【静かな闘志】(4)
「なんだよ……あれ……」
今眼前で浩介は連続で飛来するブロックを一寸の狂いもなく完全に避け切っていた。先ほどと違いブロックは同時にではなく、時間差を置いて飛ぶように操作されている。さすがの浩介も走りながら避け切れず立ち止まり、回避に専念していた。
そんな様子を凝視して観ていると可憐が話しかけてくる。
「史弥くんは見るの初めてですよね?」
「あぁ。あんな神業みたいなのは初めてみた」
くすっと笑う可憐。何処か新鮮な反応を楽しむような笑み。
「それもそうでしたね。普通じゃないですよね」
「あれは何が起きているの?」
フィールド内で起きている光景の解説を求めてしまう。
「あれはですね、世間で皆さんがよく呼んでいる透視能力なんです」
「え? あれ透視なの⁉」
驚愕してしまう。俺の知る透視とは物を見透かす能力だ。今起きている現象とは関わりない能力に思える。
「えぇ、そうなんです。正真正銘、あれは透視です。ただ、今世間に浸透している俗称はその能力の一端でしかないですが……」
可憐は目の前の光景を眺めながら無表情で淡々と話していく。
「正式名称は
「千里眼……。確か、千里先を見通せる目って意味の言葉だよね?」
「はい。千里眼には言葉の意味がいくつもあってその一つが未来予知なんです」
「未来予知?」
非現実的な言葉が飛び出し、少し呆けてしまう。それもそのはず。余りにも現実離れしている。一般人だった俺からすれば耳を疑うワード。実際、数分程前の自分であれば信じられないだろう。だが、実際にその能力の片鱗を見せられれば、また別の話だ。
実際、そうでなければ説明がつかない。
「フフッ……。口が開いたままですよ?」
どうやら無意識に口が開いていたらしい。俺は慌てて口を閉じる。その反応が新鮮だったのか、可笑しかったのか、可憐に軽く笑われてしまう。
「笑わないでくれ⁉」
俺は呆気に取られていた顔を指摘され恥ずかしくて赤面してしまう。
「そ、それであいつは未来が視えるんだったよね?」
そっと話しを戻すも、若干さっきの表情が頭に残っているのか少し半笑い気味で可憐は説明を続けた。くっ、は、恥ずかしい……。
「ごめんなさい。それで、まずレベルの概念があるのは覚えていますか? クレヤボンスにはレベルによって使用できる能力が分かれています。レベル一で透視。レベル二で未来予知。レベル三でテレパシーに分かれています」
「ふぅーん、そんな風になっていたのか。てっきり透視能力だけがすべてだと思ってた。てことは今あいつ(浩介)が全部避けてられているのは予知能力のおかげなんだ」
「そうです。あの人は今、次の攻撃がすべて視えてるんです」
そこまで可憐に丁寧に解説されて、ふと疑問が浮かぶ。
「あのEAってどこまで先の未来が視えるの?」
至極当然な質問。何処まで先の未来が視えているのか、ただの好奇心で気になった。
「レベルによって見える時間は違いますからねー……、平均して約七秒くらいでしょうか?」
「七秒も視えるのか……」
一見短く聞こえる発動時間。だが油断を許せるレベルではない。実際、七秒先の未来が視えるだけでも脅威だ。事実、あの光景を見せられては警戒して然るべきであった。こと格闘技において実力差が激しい者同士によっては一撃で勝敗を決する場合もある。その根本は攻撃が当たる事が前提だ。あの能力はそれをほとんど無力化する。手の内が視えてしまっている時点でアドバンテージは計り知れない。まさに
「ああいうのに当たったらどうすれば良いのか……」
諦めがちな声が漏れてしまう。何故ならあれをどうにか出来る策はない。今は自身の潜在能力であるEAが一矢報えることを期待するしかない。なんて情けない。
結局意識をフィールド内の二人へと移す。今は問題を先延ばしにするしかなかった。
今も浩介は立花の攻撃をかわし続けている。
ふと、時間を気にすると戦闘に入ってから四分が経過していた。さきほど可憐に教えてもらった平均約七秒制約の時間は当に過ぎている。
「七秒経過して避け続けてるけど、あの能力には使用間隔や回数はあるんだよね?」
可憐に問いかける。七秒一回限りしか発動できないと思う程、単純に考えてはいない。だが現状、使用限界時間と思えるような切れ目や隙も感じられない。ともなれば使用限界時間に達する手前で攻撃を回避し、次の攻撃の合間で再発動の繰り返しを行なっている事までは推測できる。しかし実際のところ可憐に訊いてみなければ分からない。
彼女は少し首を傾げながら目を瞑り思い出そうとしてくれている。
そして、間を置いて答えてくれた。
「再発動までの間隔は一、二秒だったと思います。基本的に間隔はあまり個人差のないところです。回数は……個人差ですね。確か使用回数と使用時間によって反比例するはずだったと思います。一回の使用時間が長ければ回数は少なくなり、短くなれば回数も多く出せるはずだったと思います」
「やっぱりそうか……、という事は、総時間は決まっていて、一度の使用時間に制約があるということか……。可憐、教えてくれてありがとう」
改めて推測と一致したことで納得する。インターバル一、二秒が分かった事も収穫だ。
非常に瞬間的ではあるが、インターバルの隙をつくことが出来れば、僅かだが希望の光が見える。
「……」
俺は可憐に気付かれないように横顔を盗み見ていた。
本当に可憐は頼もしいなとしみじみ感じる。転校生ではあるが元々育ってきた環境や教育が異なるため、ニューマンに対する知識量が俺と違う。やはり勝手知ったる何とやらだ。
この機会に色々聞いておいて損はないだろう。
それにあの三人組が映画や漫画の様に人気のない学校裏に呼び出してトラブルなんて事案がいつ発生してもおかしくない。情報を集めておくのに用心に越した事はないはずだ。それにしても少し前の俺ならそのような事態になっても、持ち前のジークンドウがあるから問題はないと自信を持っていただろう。だが、それは一般人対一般人であればの話。
相手は三人のニューマン。能力はバラバラな上にどれも脅威だろう。さらにここまでで知った中で、一番相性が悪いのは未来予知だ。
こちらの攻撃は躱された挙句、反撃。後手に回っても此方の守りは容易く看破され、突破される。対峙した際の方法は一つだ。距離をとって逃げる以外に選択肢がない。
自信の一つが折れた音がした気がする。同時に遣る瀬無い気持ちや不甲斐なさが強く襲ってくる。誰かを守る時に、いざという時に、鍛錬を積んだのに全く歯が立たたず抗じれる手段は何一つない。体術を極めたのに体術で何もできずに完膚なきまでに負ける。そんな惨めな姿を想像してしまう。
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