【アンフェアデスマッチ】(4)

 入り口に辿り着いた私は扉の前で立ち往生することになった。普段は自動で開く扉が無機質な音声を発してその重い扉を堅く閉ざす。

『現在、フィールド使用中のためロックしています』

 ここに来て自分の判断が誤っていたことに苦虫を噛んだ。司令室に走れば中止措置を即座に取れたかも知れない。でもそれでは遅すぎる。フィールドは広く司令室まで移動している間に史弥くんが持たないかも知れない、そう思い直接彼をフィールド外へ連れ出すそうと考え中へ入ろうとした。

 少し考えれば分かることだ。外部から中への侵入を阻止するため、施錠されているかも知れないという考えに。

 しかし後悔している暇はない。今はどうすれば良いかを思案しなければならない。

「どうするの可憐。考えるの……!」

 自問自答が溢れる。焦りが冷静さを欠かせているのは分かっている。だから焦りを抑えて、最善の策を思考する。何かないの……!

 ふと何気無く扉の開閉部分にほんの僅かに隙間が出来ていることに気づく。

 このフィールドで何度も模擬戦が行われ、衝撃が加わった拍子に歪んだのだろう。でなければそう簡単に歪みは生まれない。だが今はそんな考察にふける場合ではないと思案し直そうとした時、光明の光が閃いた。

「これなら……。でもやったことは……ううん、やるしかない……!」

 意識をその僅かな隙間へ集中させる。上手くいって……‼

 眉間みけんしわを寄せていつも以上に意識を集中させる。自然に両手で祈るように──願望するように──まさに神事を彷彿とさせる祈りを捧げていた。

 そして現実に結果として現象は起こる。隙間に極小のインビシブル・ブロックを板状に挟み込む。正確には僅かな隙間の空間に生成することに成功した。こんなに薄く生成した事はなく初めての試み。何とかなった。

「よし! これで第一段階はクリアできた」

 だがまだ喜びには程遠い。これからなのだと気を引き締め、次に移る。さらに緊張が走る。今度はこの板状のインビジブル・ブロックを展開して扉を押し広げなくてはならない。

 この密閉型の扉は普通の扉以上に強固で堅牢な造りになっている。まるで映画に登場する軍事研究施設並みだ。

「でもこんなところでやめられない」

 意識を先ほど生成したインビジブル・ブロックへ集中させる。今度は横方向への展開。自身が持てる最大パワーで挑むんだ。

 しかし、非情にも扉は壁を作ったままだった。インビジブル・ブロックを拒むようにドアはそのたたずまいを崩そうとしない。

「ダメ……なの……?」

 声色に感涙が混じりそうになった時、激しい軋みが音となって伝わる。徐々にではあるがやっとその重い扉が広がり始めた。さらに向こう側の風景が視界に入り込む。

 周囲一帯が無差別に燃える室内。たゆまぬ炎が全身から点々とのぼる鈴原涼。その熱量が遠目から私に蜃気楼を映し出させる。

 さらにちょうど鈴原涼と私の間に彼──史弥くんは力なく片膝をついて息を切らしている。ボロボロな後ろ姿を見せて。胸の動悸が激しくなる。

 頭がボーっとするようでどこかフワフワしたような感覚が全身に広がる。理性が間に合わないのでは? と思いかけることで焦燥感が私の動きを鈍らせる。

 

それでも。

 最後まで望みは捨てたくない。

「絶対間に合わせてみせる……!」

 下唇を強く噛み、痛みを感じることで自分へ鞭を打つ。それは足掻きともとれる行為。望みを捨てない表れ。

「もっと……早く!」

 限界と思っていた展開速度がさらに一段階上がった気がした。激しい金属が捻じ曲がる音が響く。次の瞬間、扉は扇形おうぎがたに押し広げられるように変形していた。

 一人分が通過するには十分なスペース。

 私は勢いよく走り抜けるとさらにフィールド内の状況が一変しようとしていた。鈴原涼が史弥くんに対して炎を宿した右手をまさに振りかざそうとしている。

 そのモーションは正面一帯を焼き払おうとするように見えた。

「そんなことさせない! 絶対史弥くんは守ってみせる!」

 まるで私に憐可の精神が乗り移ったような気がした。すぐさま史弥くんの周囲へインビジブル・ブロックを展開する。

 私はインビジブル・ブロックを二つ以上の動作を行いながら発動するのを苦手としていた。元々マルチタスク自体に苦手意識があったからだ。

 でも今は彼を助けたいと一つの目標に向けた結果、無意識でこなせるようになっていた。走るという行動と並行してイメージ展開を同時に済ませている。

 今はその精神力が持つ限り破壊されることのない最強の盾を行使できる。

 だから不可能じゃない! 可能に……。奇跡を起こしてみせる……!

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