第7話 次のステージへの旅立ち
その頃。
悠大と嶺亜は昨夜は一緒のベッドに眠った。
悠大が嶺亜を部屋に招いて、一緒に寝て欲しいと頼んだようだ。
夜も遅かった事と、嶺亜が怪我が治ったばかりで疲れているのもあり何もしないまま、だた一緒に寝ただけだった。
先に目を覚ました悠大。
まだぐっすり寝ている嶺亜の寝顔を見て、とても幸せを感じた。
天使のように穏やかな嶺亜の寝顔。
赤ちゃんみたいに手をバンザイにしてい寝ている嶺亜を見ると、たまらなく胸がキュンと鳴った。
「可愛い…」
悠大はそっと嶺亜の髪に触れて見た。
サラサラしていて柔らかくて、癖毛なのかそれともウェーブをかけているのか判らないが、綺麗にカールがかかっている髪も魅力的で。
ずっと嶺亜を傍で見ていたいと悠大は思った。
7時を回った頃。
嶺亜が起きてきた。
先に起きていた悠大が朝食を作ってくれていた。
「ごめんなさい、寝坊してしまったようで」
身支度を整えて降りてきた嶺亜に、悠大はそっと微笑んだ。
「構わないよ。今日は休みだし、ゆっくり寝ててもいいよ」
「でも…」
嶺亜は食卓に並んでいる朝ご飯を見た。
目玉焼きにサラダと温かいお味噌汁と味付けのりが並んでいた。
「これ、作ってくれたんですか? 」
「あ、ああ。このくらいしか、作れないけど。味噌汁はインスタントだし、目玉焼きちょっと焦げてしまったけど、ごめんね」
嶺亜は目玉焼きを見た。
確かにはしっこが焦げているが、とても美味しそうに見える。
「大丈夫ですよ、このくらい。とっても美味しそう」
悠大が作ってくれた朝食を2人で食べて、楽しいひと時を過ごした。
ご飯が少しかために感じたが、気持ちが通い合って食べていることが何より嬉しかった。
「和也君。昨日は帰って来なかったんですね」
「そうみたいだな。泊ってくるとは、メールが来ていたが」
カタッ。
ちょっと大きめの物音がして、悠大と嶺亜は驚いた。
「何の音だ? 」
「和室の方から聞こえましたね」
悠大と嶺亜は様子を見に行った。
和室。
いつも和也が使っている部屋で、今まで荷物が置いてあったが、その荷物がなくなっていた。
布団は綺麗にたたんで端っこに置かれている。
と…。
窓際に誰かが立っている。
和室のドアを開けて、悠大と嶺亜が入って来た。
「あれ? 誰もいないな」
「和也君の荷物も、ないですね」
「どうしたんだ? 」
2人が驚いていると。
「もう、和也さんはいませんよ」
ちょっと低めの爽やかな声がした。
その声は窓際から聞こえた。
悠大と嶺亜が声がした方を見ると…。
「え? 」
悠大はとても驚いた顔をした。
嶺亜は一瞬だけ驚いたが、すぐに笑顔になった。
窓際にはとても綺麗な青年が立っていた。
スラッとして、とても背が高い青年。
髪は綺麗なブロンドで、ほっそりした面長の顔に高い鼻、切れ長の目で瞳は綺麗な緑色。
透明感のある白い肌で、見ているとうっとりさせられる。
かっちりした紺色のスーツ姿が、とても凛々しい。
「君は…誰なんだ? 」
悠大が尋ねると、青年はクスッと笑った。
「和也君…ううん…一樹君でしょう? 」
嶺亜が尋ねると、青年はそっと頷いた。
「え? 一樹? だって、一樹は和也君に…」
「和也さんの体は、もうお返ししました。彼も、目を覚ましたいって言っていましたから。だから、本来の僕の姿で最後にお会いしたくて待っていました」
和也の時とは全然違う。
言葉使いも丁寧で、物腰も低くてとても上品。
仕草も優しくて、まるでどこかの皇子様の様である。
「一樹…本当に、一樹なのか? 」
悠大の目が潤んだ。
「はい、僕の前世は貴方の息子で一樹と言う名前でした。でも今は、こことよく似ている環境ですが、もっと未来に発展している別の星で生まれ変わって、違う名前で生きています。ちょっと、病気で倒れてしまいエネルギーだけ移動して。今まで和也さんの体を、お借りしていただけです。このままの姿では、随分と驚かれてしまうと思いましたので」
「そうだったのか。だがお前、随分とカッコいいんだな。びっくりしたよ」
「当然ですよ、僕は。お父さん…貴方のDNAを受け継いで、来世に行きましたから。こうして、素敵な男性になれたのです。有難うございます」
