28 アニメ化待ったなし
「お、おい……お主ら……生きとるか」
瞼を開ける。俺の目の前には、こちらをジロジロ見てくる立派な白髭のじーさんが居た。
「え、というか何? 主ら、もしかしてヤッてた?」
「は? ヤルって何を……?」
視界が鮮明になってくる。俺の胸の上ですうすう寝息を立てる碓氷さん。なるほど……体制的にもそういう感じだ。なるほどなるほど、そういう感じだ!
「なわけないでしょうが! ふざけんのも大概にしてくださいよ、長老」
「またまたそんなこと言ってぇ! 巨乳美少女とそんなに身体を密着させといて、エッチしてないって無理があるわい。わかっとるわかっとる。お主性欲強そうじゃもん。生命の危機に生物としての本能が働いてヤリまくったちゅうわけじゃろ? そりゃあしかたないわ……誰もお主を責められんて。皆まで言うなて」
「しつけぇな! なんもしてねえっつうの!! で、俺は……どれだけ寝てたんすか?」
「何を長時間意識を失ってたみたいな雰囲気出しとんじゃ。騙されんぞ、ワシはお主が「はい! 自分この子と思う存分セックスしてました! 超気持ち良かったっす!! 最高っしたッ! あざーっす!!」って言うまではこの場を離れないからな!!」
「はいおじいちゃん、交代。そういうのもういいから」
目を充血させながら肩を上下する長老の背後から、ひょっこりとミクノ先輩が出現する。なんでこのジジイはこんなに必死なんだよ……。
「いやあー、でも本当に間に合って良かったよ二人とも~」
「……俺が地面に叩きつけられた瞬間、見てませんでしたか? ミクノ先輩」
「えぇ? そんなことあったの? マジで? ウケる~」
もうやだこの二人。でもミクノ先輩が長老を呼びに行ってくれたんだろう。そこは感謝だ。
「って……大丈夫だったんすか、ジャンガリアン星人は――」
視線の先では夕色の光を浴びながら輝く二本の氷柱がまだ聳え立っていた。ジャンガリアン星人専用の毛刈りマシーンである建造物付近には、彼ないし彼女の鬱陶しい毛が散乱している。
「ああ、それならワシの真の力が発揮された結果……この通りじゃ」
長老が抱いていたゾウのぬいぐるみを見せてくる。そのボロボロのぬいぐるみは、長老の手から逃げようと必死に動いていた。
俺とナルメロが精神合体した結合PSIってヤツか。本来はこうやって使うものなんだな。
そういえば、と思いナルメロに声をかけたが、どうやら眠ってるらしい。
「まあお主等が頑張ったおかげでノミ星人のストレスからは解放されたみたいじゃけど、もう面倒くさかったからぬいぐるみにしちゃったわい。どうじゃ、かわいいじゃろうて」
めっちゃ幸せそうな顔で語るじゃん。え、何ぬいぐるみ好きなのじーさん。
「このぬいぐるみはのう……ミクが小学生のときにワシにくれたんじゃ」
「テキトーにゲーセンで取ったヤツだけどね~」
「それでもジジは嬉しいのっ!」
孫の前ではアンタジジなんだ。ふうーん…………まあそれは置いておくとして、
「……そっすか。なら、良かった…………でも一番おいしいところは長老かー」
「何を言ってるか。エージェントたちが役に立たない中、お主等が諦めず堪え忍んでいてくれたから、ワシが来られたんじゃぞ。ふて腐れてないで、しゃんとせんか」
「はは、嘘つきました。おいしいところとかマジどうでもイイッす。解決したなら良かった! 俺、今日はめっちゃやりきったんで、最高に気分が良いっす!」
「可愛げのない……だが、その意気じゃ。少年よ……大志を抱け」
長老がカッコイイ感じでふぁさ――とカラフルなマントを翻しながら、去って行く。
「……今更ですけど、なんなんすかその格好は」
後ろ姿の長老の耳が若干赤くなった。
「気にするな。色々……練習じゃ」
「はあ」
「アハハ、面白いでしょ、コレはね~」
ミクノ先輩が耳打ちしてくれた。どうやらミクノ先輩の妹のためにペディキュアのコスプレを練習中らしく、魔法界の長老キャラのコスらしい。名前も見た目もまんま過ぎてハイクオリティだった。どうやら今回も転移系PSIで家から来たらしい。
つーか普通に観客席に居ろや。一年生の初舞台だぞ! なんで家帰ってんだよ。……まあでも大変だな、おじいちゃんって……長老頑張って。俺は初めて彼を尊敬した。
「ん……ぅぅん」
「あ、碓氷さん。おはよう」
俺の胸の上でのそりと身体を起こした碓氷さん。自分と俺の身体を交互に見つめてから、乱れた服装を手のひらで隠した。
「きゃあ。……えっち」
「ワザとやらんで良い」
「ですが。これが淑女の正しい反応なのだと、わたしは漫画喫茶で学びました」
「一体……何を読んだ」
「『俺のはちゃめちゃ・ハーレムライフ!』です」
「しれっと何を読みに行ってんだよ!」
