EP - 05  新式

 「うぅ〜ん…今何時…?」


 枕元まくらもとの時計を見る。午前5時54分。ノアが家族にくわわる事になった次の日の朝、私はいつもよりさらに一時間も早く目が覚めてしまった。新しい機体が午前中には届くと聞いていたので、正直夜もまともに寝られていない。機械人きかいじんの妹…姉?ともかく、機械人の家族なんて言うのは聞いたことがない。何ができるのか、何が違うのかははっきりとはわからないけど、これからは想像のつかないような毎日が待っていると思うと、夢にまでノアがあらわれたくらいワクワクしている。


 あたりはまだ薄暗うすぐらい。パパはもう起きているかもしれないけど、あたたかい布団から出るのは億劫おっくうだったからもうすこしごろごろすることにした。枕元に引っ掛けてあったヘッドホンを付ける。落ち着かない気持ちをおさえるように、そして時間が少しでも早く進むように、お気に入りのプレイリストを再生する。「Speed of light」、意味は光速こうそく。早朝、あたりが明るくなる直前のこの時間に聞くと鳥肌が立つほどしっくり来る曲だ。

 

 私は音の海に身をしずめながら、定期便ていきびんでいつも通るとうげを攻める想像をする。つづら折りの上り、直線でできるだけ加速し姿勢を低くする。カーブ直前で減速、体を内側に寝かせ、内足を先行させる。カーブ後半に差し掛かってきたところでフロントに荷重をかけつつアクセルを開ける。姿勢を立て直しつつ次のカーブへ…。頂上へ着く頃にはすっかり体も温まり、思考もえきってしまっていた。私はこれ以上寝ることをあきらめて一階へ降りる。


「おはよーパパー」


 予想通り、リビングではパパが何やら難しい顔で端末たんまつとにらめっこしていた。


「おお、おはようレイナ。ずいぶん早いじゃないか。寝られなかったのか?」


「そりゃそうでしょ、機械人が家族になるんだよ?楽しみすぎて寝てなんかいられなかったよ…それより、なんかあった?やっぱりお金が厳しいの?」


「いいや、そういうわけじゃないんだ。いや、そういうわけじゃないわけじゃないけど…」


「いやどっちだよそれ」


「お金は厳しい。でもそれ以上に、これからどうなるかがわからないのが少し厳しいって感じ」


「なーんだそんなこと」


「そんなこととはなんだそんなこととは。こっちはお前の進学とか店の経営とか考えなきゃいかんことがいっぱいあるんだぞ…」


「パパ」


「なんだ…?」


「大丈夫、なるようにしかならないよ!」


「おまえ…はぁ、もういいや。なるようにしかならんな、なんか馬鹿らしくなってきた。レイナ、朝飯はパンでいいか?」


「パン好きー」


「チーズは?」


「のせるー」


「コーヒーは?」


「牛乳だけでいいー」


「机の上の物どかして、食べられるようにしといてくれ」


「はーい」


「ほんと、どうなることやら…」



 朝のニュースを見ながらゆっくりとチーズの乗ったトーストをもぐもぐする。ふと、ノアが一緒に食事をする風景ふうけいが思い浮かぶ。そうなると、今リビングにある机には、椅子が私とパパ、あとはママの分しかないから一脚いっきゃく足りないな、と考えて思った。


「そういえば、機械人ってごはん食べるの?それとも充電するの?」


「…ああ、そうだったな。聞いておどろけ、なんと、今の機械人は飯も食えるみたいだ。意味わからんな」


「まじかー、すごいな技術って」


「ほかにも風呂だって入れるし、寝たりもするみたいだぞ」


「ふーん、じゃあほとんど私達と変わらないんだね」


「多分な、しらんけど」




 いつもよりかなりゆったりと朝食をとり終えたあと、どうせやることもないので新しいギアのことを調べたりしながらリビングのソファーの上でゴロゴロしていた。


 そうこうしているうちに大量のパーツとともに大きな金属の箱にいれられて機体が届いた。とにかく重たくて、結局フォークリフトでコンピューター室まで運んだ。


「ノア!新しい機体よ!」


「おお…機体って、こういうふうに届くんですね。私も初めて見ました…」


「機械人のボディは超精密機械ちょうせいみつきかいであると同時に、超高度データ端末でもあるからな。事前じせんにマルウェアなんかを入れられないよう、電波的でんぱてきにも外部から保護ほごする必要がある…んじゃないか?たぶん」


