EP - 05 新式
「うぅ〜ん…今何時…?」
あたりはまだ
私は音の海に身を
「おはよーパパー」
予想通り、リビングではパパが何やら難しい顔で
「おお、おはようレイナ。ずいぶん早いじゃないか。寝られなかったのか?」
「そりゃそうでしょ、機械人が家族になるんだよ?楽しみすぎて寝てなんかいられなかったよ…それより、なんかあった?やっぱりお金が厳しいの?」
「いいや、そういうわけじゃないんだ。いや、そういうわけじゃないわけじゃないけど…」
「いやどっちだよそれ」
「お金は厳しい。でもそれ以上に、これからどうなるかがわからないのが少し厳しいって感じ」
「なーんだそんなこと」
「そんなこととはなんだそんなこととは。こっちはお前の進学とか店の経営とか考えなきゃいかんことがいっぱいあるんだぞ…」
「パパ」
「なんだ…?」
「大丈夫、なるようにしかならないよ!」
「おまえ…はぁ、もういいや。なるようにしかならんな、なんか馬鹿らしくなってきた。レイナ、朝飯はパンでいいか?」
「パン好きー」
「チーズは?」
「のせるー」
「コーヒーは?」
「牛乳だけでいいー」
「机の上の物どかして、食べられるようにしといてくれ」
「はーい」
「ほんと、どうなることやら…」
朝のニュースを見ながらゆっくりとチーズの乗ったトーストをもぐもぐする。ふと、ノアが一緒に食事をする
「そういえば、機械人ってごはん食べるの?それとも充電するの?」
「…ああ、そうだったな。聞いて
「まじかー、すごいな技術って」
「ほかにも風呂だって入れるし、寝たりもするみたいだぞ」
「ふーん、じゃあほとんど私達と変わらないんだね」
「多分な、しらんけど」
いつもよりかなりゆったりと朝食をとり終えたあと、どうせやることもないので新しいギアのことを調べたりしながらリビングのソファーの上でゴロゴロしていた。
そうこうしているうちに大量のパーツとともに大きな金属の箱にいれられて機体が届いた。とにかく重たくて、結局フォークリフトでコンピューター室まで運んだ。
「ノア!新しい機体よ!」
「おお…機体って、こういうふうに届くんですね。私も初めて見ました…」
「機械人のボディは
「なるほど。ところで、私まだ自分のボディがどんなものか聞かされてないんですけどそれは…」
「え、パパ、本人に確認しないで注文したの!?見た目とかだいじょぶなの!?」
「それについては申し訳ないと思ってる。ちょっと気持ちがはやっちまった。でも安心してくれ、
「ほんとに…?じゃあ開けるよ?ノアも気持ちの準備はいい?」
「はい、レイナさん。よろしくおねがいします」
「せーの、どーん!!」
箱の中に入っていたのは、まるで人形のように整った人間だった。いや、人間にしか見えない。でも、今のノアのイメージそのままで、10秒くらいそのまま固まってしまった。
「ノア、これ、すごくない…?」
ノアも外部のカメラを通してちゃんと見えているはずだが、反応がない。モニターの方を見ると、アバターが口を開けたままフリーズしていた。
「ノア固まっちゃってるじゃん…ねえパパ、なにこれ。すごくない…??」
「期待に
ようやくフリーズから復帰したノアのアバターが、
「お父さん、これ、とんでもなく高いやつじゃないですか…?」
「高いぞぉ、全部もりもり1500万!最高じゃないか…」
「パパ、
「お父さん…その…良かったんですか?こんな
「いい。うちの
「パパ…本気で言ってる?」
「お父さん…」
「SPEEDSTARのは
ノアは信じられないという表情で自分の新しい機体とパパの顔を二度三度見たあと、
「わかりました。私のできる限りを
「ならよし。
「えー!私の
「うーん
「もちろんだよ!私をなんだと思ってるの!パパの娘なんだぞ!!」
「はいはいすまんかったね。じゃ、そっちは
「ソフトウェアの準備はもう
「了解了解、じゃあちょっとまっててくれ」
こうして、ノアの新機体への移行の準備が進められていたのだった。
「おーいノア、中枢の
移行の準備がすべて整ったのは、お昼ごはんを
結局私はほとんど横から見ているだけだったが、作業自体は人間で言う
「ノア、いけそ?」
「はい、準備はすべて完了しています。サーバーも…」
「ああ、問題はないはずだ」
「では今から、
「パパ、人間的同一性ってなに?」
「人間一人の
「ふーん」
「…また、移行中に何らかの
「そういうこともあるの?」
「ちゃんと準備もしたし、大丈夫だとは思うが…この世に絶対はないからな、しかたない」
「もし仮にそうなってしまった場合には、大変申し訳無いですが、未使用の機体を元の状態に戻して返品してください。それで料金の8割程度は戻ってくるはずです。旧機体の方も処分していただいて構いません。以上のリスクを負ってでも、私は新しい世界を見に行こうと思います。レイナさん、お父さん、良いですか?」
「もちろん!一緒に走れるの楽しみにしてるよ!」
「俺の整備の
「わかりました、では、しばらくの間お
そう言うと、ノアのアバターがモニターから消えた。
実際に機械人とこんなにもたくさん話したのは初めてだったが、意外と私達と変わらないんだななんて思ったけれど。
「やっぱり、私達とは違うのかな」
「そりゃ機械と人間だからな。でも、思ったより差は感じなかったと思わんか?ちょっと個性的ぐらいの印象だったけどな意外と」