「一樹…今は、何て名前なんだ? 」
「ごめんなさい。未来の名前は、教えることはできないのです」
「そうか…」
「でも安心して下さい。今の、僕のお父さんは貴方に似てとても素敵な人です。そして…」
青年は嶺亜をそっと見つめた。
「嶺亜さん。今、僕の心から愛する人は、貴女にそっくりな人です」
「私に? 」
「はい。…僕のいる星は、こことは流れが違います。ここでの1日は、僕の星では3ヶ月は過ぎています。寝ている間に、体に戻ってはいましたが、そろそろ帰らなくてはなりません。多くの人が、僕の事を待っているんです。今日、ここでお待ちしていたのは、僕の最後の役目を果たす為と。嶺亜さんのお姉様から、伝言を預かっていましたので。それをお伝えする為に、待っていました」
「姉さんと、会ったのですか? 」
「ええ、昨日お会いしました。そして、全てを認めてくれましたよ。嶺亜さんのご両親の事も、全部です」
嶺亜は辛そうに、そっと視線を落とした。
「嶺亜さん、もう何も心配しないで下さい。全て、僕が終わらせましたから。お姉様も心から改心して、自首されましたよ」
「え? 自首したんですか? 」
「はい。お姉様が自分から、選んだ道です。その時に、嶺亜さんに伝言を頼まれましたので、お伝えしても宜しいでしょうか? 」
「は、はい…」
「お姉さんは嶺亜さんに「ごめんね」「ありがとう」と伝えて欲しいと言われました。ずっと、嶺亜さんが味方で居てくれた事が、嬉しかったようですよ」
「…姉さんが…」
目が潤んで、嶺亜はそっと顔を背けた。
そんな嶺亜を、悠大がそっと抱き寄せた。
「嶺亜さんの優しさが、最後にお姉様を救ったのですね。嶺亜さんにとっては、産まれた時からずっと一緒だった人ですから。血縁関係よりも、一緒にいた時間が絆を深めていたのですね」
「はい…」
「もう、全て終わりましたから。嶺亜さんは、これからは自分自身が幸せになる事考えて下さい。そして、僕のお父さんの事を、どうぞよろしくお願いします」
嶺亜は顔を上げて青年を見た。
青年はそっと微笑んでくれた。
「さて、もう1つ。最後の役目があります」
ポッ…サキが合わられた。
「あ…」
嶺亜は驚いてサキを見た。
「あら? 嶺亜さん、やっぱり私が見えるのね? もしかして、気づいていたの? 」
サキは青年の隣に歩み寄って行った。
「やっぱり、奥様だったんですね。いつも、ずっと遠くで見ていたのが見えていました。ちょっと、イライラした顔をしてたのを覚えています」
「いやだなぁ。誰かさんが、13年も離してくれないからイライラも募り過ぎたのよ」
サキはちょっと意地悪そうに、悠大に向かってベーッと舌を出して見せた。
悠大は照れくさそうに笑った。
「もう許してあげたらどうすか? 」
青年がサキに言った。
「そうね。私もやっと、次のステージに行けるから。素敵な男性見つけて。来世で長生きして、沢山恋をするわ。だから2人とも。すぐに、こっちの世界に来たら許さないわよ。孫の顔まで、ちゃんと見て来なさいよ! いいわね! 」
「分かった、もう何も心配するな。これからは、2人でちゃんと幸せになるから安心しろ」
サキはやれやれと笑った。
「さぁ、それでは行きましょうか。先ずは最上階へ。そうしたら、僕ともお別れですから」
「そうね。でも、あんたは生まれ変わっても不思議な力持ってるのね」
「はい、そんな役目の人が少しくらい人間の中にいないと。不幽霊が増えすぎてしまい、困ってしまうようですよ」
「ふーん、そうなんだ」
サキは青年の手を握った。
「じゃあね、2人とも。元気で頑張るんだよ」
「ああ、有難う。サキ、一樹」
「本当に、有難うございました。悠大さんに出会えて、私、幸せです」
サキはそっと微笑んだ。
「じゃあ、これで本当にお別れです。…長い年月が過ぎて、どこかで時の流れが交わった時。きっとまた出会えますよ。たとえお互い、記憶から忘れられていても魂は覚えていますから。それまでお元気で…本当に、有難うございました。とっても、楽しかったです…」
サキと青年が手を振ると。
シューッと一本の光が真上に上がって消えていった。
