【静かな闘志】
「皆さん揃いましたね。それではこれより模擬戦を始めたいと思います」
そう言った人形を含むECT参加生徒達はAフィールドに集まっていた。一コマ目の実習を終えた生徒各自の表情は久々の能力開放によって、スポーツでストレスを発散したような清々しい表情をしていた。EAが発現しなかった不完全燃焼の俺を除いて。
結局、EA覚醒テストを行い、能力の発現を促してみたが効果は得られず、どういった感情領域に能力が眠っているかという事のみが分かっただけだった。
そして今は生徒達の周りにいた人形を除く教職員達は次の模擬戦の準備に入るため、各フィールドから見える中央の指揮所室へ移動している。
一人残った人形は模擬戦についての注意事項を再確認し、第一戦目の対戦者発表を行なっていく。
「これより第一戦目の対戦発表を行います。使用するフィールドはA・B・C・Dの各フィールドに二名ずつで行います。まずはAフィールドの対戦者を言います。呼ばれた者は私の前に出てくるように」
その落ち着いた口調で人形は自身の手元に持つ、対戦者一覧が記載されているボードを確認して名前を読み上げる。
「
名前を呼ばれた二人はそれぞれ列から外れ、前に歩みを進める。その一人はよく知る顔だった。
「あいつは涼とよく一緒にいる……」
視線を向ける先には涼とよく行動を共にしている浩介が前へ出ていた。前に並んだ浩介の表情は余裕に満ち溢れ、明らかに勝利を確信していると言わんばかりの様子だ。
かなり自信ありげだな。それだけ自分の能力が優れている自信の裏返しか。
「両名はチョーカーを装着し、Aフィールドへ入るように。チョーカーは各フィールド入り口に備え付けられたBOXに入っています。摸擬戦対戦者はそこから各自、一つずつ取るように。──次にBフィールドの発表を……」
それから残りの各フィールド対戦者が読み上げられたが俺と可憐の名前が呼ばれることはなく二戦目へと持ち越しとなった。おかげで一戦目は観戦で様子を見ることが出来る。
俺はいきなり本番にならずにそっと胸をなでおろす。
「では、これで一戦目の対戦者は以上になります。五分後にアナウンスを掛けますので対戦者は指定フィールドへ移動して下さい。それ以外の生徒は観戦となりますので、観たいフィールド外へ移動して下さい。それでは解散」
人形は言い終えると指示所室へと歩いていく。生徒達がバラバラに散っていく中、俺は一人の女の子を探す。もちろん可憐だ。だが探すという行為を行うまでもなくすぐに見つかった。生徒達が行き交う隙間からその美少女の放つ異彩で圧倒的存在感を見落とす方が無理だ。彼女はこれからどうしようか周りの様子を窺っている感じにみえる。見つけた彼女へ歩み寄ると声を掛ける。
「可憐!」
「……⁉ ふ、史弥くん⁉」
こちらに気付いていなかった可憐は声を掛けられると少しビクっとして驚くと振り返る。その驚いた表情や仕草も小動物のような所作で可愛らしい。ちょっと仕返しが出来て楽しくなる。やったぜ。
「びっくりしたじゃないですかもぉ~」
「ごめんごめん。ところで良かったら一緒に観戦しない?」
一人で観るより友達と観た方が楽しいに決まっている。それに意見を交換出来るのは今の自分にとってプラスだ。だからこそ、こういったイベントでの交流は大事にしていきたい。それに折角できた友人と中を深める良いチャンスだ。
「ふぇ? あっ、はい! こ、こちらこそよろしくお願いします!」
一瞬キョトンとしたかと思えば、そう言って少し顔を赤らめる可憐。
──少し強引だっただろうか? もしかしたら他の人に誘われていたかもしれない。こんな美少女だ。男女問わず皆が声を掛けているはず。俺が知らないところで誘われていても何ら不思議じゃない。可憐の本心を捻じ曲げてしまったのではないかちょっと不安だ。確認しておこう。
「もしかして他に誘われている人とかいた? あれだったら俺は──」
「……そんなことないです! 一緒に観ましょう‼」
語尾がやたら強く、早口で捲くし立てるように可憐は否定してきた。なんかむきになってないか。一先ずは無理強いしていないようで良かった。今も動揺しているように見えるのは驚かせてしまったからだろう。次回はあまり驚かせないように配慮して声を掛けよう。
「じゃあ、早速観てみたいところがあるからそこに行ってみようか」
「ふ、史弥くんが観たいところってどこですか?」
まだ可憐の声が若干上ずっているが、そこは触れずに話を進めてることにする。
「Aフィールドの前田 浩介かな」
言われた可憐はいつも通りのペースに戻り、ほんの少し誰だったかを思案すると顔と名前が一致してハッとなった。
「確かその人って鈴原君とよく一緒にいる人ですよね。でも何のために……?」
俺にとって初めてのECTでどれを観ても真新しい事しかない。同時に何処を観ても一緒だろうが、今後の事情を鑑みれば観戦するフィールドはAにしておくべきだ。
「今後は何かと学校生活で関わりそうだしね。念のために事前に能力も知っておこうと思って」
「今後の為……? あっ……」
そういった可憐は元気なくシュンとしている。
どうやら可憐は入学式の一件の罪悪感が残っているのか暗い顔になってしまう。もう少し言い方に気を遣えばよかった。
「ほら、予防線みたいなものだよ。別に今後必ず何か起きるわけじゃないからさ」
俺は精一杯の笑顔で可憐に大丈夫だよアピールをした。言われた可憐は顔を覗き見ると我に返り、
「すみません、つい……」
正直男子ロッカーの一件でいろいろあったが、これ以上可憐に心配や不安は掛けたくない。だから早々に話題を切り替えようと本来の目的である “観戦”へ話題を変えることにした。
「じゃあ、Aフィールドに早速行こう。早くしないと摸擬戦が始まっちゃうし」
網膜投影されている視覚情報の時刻が先ほど人形が対戦者発表してから五分経過しようとしていた。
「そうですね。行きましょうか」
俺達はAフィールドを目指して小走り気味に向かった。
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