「まあそうなんだけど…なんていうか、これから一緒にやっていけるのかちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ不安になったり…なんてしたりして」
「言い出したのはお前だろ?他人の人生に口出した以上、その責任は取るべきだと思うが」
「そうだよね」
「まあ、責任という点では俺も許可出しちゃったんだし、そもそも引き止めたのは俺だから半分くらいはもってやる。それに今はうちにいないけど、母さんだっているだろ?大丈夫、何かあってもどうにかなるさ」
「なにそれ、何もわかってないじゃん」
「そりゃ俺だって機械人の娘ができるなんて
そこで言葉を切ったパパは、ガレージの方を見つめた。視線の先には、私のギアと、
「それはお前一人でもそうだった。結局何も変わらんのさ。未来がわからんなんてことは」
「…」
「お前たちはお前たちの思う通りに生きればいいし、その結果がどんな形であろうと別に俺は
「パパ…」
「その代わり、条件もある」
「なに」
「死ぬなよ」
「…最高だね、パパ」
結局、ノアの機体が動き出したのは午後4時くらいだった。
最初に目が少し開いた。次に、指が少し動いたかと思うと肌にまるで命が宿ったかように、朱がさし始めた。そしてすぐに、今度は胸が小さく上下し始めた。どうも、呼吸をしているらしい。
私達は特になにかできるわけでもないので、
10分くらい
「おはようございます、レイナさん、お父さん。移行はおそらく無事成功したみたいです…」
そういいながら体を起こす。しかし、表情はそこまでスッキリしている感じではない。
「どうしたの?なにか不具合でもあった?」
「いいえ、
「なんで
「レイナさん、機械人は基本食事はしませんよ。私も生まれてこの方、おなかが減ったことなんてないんです。それに、なんだか雨に打たれたわけでもないのに体は
ノアは
「それはAstexのハイエンド機体、Arg-Ctシリーズから
「…なるほど、驚くほどの
「お腹が減ったってそれ、何でも食べられるの?」
「説明書きには特にダメなものはないし、エネルギーに変えられなかったらそのまま
「すでに人間に
「い…いいけど…」
「あ、エネルギーの
「もう人間じゃん」
「人間だな」
「人間ですよね…お父さん、なんでこの機体にしたんですか?」
「うーん、まあ、見た目が一番自然で可愛かったから、かな。見た目は重要だろ?」
「たしかに、髪の毛サラッサラだし目はきれいな青色だし、肌も白ーい!うらやましい…」
「そうでしょうか…いままであまり格好を気にしたことがないので、おしゃれも教えてもらわなければいけませんね、レイナさん」
「あ、おしゃれで思い出した!服買ってきてあるんだよ、その
「その前に、とりあえずなにか食べさせてもらっていいですか?あと水も…もう長くは持ちそうにないので」
「え、やばいじゃん!今持ってくるね!!」
「レイナ、ちょっと待て。ついでだし、
「…そうですね、今まで食べ物というものを気に
「お祝いといえばやっぱり
「それお前が食べたいだけじゃ…ノア、レイナがこう言ってるがどうだ?」
「お米の上にお
「決まりだな。それじゃ俺は車の用意するから、レイナはノアを着替えさせてやってくれ。あと、水も頼む。ノア、寿司屋まで大体15分くらいかかると思うがエネルギーは持ちそうか?」
「水分さえ
「よくわかってるじゃないか」
「前手伝いをしていた農家のおばあちゃんがそう言ってよくおにぎりを食べさせようとしてきましたから。今だったら、あのおにぎりも食べられるんですね…」
こうして、無事元気(?)になったノアは寿司屋にて
「なんですかこれ!なんですかこれ!!こんなにもすごい世界があったなんて!!人間はこんな素晴らしいものをひとりじめしていたのですね...うらやましい...いいえ、これからいろんなものを食べられると思うと心が
初めて食べる寿司にいたく感動し、なんと一人で店の全メニューを
「はぁー...食事って、すごいんですね...なんだかエネルギーがみなぎってくるようです」
「
帰りの車内でも、
しかし、
「大丈夫...?」
「あまりのおいしさに食べ過ぎてしまいました...走りに行くのを楽しみにしていただいていたのに、大変申し訳ありません...うップ...」
「まあ、慣れてないなら
「はい...よろしくお願いします...」
これからしばらくは教えることが多そうだと思ったけど、それも楽しみで仕方ない。まるで、妹ができたみたい。
完全に
なんとかフラフラのノアを
布団に入ったノアはすぐにウトウトし始めた。
「ほんとにその体で大丈夫なの~?」
「いろいろとお手数をおかけしてごめんなさい…あと数日もすれば慣れると思います。人間の皆さんはいろいろ楽しんでいる分、苦労もなさっているのですね」
改めて言われてみると、たしかにそうかもしれないと思った。
だって、食事も、お風呂も睡眠も、何もなければ
「いいじゃん、これからいろんなところ行って、いろんなものを見て、食べてしよ?」
「そうですね、楽しみにしてます」
「私も楽しみにしてる。じゃあ、初日はお疲れさまでした。おやすみなさい、ノア」
「おやすみなさい、レイナさん」
こうして、無事元気になったノアの
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