それは本当にほんの一瞬の事だった。
何もなかったかのように静かになった和室。
「本当に逝ってしまったのですね、サキさんと一樹君」
「そのようだな。死後の世界なんて、考えたことがなかったが。色々あるんだな」
「そうみたいですよ。私の母が、よく話してくれました。母は天使の血縁で純潔の天使一族だったんです。だから、心の声が聞けたり、誰かが助けを呼んでいると察知していて。近くの人が亡くなる前は、よく「もうすぐあの人、お空の上に帰ってしまう」って言ってました」
「天使か…サキも天使の血縁だと言っていたよ。だから、死んでも私の前に出て来られたって言っていた。13年も姿を現さなかったのに、今更何でだ? って思ったがな」
話しながら、悠大と嶺亜はリビングに戻ってきた。
一息ついて。
嶺亜が珈琲を入れてくれた。
「この家に初めて来た時、ここにサキさんが座っていたのが見えたんです」
「え? そんな時から、見えていたのか? 」
「はい。私、不幽霊とか妖精とか見えるんです。この家のお庭には、沢山の妖精さんが居て。特に庭の花壇がお気に入りだって、言っていましたよ」
「びっくりだなぁ。そんなすごい人と、私は結婚したのか」
「すごくないですよ。ただの血縁の関係で、たまたま見えるだけですから。でも、サキさんが居てくれて。ずっと、傍で励ましてくれていたのです。「あの人の事、見捨てないでね。ちゃんと、貴女の事を見るようにさせるから」って、いつも言ってくれていたんです」
「まいったなぁ。そんな事まで、言われていたなんて」
嶺亜は一息ついて、珈琲を一口飲んだ。
「和也君が来た時も、さっきの素敵な男性が後ろに見えたんです。だから、何なんだろう? って思っていました。和也君の守護天使かな? と思ったんですけど。違いましたね。本来の、一樹君の姿だったんですね」
「まったくもって、私には未知の世界で判らないよ。でも、実際に死んでしまったサキが見えたり、一樹が体を借りて来てくれたのは事実だな」
「ええ、そうですね」
悠大は嶺亜の隣に座った。
「でも良かったな。お姉さんが、自首してくれて。自分から自首したって事は、心を入れ替えてくれたって事だろう? 」
「はい、きっとそうだと思います。…姉さんも、苦しかったと思うんです。ずっと一緒だった本当のお母さんが、早く亡くなって寂しかったんだと思います」
「そっか。その気持ちが分かったから、ずっと我慢していたんだね」
「…はい…」
悠大はそっと、嶺亜を抱きしめた。
「もう、何も心配する事はなくなったな」
「はい…」
「じゃあ、私と…本当の夫婦になってくれるか? 」
「え? 」
悠大はとて熱い眼差しで、嶺亜を見つめた。
「私は、嶺亜さんより15歳も年上で。もう、すっかりオジサンになってしまった。こんな私でも、受け入れてもらえるだろうか? 」
受け入れてもらえる…。
そう言われて、嶺亜は悠大が何を求めているのかが判った。
「私…オジサンなんて、思ったことないですよ。素敵な人だと、思っています。私こそ、サキさんに比べたら全然大人っぽくないし…」
「何をサキと比べる事があるんだ? 嶺亜さんは、嶺亜さんでいいじゃないか。私が選んだ人なんだ。それでいいじゃないか」
「でも…」
「前にも言ったが。適当に選んだと言っても、好きになったのは私の方だぞ」
「はい…」
嬉しくて、嶺亜の目が潤んだ。
「嶺亜さん…」
「はい…」
「あの…キス…してもいい? 」
「え? どうして、断るんですか? 」
「あ、いや…その…。ご、ごめん…だって…13年ぶりだから、こんな事…」
「え? だって、結婚式でしたじゃないですか」
「あれは、軽くだったじゃないか。意識しなかった事だ。だから、改めて…」
照れている悠大を見て、嶺亜はクスッと笑った。
「いいですよ。遠慮しないで、いつもでしてくれて」
嶺亜がそう答えると。
ゆっくりと、悠大の唇が近づいてきた。
「ねぇ嶺亜さん…」
唇が触れる寸前で、悠大が声をかけた。
「はい? 」
「あのね…。40代の気持ち、なめちゃダメだよ」
「えっ…」
「20代の若造達と、一緒にしないでくれよ」
と…
悠大の唇が嶺亜の唇と重なった。
