが実証されれば、
話した冬月会長は自分の事のように嬉しくしている。しかし、俺は対照的に微妙な表情だった。なぜなら自身が思い描いていた特殊な能力とはかけ離れていたからだ。
やっぱり期待していたのだ。超常的な自然現象や特異能力が自分に秘められていると。
だから落胆も少なからず当然の事と言えば当然。そんな様子もつゆ知らず、冬月会長は能力の名前を告げようとする。
特徴がない事が特徴。まるで言葉遊びのようなその能力の名前は──
「仮ではあるが実証されればこの呼称が正式に付くことになっている。『
異能で無能な俺の能力名が冬月会長のアルトで、艶やかな声音が、生徒会室内に響いた。
〈入学編 下巻へ続く〉
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