3

 ドオォォォン


 遠くで雷が鳴る。


 どんよりと重たい空模様と、時折ときおり光る稲光を忌々いまいまに見やりながら、クロードは先ほどから窓際に張り付いていた。


 少し前にぽつぽつと降りはじめた雨はあっという間に豪雨になり、窓ガラスを激しく叩いている。


 リリーの部屋に集まったクロードとリリックは、うろたえてパニックを起こしそうなアンヌをなだめながら、リリーがどこに行ったのかと頭を抱えていた。


(いくら何でも、遅すぎる……)


 本当は今にも別荘を飛び出して周囲を探し回りたい。


 けれども、この雨の中を闇雲に探し回っても消耗するだけだとわかっているから、何か手掛かりはないかと頭を悩ませていた。


 窓の外に目を凝らすも、視界が悪くてまともに見えない。かろうじて湖が見えるくらいで、その奥の山はまともに見えなかった。


「くそっ」


 猫をかぶることも忘れて毒づくが、こんなのときに自分を偽っている余裕はない。


 見つけたら思いっきり叱りつけてやると、不安で苛立つ感情を押さえつけながら、一人で湖に行くような性格ではないが、あれでもまさか、と湖に目を凝らせた時だった。


(あれは……)


 見間違いかもしれない。だが、湖の水面に、何か白いものが浮かんでいる。叩きつける雨で視界は最悪で、ただの湖の波をそう勘違いしたのかもしれない。だが――


(リリー……!)


 もしも。もしもあれが見間違いでなければ、と、クロードはいてもたってもいられずにきびすを返した。


「クロード王子!? どこへ?」


「湖だ!」


「ええっ?」


 リリックが慌てたように追いかけようとするが、クロードは手でそれを制した。


「君はほかのところを。念のため見に行くだけですから!」


「しかし、こんな雨のなか湖に行くなんて、水嵩も増しているのに……」


 リリックはちらりと窓の外を見る。ただでさえ大雨で視界が悪いのに、宵闇も迫っているのだ。


「大丈夫です。危険なことはしませんから」


 クロードはいったん自分の部屋に戻って外套をひっつかむと、リリックと同じく止めようとする従者を無視して別荘を飛び出した。

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