「なるほど。ところで、私まだ自分のボディがどんなものか聞かされてないんですけどそれは…」


「え、パパ、本人に確認しないで注文したの!?見た目とかだいじょぶなの!?」


「それについては申し訳ないと思ってる。ちょっと気持ちがはやっちまった。でも安心してくれ、期待きたいを裏切るものではないはずだ」


「ほんとに…?じゃあ開けるよ?ノアも気持ちの準備はいい?」


「はい、レイナさん。よろしくおねがいします」


「せーの、どーん!!」




 箱の中に入っていたのは、まるで人形のように整った人間だった。いや、人間にしか見えない。でも、今のノアのイメージそのままで、10秒くらいそのまま固まってしまった。


「ノア、これ、すごくない…?」


 ノアも外部のカメラを通してちゃんと見えているはずだが、反応がない。モニターの方を見ると、アバターが口を開けたままフリーズしていた。


「ノア固まっちゃってるじゃん…ねえパパ、なにこれ。すごくない…??」


「期待にえたようで何よりだ。Astexの現時点でのハイエンド、Arg-Ctシリーズの機体だ。オプションもできる限りせた、フルスペック仕様ってところだな」


 ようやくフリーズから復帰したノアのアバターが、おそる恐るといった様子でパパの方を見た。


「お父さん、これ、とんでもなく高いやつじゃないですか…?」


「高いぞぉ、全部もりもり1500万!最高じゃないか…」


「パパ、り切ったね…」


「お父さん…その…良かったんですか?こんな高級機こうきゅうき…」


「いい。うちの看板娘かんばんむすめになるなら、あんまりな格好かっこうさせられんだろう?SPEEDSTARで全戦優勝ぜんせんゆうしょうすれば余裕よゆうってもんよ」


「パパ…本気で言ってる?」


「お父さん…」


「SPEEDSTARのは冗談じょうだんだが、ウチの娘ならこのくらいの格好はしておいてくれよ。その分、しっかり店を手伝ってもらうしレイナと二人で広告塔こうこくとうにもなってもらう。それでいいだろ?」


 ノアは信じられないという表情で自分の新しい機体とパパの顔を二度三度見たあと、を決したようにうなずいた。


「わかりました。私のできる限りをくしてがんばります」


「ならよし。早速さっそく移行作業始めるから、ノアはソフトウェアの準備を。レイナはリビングでテレビでも見ていなさい」


「えー!私のあつかいひどくない!?私だってさすがにちょっとなら手伝えるよ!なにかできることないの!?」


「うーん仕方しかたないなあ。じゃあ、俺は旧機体きゅうきたいから中枢ちゅうすうを分離しておくから、お前は新機体の方の梱包こんぽうをある程度きれいにがして、作業台の上に寝かせられる状態にしておいてくれ。肌を露出ろしゅつさせるのは頭と首の後だけでいい。できるか?」


「もちろんだよ!私をなんだと思ってるの!パパの娘なんだぞ!!」


「はいはいすまんかったね。じゃ、そっちはまかせた」


「ソフトウェアの準備はもうととのっています、お父さん」


「了解了解、じゃあちょっとまっててくれ」


 こうして、ノアの新機体への移行の準備が進められていたのだった。




 「おーいノア、中枢の移植いしょく終わったぞー、機体に戻れるか?」


 移行の準備がすべて整ったのは、お昼ごはんをはさんで午後2時半くらいだった。

結局私はほとんど横から見ているだけだったが、作業自体は人間で言う頚椎けいついの部分に親指くらいの小さいクリスタルみたいなものを挿入そうにゅうするだけだったように見えた。機体の準備というよりも、移行中にほとんどの処理をうサーバーがやばいだのどうのといってそこの整備をしていた時間のほうが長かった。


