【静かな闘志】(5)
摸擬戦開始から七分が経過していた。網膜投影されているスクリーンの残り時間がその数字を短くしていく。
依然、四つのブロックが衝突しようと四方八方から俺を襲う。迫ってきたブロックを、また一つ軽い身のこなしで躱していく。
未来予知により、どの方向、角度で、接触するかまでが明確なビジョンとし頭の中にイメージされる。でも先ほどからこの未来予知を使わなくてもいいとさえ思い始めていた。なぜならブロックの衝突速度や動きが明らかに落ち込んでいるのが観察できていた。
この程度、未来を視るまでもないな。
玩具に飽きたと感じる退屈なものだった。対峙する立花はEAの使用に伴う疲労感で息を切らしているのが分かる。目元はきつく見開かれ、今にも瞼が下がって倒れそうだ。
「はぁはぁ、くそっ……!」
その疲れ切った声で悪態をつくだけの元気はあるが、集中力は散漫としている。
「残り三分……、後もう少しで終了だな」
俺は残り時間を気にしていた。それは名残惜しむよりどちらかといえば退屈な時間が終わるのを待ちくたびれているといっても言い。バックステップで、その動きが緩慢になったブロックを抜け、近場にある自身を覆い隠す程のコンクリート壁へ身を隠す。外周を目指して走っていたのはこの為だった。
「もう少し楽しませてもらおうか」
眼前の壁に集中力を向ける。
すると最初からそこに何もなかったかのように壁が透過し、その向こう側が見える。立花が立っている空間は黒ずみ、モヤがかかっている。
「ほんと、めんどくさ。壁がないと透視ができないなんて」
クレヤボンスは透視能力が付与されている。それはレベル一すべての者に。透視範囲や透視物の厚さ、使用時間、頻度、透視範囲や透過したものの視認度はアビリティレベルにより左右される。通常一時間使用すると二~三時間の強い眠気が生じることになる。比較的使い勝手の良い能力であり、戦闘向けではない
そして、能力発動には条件が存在する。
“質量物質が視界に入っている”こと。これは同一能力者すべてに共通する。これにより文字通り透視が出来る。何もない空間に透視能力を行使しようとしても質量物質がなければ能力は発動しない。
これは認識の問題だ。後頭葉の後頭極にある視覚野が視界内に物体があると知覚しなければ引き出せないのだ。だからイメージでは発動しない。誤認では引き出せる類の能力ではない。それほどまでにリアルな、物体が実際に存在していると認識しなくてはならない。
俺はその前提条件を満たすためにこの壁裏まで来たのだ。
「さて、その内側を見せてもらおうか」
集中力をさらに高めていく。黒いモヤが掛かった内側を覗き込もうと透過範囲を広げた。
強く内側を視せない反発力を感じる。押し返されるような。
負けじと透過範囲を強め、こじ開けるように、押し返すように広げる。透過の力場とシールド力場を衝突させて削っていく。
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