3

 どうやって家に帰ったのか覚えていない。


 気がついたときには遥香は自宅のベッドの上で天井を見上げていた。


 よほど、弘貴の話がショックだったのだろうと、自分のことなのに他人事のように思う。


 飲み会も途中からの記憶が曖昧だった。橘が自宅のマンションの近くまでタクシーで送ってくれたことは、かろうじて覚えている。


「創業者一族……」


 口に乗せると、一気に真実味が増して、遥香は天井に向かって嘆息する。


 弘貴のことを好きになりかけていることには薄々気がついていた。だが、今日知った事実は、もともと恋愛に臆病な遥香をもっと怖気つかせる。


 何でも持っている弘貴が、何一つ特出したものがない遥香に本気になるはずがない。


 現実でも夢の中でもままならない。


 遥香は夢の中ですら思い通りにならないことに悲しくなりながら目を閉じる。


 酔いの残っている体は、あっという間に夢の世界に引きずり込まれた。

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