「ノア、いけそ?」


「はい、準備はすべて完了しています。サーバーも…」


「ああ、問題はないはずだ」


「では今から、新式しんしき・五十嵐ノアの起動きどうシーケンスを開始します。まず、このアナウンス以降いこう、私の主幹しゅかんプログラムは新機体に移ります。ですので、人間的同一性にんげんてきどういつせい制限せいげんにより機体が活動を開始するまでの間は一切いっさいの呼びかけにおうじることができません」


「パパ、人間的同一性ってなに?」


「人間一人の人格じんかくだとか意識いしきっていうものは、一つの体にしか宿やどれないって言うことだよ。人権じんけん保証ほしょうされている機械人は、人間から見てどれが本人なのかわかるよう、コピーや分身を作ること、またはそれにるいする行為こういきびしく制限せいげんされているんだよ」


「ふーん」


「…また、移行中に何らかの不具合ふぐあいが生じた場合はシーケンスを中止し、本サーバーに復帰ふっきします。しかしながら、ごくまれに発生する深刻しんこくなエラーにより主幹プログラムが損傷そんしょうすると、二度と私が私として起動することはできません」


「そういうこともあるの?」


「ちゃんと準備もしたし、大丈夫だとは思うが…この世に絶対はないからな、しかたない」


「もし仮にそうなってしまった場合には、大変申し訳無いですが、未使用の機体を元の状態に戻して返品してください。それで料金の8割程度は戻ってくるはずです。旧機体の方も処分していただいて構いません。以上のリスクを負ってでも、私は新しい世界を見に行こうと思います。レイナさん、お父さん、良いですか?」


「もちろん!一緒に走れるの楽しみにしてるよ!」


「俺の整備の経験けいけんほこりにかけて、成功すると断言しておくよ。安心して移行するといい」


「わかりました、では、しばらくの間おわかれです。またあいましょう…」




 そう言うと、ノアのアバターがモニターから消えた。

 実際に機械人とこんなにもたくさん話したのは初めてだったが、意外と私達と変わらないんだななんて思ったけれど。


「やっぱり、私達とは違うのかな」


「そりゃ機械と人間だからな。でも、思ったより差は感じなかったと思わんか?ちょっと個性的ぐらいの印象だったけどな意外と」


「まあそうなんだけど…なんていうか、これから一緒にやっていけるのかちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ不安になったり…なんてしたりして」


「言い出したのはお前だろ?他人の人生に口出した以上、その責任は取るべきだと思うが」


「そうだよね」


「まあ、責任という点では俺も許可出しちゃったんだし、そもそも引き止めたのは俺だから半分くらいはもってやる。それに今はうちにいないけど、母さんだっているだろ?大丈夫、何かあってもどうにかなるさ」


「なにそれ、何もわかってないじゃん」


「そりゃ俺だって機械人の娘ができるなんて一昨日おとといまでは考えたこともなかったし、ぶっちゃけ何が必要で、何が変わるのかなんて見当けんとうもつかん。でもな」


 そこで言葉を切ったパパは、ガレージの方を見つめた。視線の先には、私のギアと、こわれてしまったノアのギアが並べられている。


「それはお前一人でもそうだった。結局何も変わらんのさ。未来がわからんなんてことは」


「…」


「お前たちはお前たちの思う通りに生きればいいし、その結果がどんな形であろうと別に俺はかまわない。ただ、お前や、お前がき付けたノアがSPEEDSTARにいどむというのなら、それは俺にとっても最高にエキサイティングなことだ。だからこうして全力でバックアップしてやる」


「パパ…」


「その代わり、条件もある」


「なに」


「死ぬなよ」


「…最高だね、パパ」




 結局、ノアの機体が動き出したのは午後4時くらいだった。

 最初に目が少し開いた。次に、指が少し動いたかと思うと肌にまるで命が宿ったかように、朱がさし始めた。そしてすぐに、今度は胸が小さく上下し始めた。どうも、呼吸をしているらしい。

