EP - 04 理由
「はあ、まったくあいつは…」
朝食を済ませ、
「まあ、こうするしかなかったということにしておくか…」
事実、あの場でこの子をそのまま行かせるわけにはいかなかったのは確かだ。しかし、方法は他にいくらでもあったのではないかと考えを
作業台の上に寝かせたノアを
「…はあ、やっちまったかなあ」
最後に後悔の念をため息と一緒に吐き出して、
Astexの業者向けサイトを開き、
しかし、急な話ではあったにしろ要するにこの機械人は、これからうちの家族になると言っても過言ではないわけだ。正直どんな関係性を築くことができるのかなんて
容姿が優れたものを追っていくと、どんどんとハイスペック機体のラインナップに
「あ、これは…」
ページをスクロールする手が止まった。ひときわ肌の透明度が高く、
これしかない、と思った。オプションで今の
「”私達はついに壁をこえ、新しいステージに進みます。”…だって?どんなキャッチコピーなんだ一体」
しかし、新機能の
「”睡眠、食事から入浴まで、どんなときでも人間のそばにいて、時間を共有することができます。”…か。ありえん、一体いつの間にこんなに世界は進んだんだ…」
作業台に横たわるこの機械人の娘が、レイナと一緒に食事をしたり、一緒に寝たりしているシーンを想像する。それはほとんどの人間が今まで誰も体験したことのない世界であり、どちらかというと本当にそんな事が可能なのか、ハッキングやエラーで
「”Arg-Ctシリーズは、Astexが
思わず目を閉じた。世界は、今まさに目の前で
深く息を吸い、ゆっくりと吐く。決断とは2割の意思と8割の
これで機体の問題はどうにかなった。次はソフトウェアの方だ。
作業台の上に横たわる彼女の長い白髪をかき分け、
「しかし…この髪の毛、
「こりゃあ…サーバーも入れ替えなきゃきついのか…?流石に
程なくして、メインフレームプログラムが展開し終わったのか画面に
「改めまして、こんにちは。私は元・無所属の初期型ヒューマノイド飛脚、ノアです。この度は私を受け入れてくださり、誠にありがとうございました」
「そんなかしこまるのはよしてくれ。これからお前はうちの娘になるってことだろう?新しい機体も発注かけたし、これから短くない付き合いになるんだから」
「わかりました。そういえば、レイナさんのお名前はお聞きしましたが、お父様の名前をまだ聞いていませんでしたね。これから関係を
「俺の名前は
「ちゃんとした整備自体がかなり久しぶりになりますので、更新するものが多すぎてちょっと大変なことになってるだけです。じきにタスキングが終わりますので、しずかになるはずです」
「なるほど…っておい、なんだこれ。とんでもなく古いドライバばっかりじゃないか!?一体いつから整備してない!?」
「最後の整備が会社を辞める直前ですから、5年は
「5年…ネットワーク
「
「その間、ずっと走り続けてたのか?」
「いいえ、そういうわけではありませんよ。身を寄せるところがないと言っても飛脚をやっていたんです、多少の知り合いはいました。だから、一年くらい畑を手伝ったりということはありました」
「飛脚用のドライバ入れてて更新なしに畑か…信じられんと言う他ないな。ネットワーク更新は?」
「ネットワーク機能は何故か利用できなかったんです。ですので、その間ソフトウェアの更新に関してはKanadeのギア用のが3年前に一回あっただけです」
「5年間更新なしか、よくもったな…」
通常であれば、機械人は毎年4月に
「そうとも言えませんよ?私は飛脚という職業の特徴から、クラウド型ではなくスタンドアロン型として作られています。だから、クラウドのバックアップがなくとも通常の人間と同じくらいのことはできます。ただ、それが原因で世に
「…カモシカの
「そうです。ギアを見ましたか?私は元・カモシカ
カモシカ運輸の件は比較的大きなニュースとして取り上げられていたので、よく覚えている。ヒューマノイド飛脚はその当時、日本の技術力の
結局、SPEEDSTARの影響で人間の飛脚が急増し、ヒューマノイドの飛脚はカモシカ運輸の
「ゆく宛のないまま投げ出されたって、他の仕事とかが用意されていたわけじゃないのか?」
「やはり、ご存じないのですね」
画面の中のノアが苦笑いを浮かべる。
「もともと私達は人間と同じ言語で
ノアが少し遠い目をする。
「私が
「…」
「私達ヒューマノイド飛脚は
「機体内に
「そのとおりです。つまり
「…つまり、
「みんな、最後まで持たなかったんです。カモシカは、
「消耗品がいきなり人間になった…か」
「ジンさんが気に
「そうか…」
「カモシカを
ノアのアバターの目に熱がこもったように見えた。
「私は、機械人として、もう一度人間と並んで走りたい。私達はあなた達人間と変わらないのだと認めてもらいたい。そして、私達機械人にも、少しは優しい世界になってくれたら…」
さっきカモシカでの
「色々と、大変だったんだな…」
世の中には、知らないほうが幸せだった情報というのが少なくない。これもまた、そういう情報の一つだったのかもしれない。
ノアが表情を切り替えた。
「すいません、重たい話をしてしまって。とにかく、ジンさんたちはこんな状態でも私を受け入れてくれました。それだけでなく、レイナさんは私と一緒に走ってくれるといっています。さらに、SPEEDSTARSにも出場すると。これ以上は望めないというほどの環境を
「…ん?おと…?急にどうした」
「いえ…私も今年で
「いや、いいんだ。うちで
「ありがとうございます、お父さん。これで私にも家族と帰る家ができたというわけですね…いろいろとご
「こちらこそ。娘もあんまり学校では話が合う相手がいないみたいだから、同じ
機械人を家族として受け入れるなんてケースは、ある程度機械人の存在が普通になってきた現代においてもそうそうあるもんじゃない。
しかしながらこの先、人間社会から機械人の存在が消えることはおそらくもうない。だから、今から乗り越える壁は、いつか、誰かが超えなければいけない壁なんだと思う。
それでも不思議と、レイナとノアの二人なら
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