【静かな闘志】(2)
Aフィールド内では二人の生徒が十メートル離れた開始線で向かい合っている。
一人は
向き合う二人の表情、雰囲気は対象的だ。
立花進は初めての摸擬戦で少々、肩の力が入っているのが周りから見て取れた。表情は緊張に満ちており、開始のアナウンスの待機に居心地を悪そうにしている。
対する前川浩介は非常に落ち着いていた。少し目を閉じ、開始アナウンスが来るのを静かに待っている。前準備をしっかり行ってきた者か、はたまたかなりの自信に満ち溢れてなのかと聞かれれば恐らく後者だろう。
それはAフィールド外に強化ガラスで隔てられた観戦エリアから観てしっかりと伝わった。観戦エリアはフィールド内全体を見渡せるように専用の高台席になっている。
可憐と俺の二人はあえて他の生徒達から少し離れた位置でフィールド内を観戦していた。離れた生徒達がこちらに視線を送るのを感じる。
視線を受けて先程このAフィールド観戦に来ていた生徒達の横を通過した時に聞こえた会話を思い出す。
『春山さん可愛いな……。俺声かけてみようかな……?』
『バカ! お前なんか相手にされないって! それよりまた一緒にいるぜ、あの紋無し』
『春山さんと慣れ慣れしくするなよ。お前じゃ能力も容姿も釣り合わないって』
会話が聞こえた時、俺はなぜ友人まで選ばれなければならないのかと憤りを感じた。可憐と親しくしてお前たちに実害が生まれるのか? 本人達は何の問題もなく、お互いに楽しくしているのに。そんな時、可憐は申し訳なさそうに声を掛けてくれた。
『少し離れた所で観戦しよっか……?』
俺は誘った手前、気を遣わせて申し訳ない気持ちになった。彼女は何一つ悪くないのに。
「ごめん……」
みんなと距離を取ってこの位置に来て、この言葉しか出てこなかった。
「気にしないで。史弥くんは何も悪くないんですから」
可憐は遠慮気味に朗らかな笑顔を見せて返して見せると続けた。
「もとは私が原因で……それに私はこれからも史弥くんとお付き合いしていきたいと思っていますし」
「あ、ありがとう」
今の言い方グッときちゃう。もう一回言ってもらって良いですか? 恋愛的なニュアンスに聞こえてドキドキしちゃうよ。……それはないか。でもそんな真っ直ぐにこちらを見据えて真剣に言うものだから照れ臭くなっちゃうじゃん。俺はこれからも友達でいようと言葉で伝えられた事にこそばゆさを感じ、おかげでさっきまでの嫌な感情は払拭された。
ふと思う。
可憐と憐可は一見すると性格も思考も全く違うように思っていたが根本は一緒なんじゃないかと。今だって声からは伝わらない強い意志を俺に見せてくれた。二人とも他人に左右されない意思をしっかりと具有している。この一面だけで、実は二人とも同じ感性の持ち主なのではと考えてしまう。二人は一つの感情を共有している。まるで居間で同じテレビを見ているのと同じ感覚で一つの
御淑やかな可憐と粗暴な憐可。
可憐は他人の押しに弱く、苦手な印象。入学式の一件を見ていれば分かる。対照的に憐可は物怖じせず、物事をはっきり他人に伝える。良くも悪くも自分の感情に素直。
あの日、クラスメイトに仲を引き裂かれそうになった時、憐可が何気なく放った一言も可憐は感じていた事なのだろうか。こんな能力があったって、孤独にしかならないんだから、か。
もし憐可が感じていたことが可憐も共有していたのなら、今の俺と似たような境遇を可憐も過去に味わってきたのだろうか。でなければこんな風に優しく、気遣うような接し方ができるわけない。
「摸擬戦もうそろそろですね」
「うん」
可憐はフィールド内を覗き込みながらこれから始まる摸擬戦に集中していた。
ひとまず置いておいて俺は先程の考えから意識をAフィールドへ移す。
生で目にする初めての摸擬戦。テレビで大人達が繰り広げる特異能力総合格闘技こと、
NBCでは今から行おうとする摸擬戦と違いチョーカーがない。彼らは加減をしてルールに乗っ取って戦う。スポーツに近い。その中でスリルを提供し、観客に楽しんでもらうのだ。まさに娯楽。だが摸擬戦はどうだ? チョーカーを使用して全力で戦う。まさに自身のすべてをぶつけて。しっかりとした安全性が取られている。まるで思う存分──力の限界まで戦えと言われているみたいだ。限界値を測るように。
「ではこれより摸擬戦を開始します。一戦目の生徒は、所定位置に移動して下さい」
定刻に達し、人形からアナウンスが入る。
「これより私の合図で始めてもらいます。制限時間は十分。制限時間に達しても勝敗が決しなかった場合はシールド耐久値が多い者を勝者とします。それでは良いですか?」
一呼吸置くと人形は明瞭な言葉を放った。
「それでは始め!」
合図と同時に開始を知らせる低い電子音が鳴り響く。固唾を飲んでフィールド内を眺める俺達。この時、初手で何かしらの攻撃に浩介が出ると予想していた。だが予想は裏切られる結果で形となる。浩介は相手に背を向け、後方へと走り出したのだ。
「えっ?」
俺は怪訝な面持ちになった。先程までの自信はなんだったのかという状況だ。
正直、拍子抜け。だが対する立花は明らかに焦りの様子を
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