「ずっと気になっていましたから。新しい趣味ができそうです。進導さんも是非ご一読を」
楽しそうな碓氷さんの表情を、俺はとても好ましく思った。『俺のはちゃめちゃ・ハーレムライフ!』絶対読むわ。
「二人とも~! 早く行くよぅ」ミクノ先輩が遠くで手を振っていた。
立ち上がった碓氷さんが、寝たままの俺に手を差し伸べてくる。
「さあ、進導さん。お手を」
俺は彼女の手を取った。持ち上げられない碓氷さん可愛い。
「いや、無理しないで良いよ、碓氷さん。俺重いから」
「そんな。無理などしていません。進導さんなんて、ちょちょいのちょいですよ。ふむっー」
「ははは、結構頑固なところがあるんだな」
「黙っていてください。ふむっー」
ヘンなかけ声と一緒に顔を真っ赤にしながら俺を引っ張ろうとしてくれる碓氷さんを見ていると、俺の頬も若干赤みを帯びていく。
俺たちを照らす夕暮れは、そんな気恥ずかしい俺の気持ちさえも隠してくれている気がした。
『こうびの はじまり か』
「くぅおのバカたれがァァァァァァァ!」
「……!?」
突然の俺の罵倒に、碓氷さんが驚いた表情であたりをキョロキョロする。怒られた理由がわからないけど、とにかく怖がっている仔犬のようだった。
「ゴメンよ、違うんだ碓氷さん。君に言ったんじゃない……明日の空に向かって言ったんだ」
「……よ、良くわかりませんが」
碓氷さんが動揺していた。レアな表情を見られたこと自体は嬉しいが……、ナルメロ。お前にまだそういうのは早い。女性を相手にそういうことを言うのはとても失礼なことなんだぞ。わかってくれるな?
『われ わかった』
お前は素直で良い子だ。然るべきときに俺が教えてやるから、今は無垢なままでいなさい。
まったく……保護者は大変だぜ。
* * *
とりあえず俺たちは、わらわらと集まっている黒服の救助班の元へ向かった。
『――ここで赤組の勝利となりましたぁ! 色々ありましたがおめでとうー!』
ナレーションが響き渡る。ミクノ先輩の代わりに、代行の人がやっているのだろう。
「え、クラスマッチ終わってなかったんすか?」
「あはは……実はそうなんだよね――規定で中止ってのはできなくて。でもまさかこの状況下で良く優勝できたね~赤組。おめでとさん二人とも!」
碓氷さんと一緒にミクノ先輩に頭をわしゃわしゃされていると(そのあとすぐに俺のほうは手を離した。さては忘れてたな? ははッ!)、彼方の空がキラリと光った。
「ん……? なんだあれ」
「何かが、近づいてきます」
流星……?
「おいおい、マジでこっちくるぞ。ヤバくねえかこれ!」
「わたしの体内水分で防御壁を――」
「いや……あれ、人だ! 俺が行くッ!!」
この距離なら、大体の落下地点は予測できる。俺は、残り一回分のPSIの使用を決めた。
踵に意識を集中して、ブーストダッシュ。50メートル2秒くらいのスピードで急行し、その人物をギリギリでキャッチ。力の限り抱きしめた人物の顔を確認する。
『やはり りうせいのはいろ』
ナルメロの言葉に同意する。俺は呆れながらそいつに笑いかける。
「……お前はなんだ、空から振ってくるヒロインなのか?」
「それがクラスマッチMVPに対する態度か? 今すぐ撤回しろ! そして離せ!」
「でたよ……はいはい」
暴れるハイロを放り投げる。いつも綺麗なハイロだが、今回は汚れだらけだった。髪型は最早原型を留めていない。どこかで水洗いでもしたのか、オールバックヘアになっていた。
「白にしてきたぞ。青組キングとやらのバンダナとやらをな」
「とやら多くね? っていうかお前……あの後真面目にクラスマッチに参加してたのか!?」
「……? 何を言ってる。あたりまえだろう、俺は勝つと言ったはずだ」
「うおおおおおお、お前ってヤツぁ……! 頑張ってくれてありがとうな、流星のハイロ!」
「なっ、離せ進導リューセイ! それになんだそのふざけた二つ名は! クソッ、辞めろ!」
俺とハイロが友情を確かめ合っている側で、ミクノ先輩が手のひらを叩いた。
「ハイハイ。暑苦しいのはもう良いから帰ろっか。たぶんもうすぐ成績発表会始まるよ~」
「優勝賞品として、カロリーメイトフルーツ味を所望します」
「残念ながら賞品はカロリーメイトではないのだよね~。あ、コンビニ寄ってくー? あたしも買いたいものあるんだ~、行こミゾレちゃん」
「わたしは行きます」
「チミは翻訳文かよぅ~!」
「うぉぉぉぉぉぉぉハイロォ~! お前は俺の親友だぜぇ!」
「クソが!! 俺とお前は親友ではない……好敵手(ライバル)だ! 撤回しろ!」
『きゃらららん りうせいのはいろ あにめか まったなし』
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