結婚式の時とは全く違う。
とても情熱的で、強いエネルギーで吸い上げられてゆくのを感じて。
嶺亜は何も考えられなくなった。
するりと悠大が嶺亜の口の中に入ってきて、いっぱいに埋め尽くされてゆく。
悠大の言う通り、とても情熱的で強い愛を感じる…。
胸がいっぱいになり…体も反応してくるのを嶺亜は感じた。
頭が真っ白になりそうになった時。
ひょいと、悠大が嶺亜を抱きかかえた。
「ちょっと捕まってて」
言われて嶺亜は、ギュッと悠大にしがみ付いた。
そのまま、悠大の部屋の連れて行かれた嶺亜。
そっとベッドに寝かされて…。
「嶺亜さん。…後悔しない? 」
「どうしてですか? こんなに、幸せなのに…」
「それなら安心した」
そっと、嶺亜の隣に添い寝して、悠大はブラウスのボタンを外してゆく…。
ブラウスの下には、可愛い花柄のキャミソールを着ていた嶺亜。
「ご、ごめんなさい…こんな子供っぽいので…」
「何ですぐ謝るんだ? 誰が嫌だって言った? 」
チュッと、嶺亜の首筋にキスをする悠大。
ビクッと嶺亜の体が反応した。
「実は、こうゆう柄ってすごく好みなんだけどね」
「え? そうなんですか? 」
「ああ、本当だよ。でも…」
スルっと、嶺亜のキャミソールを脱がせてゆく悠大。
「脱がせるのは、もっと好きなんだ」
キャミソールの下には、オシャレなロイヤルイエローの下着の嶺亜。
白いレースがついていて、可愛さもアピールしている。
「これも外すの、大好きなんだ」
スルッと下着も外すと、悠大は服を脱いで嶺亜に覆いかぶさった。
「綺麗だね、嶺亜さん…」
熱い目で見つめられて、嶺亜は胸がドキドキして高度が高鳴るのを感じた。
悠大のしなやかな指先が、嶺亜の体に降りて来る。
指先で体をなぞられると、また、嶺亜の体が大きく反応した。
首筋から…鎖骨へ…悠大の唇が降りて来る…。
「…」
嶺亜の可愛いサクランボの部分に悠大の唇が触れると、吐息が漏れる。
悠大の唇が…指先が…
嶺亜の体を犯してゆく…
「嶺亜さん… …嶺亜…愛しているよ…」
耳元で悠大が囁いてくれる。
感じている嶺亜は言葉にならなくて、ギュッと悠大にしがみ付いた。
悠大の指が嶺亜の入り口を探す…。
清らかな川の流れが、溢れんばかりになっているのを確認すると、悠大は入り口に触れた。
「…」
また違う吐息が嶺亜から漏れてきた。
まだ入り口がちょっと強張っているのを感じた悠大は、軽く広げて見た。
「…」
言葉にならない吐息を漏らす嶺亜。
「嶺亜、ちょと力抜いて。大丈夫だから」
悠大に言われると、ちょっとだけ力が抜けた嶺亜。
入り口も柔らかくなり広がったのを確認した悠大は、そのままゆっくりと入り口に入ってゆく…。
「っ…」
悠大が入って来ると、嶺亜は初めての痛みを感じてギュッと悠大の背中にしがみ付いて爪を立てていた。
「そのまま、ちゃんと掴まっているんだ。…大丈夫だから…」
グイッと奥まで入って来た悠大を感じると。
痛みは消え、嶺亜は頭が真っ白になった。
ただ感じるのは力強い悠大だけだった。
「っ…」
体の奥を通り越えて、頭のてっぺんまで伝わってくるエネルギーに言葉にはならない感動を感じた嶺亜。
心も体も満足している…。
気持ちいい…なんて心地よくて気持ちいいのだろう…。
真っ白になりそうな頭の中で、嶺亜はそう思っていた。
悠大と繋がると。
なんとなく、悠大の気持ちが伝わってくる。
長い時間ずっと1人で抱え込んでいた悠大の想いが、やっと解放された気持ちが嶺亜にも伝わってきた。
そして悠大にも、嶺亜がずっと芹那の仕打ちに耐えてきた気持ちが伝わってきた。
「嶺亜…」
悠大が嶺亜の額に額をくっつけた。
「…お前、最高…。もう、離さないからな」
額をくっつけて、悠大と嶺亜はそっと微笑み合った。
ずっと遠回りしていた悠大と嶺亜。
やっと今ここで、1つに繋がれた。
心も体も繋がって、本当に夫婦になれた…そんな気がした。
外は秋を過ぎて、もうすぐ冬の風が吹きそうなくらい冷え込んできた。
太陽はキラキラと輝いていた。
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