第3話
「ただいま戻りました。」
「あぁ、おかえり。すまないねセバス。助かったよ。」
「いえいえ。ブレッドさんに美味しいご飯を作ってもらえてお嬢様も私も、とても感謝してますよ。このくらいのお手伝いはさせてください。」
「任しとけ。今日も腕によりをかけて旨い飯を作りますよ。」
荷物を受け取り、ブレッドさんはニカッと笑い、調理場へと消えていきました。
さて、私も溜まった仕事をしますか。
「セバス~。セバス~。どこ~?」
……返事をしたくないけど、仕方ない。
「お嬢様、そんなに声を出して何度もお呼びになるのは、お嬢様の品格を下げる行為ですので止めるようにお伝えしているはずですが。」
「あ~! セバスいた~。何処に行ってたのよ~。」
「街へ買い出しに行っておりました。お嬢様。領主様のご令嬢として相応しい振る舞いを意識してくださいませ。」
「え~。セバスばっか街へ言ってずるい~。ずるいずるいずる~い。」
ええい! こっちの話を聞けー! こめかみがヒクヒクして、笑顔が固まっていく。ピキピキと。こりゃ明日は顔の筋肉痛だな。
「……お嬢様、それが私の仕事でございます。お嬢様は勉強で身につけた教養を常に意識して毎日を過ごされることこそ、お仕事でございます。領主様や家人が誇れるような教養のあるお嬢様におなりください。」
「え~。やだ~。」
やだ~。じゃないよ! やだじゃ!
俺だってお嬢様にお小言を言うのやだよ!
こら、お嬢様に付いてるメイドども! 隠れてやり取りを見てないで早く来い!
柱の陰からこっそり見てるのを見つかってないとか思ってないだろうな!
「…お嬢様、メイド達も来たようなので、後はメイド達と共にお勉強をお続けください。」
「やだ~! 勉強やだ~! 疲れた~! つ~か~れ~た~! セバス遊んで~!」
俺、お嬢様の相手で疲れてるんですか!?
「お仕事がありますので、ここで失礼しますねお嬢様。」
「ダメ~! いや~! いやぁぁぁーー!!」
…ほら、もう…お嬢様が泣き出したよ。今さら慌ててメイド達が来ても遅いって。
……カツン。
「にぎやかな声が聞こえるけど、何かあったのかしら?」
……はぁ。
バッ!
俺とメイド達が頭を垂れる。
「おがぁぁちゃ~まぁぁ。」
お嬢様がお母さん、領主夫人へと突撃する。夫人は娘を柔らかく受け止める。
俺も夫人に向かって走ったら素晴らしいクッションで受け止めてくれるかなぁ。
「セバス。娘は何で泣いてるの?」
おっと、マジメにお返事しないと。
「はっ。私が買い物から戻ってきたところ、お嬢様と出会いまして。街へ行ったことが羨ましいと話され、連れていって欲しいと頼まれましたが、すぐにお連れ出来ないことをお伝えすると、このように……申し訳ございません。」
「……ねぇ、メアリ。そうなの?」
泣いてたお嬢様が泣き止み、奥様から顔を逸らす。
「そうねぇ……メイド達はどうなの? セバスが言ってることで合っているの?」
「私達は……先ほどこちらに着いたもので……分かりません。」
顔が青くなってるけど、知らないよ。嘘をつかなかったのは素晴らしいと思うけど。まぁ、嘘をついたら後で懲らしめてやるけどな。それよりそっちはお嬢様専属なんだし、しっかりしてくれよ。こっちは巻き込まれて困ってんだぞ。
「ふ~ん……」
あぁ、これアカン……アカンやつや。終わったな……顔は普通だけど、怒らせてはいけない人を怒らしてしまったな……
合掌。
「後で確認するから今はいいわ。メアリー。セバスもお仕事があるからワガママ言ってはいけないわ。あと、メアリーはこの時間はお勉強の時間だけど、お勉強はどうしたのかしら? もう終わったのかしら?」
「……」
お嬢様まで顔が青くなっちゃったよ。たしかに夫人からは炎のようなオーラがでてきているもんな。震えすぎて歯がガチガチ鳴ってるよ。まぁ、自業自得だけど。
「お母さんに勉強の成果を見せてくれるかしら。今からメアリーの部屋に行きましょ。」
「今は……部屋が散らかってるので、また後にでも……」
「大丈夫よ。そのためにメイド達がいるんですもの。メアリーの部屋に行きたいの。今だと何かまずいの?」
そりゃまずいですよね。お勉強サボってたでしょうし。
「ご、ご飯の後にしませんか? そしたらゆっくりとお話しできますし。」
「そうしてあげたいんだけど、ご飯の後は予定が詰まってるの。だから今から行きましょ。さぁ、メイド達も一緒にね。どんな勉強をしたのか聞かせてくれるかしら?」
「……はい、奥様。」
「では、お仕事に戻りますので、失礼します。」
ふぅ、疲れた。
「セバスは後で私の部屋に来てちょうだい。」
……何故に!? 関係ないじゃんって言うか、アレだよなぁ。
「……かしこまりました。」
はぁ。
執事の思い出。 くじら時計 @k2kujiratokei
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