 私達は特になにかできるわけでもないので、だまって見守みまもっていた。


 10分くらいっただろうか。作業台の上にの転がったまま、ノアが口を開いた。


「おはようございます、レイナさん、お父さん。移行はおそらく無事成功したみたいです…」


そういいながら体を起こす。しかし、表情はそこまでスッキリしている感じではない。


「どうしたの?なにか不具合でもあった?」


「いいえ、各機能かくきのうはすべて正常に稼働かどうしているはずです。なんですけど…なんだか力が出ません…これは、おなかが減っているのでしょうか?」


「なんで疑問形ぎもんけい…」


「レイナさん、機械人は基本食事はしませんよ。私も生まれてこの方、おなかが減ったことなんてないんです。それに、なんだか雨に打たれたわけでもないのに体は湿しめってきてるし、頭が熱い…これ、本当に大丈夫なんですか?」


 ノアはみょう混乱こんらんしているようだった。たしかにパパは、”新型機体は食事もできるぞ!”なんて言ってたけど、それはつまり、なにか食べないといけないということなんだろうか。


「それはAstexのハイエンド機体、Arg-Ctシリーズから実装じっそうされた新機能によるもので間違いない。疑似生体機構ぎじせいたいきこう、つまり、人間の生理現象せいりげんしょう擬似的ぎじてきに機械人に実装したものだ。他にもPECと呼ばれる”より人間らしいふるまいを行うためのデータセット”を走らせるための専用ハードウェアも載ってるから、今までとは勝手がかなり違うかもしれない」


「…なるほど、驚くほどの進歩しんぽですね。将来的しょうらいてきには食事だって可能になるだろうといううわさは数年前からありましたが、まさか、自分がこの身を持って体験することになろうとは」


「お腹が減ったってそれ、何でも食べられるの?」


「説明書きには特にダメなものはないし、エネルギーに変えられなかったらそのまま凝縮ぎょうしゅくして…排泄はいせつされるって…なるほど、そこまで人間と一緒なのか…」


「すでに人間に最適化さいてきかされている社会に溶け込むためには、人間を真似まねるのが一番という理屈りくつも、経口けいこうで何かを体内に入れる以上、外に出すものもあるという理屈も、両方わかるんですが…技術の無駄遣むだづかい…いいえ、それが最適だったんですね。レイナさん、後で少し付き合っていただいてもよろしいでしょうか」


「い…いいけど…」


「あ、エネルギーの変換効率へんかんこうりつは人間ほど高くないから、すこしりょうたべるかもとは書いてあるな。あと、排熱はいねつ発汗はっかんたよる割合がすごく高いから、水分はしっかり取らないと熱暴走オーバーヒートするってよ」


「もう人間じゃん」


「人間だな」


「人間ですよね…お父さん、なんでこの機体にしたんですか?」


「うーん、まあ、見た目が一番自然で可愛かったから、かな。見た目は重要だろ?」


「たしかに、髪の毛サラッサラだし目はきれいな青色だし、肌も白ーい!うらやましい…」


「そうでしょうか…いままであまり格好を気にしたことがないので、おしゃれも教えてもらわなければいけませんね、レイナさん」


「あ、おしゃれで思い出した!服買ってきてあるんだよ、その梱包材こんぽうざいさっさといで、服着替えよ!!」


「その前に、とりあえずなにか食べさせてもらっていいですか?あと水も…もう長くは持ちそうにないので」


「え、やばいじゃん!今持ってくるね!!」


「レイナ、ちょっと待て。ついでだし、新生祝しんせいいわいってことでどっか食べに行くか。ノア、人生はじめての食事でなにか食べたいものはあるか?」


「…そうですね、今まで食べ物というものを気にめたことがないのでわからないです。なにかおすすめはありますか?」


「お祝いといえばやっぱり寿司すしじゃない!?寿司にしよ寿司!!」


「それお前が食べたいだけじゃ…ノア、レイナがこう言ってるがどうだ?」


「お米の上にお刺身さしみがのってるアレですね?確かに気になる…うん、寿司を食べに行きましょう!」


「決まりだな。それじゃ俺は車の用意するから、レイナはノアを着替えさせてやってくれ。あと、水も頼む。ノア、寿司屋まで大体15分くらいかかると思うがエネルギーは持ちそうか?」


