【EAの壁】 (2)

 楽しそうに二人が談笑している様子を教室の外から観察している人物達がいた。

「やっぱりまたあいつと一緒にいるよ」

 浩介は忌々しそうに涼へ耳打ちした。しかし彼は表情一つ変えず今は無関心だった。

 さらに隣にいるケイはそんな涼に提案する。

「どうするよ? あいつどっかで絞めちゃう?」

「いや、今は何もしない」

「どうしてだよ?」

 やる気を見せて握り拳を作るとてのひらでぶつけたケイは拍子抜けな声を漏らす。今一つ涼が考える事が分からなかった。

「だから言っただろ、今は良い。

 お前ら明後日の五限と六限の授業は何か言ってみろ」

「確かECTエクトESPAbility異能力special特別congruence合同training実習)だったよな……。そうかそういうことか……!」

 ケイは自分で呟き気付く。端で聞いていた浩介も察しが付く。

 二人が気付いた事を確認し、涼は不敵な笑みを浮かべた。

「ECTは中学でもあるが高校生になるとEAによる摸擬戦が追加される。それを利用するのさ」

「確かにあの授業なら能力開放してもお咎めなしで公然とぶっ飛ばせるけど……。でもよう、それって意味ないよな。あの授業は肉体的に痛めつけることが出来ないからさ?」

 浩介は思考した内容を涼に疑問として述べた。

 対して涼は笑みを崩さない。そんなことは百も承知で手を打ってあると言わんばかりに。

「ちゃんとスパイス工作を加えてある。明日、使用する機材にな。後で説明してやるよ」

 涼の回答に二人は首を傾げ、その言葉の真意を理解できなかった。

 未だに笑みの正体を汲み取れない。

 二人は分からぬままお互いの顔を見やりながら無言になる。


 ケイと浩介の思考を置いて涼は独白に近い独り言を呟いていく。

「じっくり楽しませてもらうさ。この俺に立てついたんだ。ただでは済まさない。ちゃんと派手に突っ伏してみじめな姿を晒せ。最高の入学プレゼントを渡してやる」

 涼は鋭い眼光を光らせ窓から見える須山に視線を向けた。

 さらに隣にいる憐可にも目がつくと値踏みするような視線になる。


「いつ見てもいい女だな。前の時と姿が変わっているな。特殊なEAを持っているのか。……益々気に入った。弱弱しそうな雰囲気も良いがあの容姿もそそるぜ」

 遠目から見た憐可に対して評価を下した涼はさらに所有欲を深めていく。

 まるでおもちゃを見るような眼つき。

「涼は良い女に目がないからな。逆らえば逆らうほど、蹂躙して、屈服させて従わせる。ほんと涼はサディストだよ」

「それだけ強情な分、歪んだ時の顔が最高なんだよ。

 屈辱にまみれた表情ときたら……。ハハッ、想像したら溜まらねぇ」

「ほどほどにしてくれよ」

 浩介は視線を同じ場所に向けながら忠告を涼へ述べる。

 だが気にも留めない素振りでうそぶくく。

「どうかなそれは。手に入れてからのお楽しみさ。だがそれよりもまずは須山だ。あいつだけは普通じゃ終わらせねぇよ。邪魔した事を後悔させてやる」

 浩介は涼の横顔が印象的だった。

 今まで見た人間の中でひどく濁った眼をして口元は歪み、これから相手をどのようになぶるのかを思案するような残忍さを秘めた表情。

 涼の友人である彼だったがその異常性には恐怖を覚えるばかりだった。

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