それからの日々
とある山間の集落が火災で全滅した。死体のほとんどは焼死。しかし、数名は引き裂かれたり、食いちぎられるという人狼のモノと思われるものだった。
そして村の中心で、心臓を抉り出され、四肢を捥がれ、顎を裂かれた人狼の亡骸が発見された。
この集落を調査した結果、全滅というのは間違いだったことが判明した。
死体の数が合わないからだ。
無事逃げ出すことができた者が一人いる。しかし、彼がどこへ行ったのかは分からなかった。
一月後、麓の村で一人の青年が保護された。
顔にはひどい傷があった。その怪我の後遺症なのか青年の左目は金に近い色をしていた。右目は茶色。
この青年が集落からの生き残りだと気づくのに少し時間が掛かった。
麓の村と、青年の集落は交流があった。荷物を持ち運ぶために何度か山を下り、この村へ足を運んでいた。
その頃の青年は明るく、傷もなく、何より髪の色が瞳と同じ茶色だった。けれど、今の青年の髪色は老人の様に白くなっていた。
集落の事は既に麓でも噂となっており、白髪の彼が以前の青年だと分かると、皆は彼がよほど恐ろしい目に遭ったのだろうと気を使い、当時の事を聞くことはしなかった。
青年、マティスはしばらくの間この村に身を寄せていたがふらりといなくなってしまった。彼が居なくなる前日、村人の数名も行方不明となっていた。
後日、行方不明者は村の外れで首をへし折られた状態で打ち捨てられていた。
それ以降も、彼が立ち寄る町や村では人が消え、人が死んだ。
突然身内を殺された人々は嘆き悲しんだ。
あの夜以降、マティスには世界が一変してしまった。
人の皮をかぶっていても隠しきれない死臭や悪臭。聞こえすぎる音や左右で見えるものが違ってしまっている事。
人にまぎれて人ならざるものが生活していることを知った。
こんなにも日常にまぎれているのかとマティスは驚いた。それと同時に人を彼らから守らなければいけないと思った。
人間のフリをしている存在は特に念入りに殺した。
姉を殺した彼とダブって見えてしまった所為だ。外見が変わっただけでなく、肉体的能力も向上していた。
素手で簡単に相手を殴り殺せてしまう。
だが、人は殺さない。その誓いだけは彼はずっと守っていた。自分の中の大事な誓いだ。それが自分が人であるための条件としていたからだ。
自分は人間だと、必死で言い聞かせてマティスは多くの人ならざるモノを屠り続けた。何年も、何十年も、何世紀も……
親しい人が出来たこともあった。だけど、穏やかな時間は続かない。
老いることのない彼を周囲の人間は恐れた。人を守るために戦っているつもりでいたのに、周囲からは疎まれ、化け物のような扱いを受けた。
時には助けた人に刃物を向けられることもあった。
別に感謝されたい訳ではない、けれど拒絶され続けるのは次第に彼の心を摩耗させていった。
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