「水分さえ補給ほきゅうできればなんとか持つのではないかと思います。それに、ご飯は空腹くうふくのほうが美味しく感じるんでしょう?」


「よくわかってるじゃないか」


「前手伝いをしていた農家のおばあちゃんがそう言ってよくおにぎりを食べさせようとしてきましたから。今だったら、あのおにぎりも食べられるんですね…」




 こうして、無事元気(?)になったノアは寿司屋にて


「なんですかこれ!なんですかこれ!!こんなにもすごい世界があったなんて!!人間はこんな素晴らしいものをひとりじめしていたのですね...うらやましい...いいえ、これからいろんなものを食べられると思うと心がおどって仕方ありません...あ、中トロ2皿追加お願いできますか」


 初めて食べる寿司にいたく感動し、なんと一人で店の全メニューを制覇せいはするという快挙かいきょ暴挙ぼうきょ)をげた。お会計の時、パパがしずかになみだを流していたのは見て見ぬふりをした。


「はぁー...食事って、すごいんですね...なんだかエネルギーがみなぎってくるようです」


実際じっさいにエネルギーになってるんだけどな」


 帰りの車内でも、ひとみをキラキラかがやかせて窓の外(の主に食べ物屋)を見つめているノアを見て、なんだかこっちまでうれしくなってしまった。


 しかし、華奢きゃしゃな体型でかつ食事にもれていないのに一人で50皿近くもたいらげたわけで...家に帰ってからというもの、ずっとおなかをかかえてソファの上に丸まっている。


「大丈夫...?」


「あまりのおいしさに食べ過ぎてしまいました...走りに行くのを楽しみにしていただいていたのに、大変申し訳ありません...うップ...」


「まあ、慣れてないなら加減かげんがわからないのも仕方ないよね。あ、出そうになったら教えてね。トイレ教えるから...」


「はい...よろしくお願いします...」


 これからしばらくは教えることが多そうだと思ったけど、それも楽しみで仕方ない。まるで、妹ができたみたい。


 完全に復調ふくちょうしたのは夜で、しかも今度は眠たくなったとか言い出すし、お風呂でも体の洗い方を教えなきゃいけなかった。同じくらいの背丈せたけしてて、なんならお姉さんっぽいな...と思ってたのに、まるで赤ちゃんみたいで笑ってしまった。


 なんとかフラフラのノアを介抱かいほうしながら寝る準備をませ、私の部屋に連れていく。あまりにも急な出来事でさすがに部屋やベットは用意できなかったので、本人はソファで寝ると言ってたけど、一緒に寝ることにした。もともと少し大きいベットだが、二人で寝ると少しせまい。なにより、機械人だってことを忘れてしまうほど、ノアはなんだかやわらかくて、温かかった。

 布団に入ったノアはすぐにウトウトし始めた。


「ほんとにその体で大丈夫なの~?」


「いろいろとお手数をおかけしてごめんなさい…あと数日もすれば慣れると思います。人間の皆さんはいろいろ楽しんでいる分、苦労もなさっているのですね」


 改めて言われてみると、たしかにそうかもしれないと思った。

 だって、食事も、お風呂も睡眠も、何もなければ苦労くろうもない...かな。でも、食べるのはおいしいし、お風呂はさっぱりするし、休みの日にゆっくりお昼まで寝るのは幸せだ。


「いいじゃん、これからいろんなところ行って、いろんなものを見て、食べてしよ?」


「そうですね、楽しみにしてます」


「私も楽しみにしてる。じゃあ、初日はお疲れさまでした。おやすみなさい、ノア」


「おやすみなさい、レイナさん」


 こうして、無事元気になったノアの擬似ぎじ人間体験一日目はまくを下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る