【静かな闘志】(6)

 立花の網膜投影スクリーンに警告表示が現れる。シールドが刻々と削られ始めたのだ。

「こっちのガス欠を待ってたな! 嘗めやがって!」

 溜まった疲れが一気に弾け、激しい怒りへと変わる。

 浩介が未来予知を発現しているのは中学時点で知っていた。未来予知継続時間、インターバルも。向こうからすれば接近し、その特性からすぐに制圧か戦闘不能に追いやれれば勝負が決まる。だから近接に備えてEAを行使しようと身構えていたのに距離を取ったのは正直驚いた。何故ならレビテーション浮遊は本体である自身には特別な能力はないという事。物体を使役しなければ使用者は無防備ということを意味する。だから距離を取ることは俺にとって一番勝率が高い展開。


 レビテーションは物体を浮かせることに長けたEAだ。世間ではテレキネシス念動力などと呼ばれることもある。浮遊距離は自身を中心に半径三十メートル以内。用途などの自由度は他の能力に比べて広い。物体を使役させ行使する力。但しニューマンだけは浮かせられない。ニューマンの特殊な脳波の波長がぶつかり合い干渉できない。だから浮かせられない。だが奴のチョーカーで形成された球体防護フィールドは別だ。フィールドに直接干渉して浮かせようとする事は出来る。但しそのシールドの体積に応じた大きさにより使用する干渉力もそれ相応に必要となる。俺のアビリティレベルレベルは一。おおよそあの体積量に干渉し続けるだけで削り切る前にガス欠を迎える。それだけシールドは強固でレベルの低い俺では到底無理なのだ。だから質量体を浮かせて細かくぶつけて質量体も含めた干渉力で削ろうと決めた。

 俺は能力差が分からない程、愚かではない。お互いに小中を共にしてきた顔馴染み。相手が保有している能力の概要は何となく理解できる。それは対戦相手である浩介も同様だ。

 しかしセオリーから外れた戦い方。

 ……最初から長期戦を狙っていた。能力特性を無視した戦略。

 ましてや自身のEAを熟知しているのなら猶(なお)更(さら)だ。

 同時にこれは屈辱だ。それほどまでに弄(もてあそ)ばれているのだ。


「……まだだ。俺はまだやれる」

 自身を鼓舞するために言葉にして呟いてみる。緩慢な動きになったブロックに弧を描くよう、壁裏に向かって飛翔させる。この一撃が俺にとって最後の一撃。

 レビテーションに限ってではないがEAは使用時間に比例して倦怠感・疲労が増していく。アビリティレベルに応じて使用時間も左右される。残念だがレベル一は連続使用時間が五、六分とかなり短い。満身創痍なのだ。

 コンクリート壁手前で四方に分け、意表をついてぶつけにいった。

 もちろん相手からすればコンクリート壁の死角からの突然の強襲で反応が遅れる場面になるはずだ。


 しかしそうはならなかった。

 タイミングを合わせたかのように後方へ避ける。既に発動している透視によりブロックは透過して視られていた。さらに機敏な動きを欠いたブロックの回避自体は容易のようだ。

 四つのブロックはレビテーションで浮遊しているが、効力が落ちている為か、半ば重力に従って落下し、砂煙を上げて砂上に転がった。

 それを最後に、脱力するように片膝を付いて呼吸を乱す。さながら潜水を行ったようだ。

 まさにこれ以上の力は行使できないことを意味していた。

 ただ俺はシールド耐久値がジリジリ削られるのを何も出来ず、見届けるしかなかった。

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