25 またなっ!(指ピシャア!)
「ナイスキャッチ碓氷さん。あやうくぺしゃんこ星人になるとこだった」
「エージェントは撤退し、次の作戦に備えています。ジャンガリアン星人は殺処分決定です」
「……でも、まだ俺は諦めてねえよ」
「三十秒も耐えられていませんでしたが?」
「そ、そこは……確かに上手くいかなかったけど……でも根性は負けてねえんだ!」
「ダメじゃないですか、それ」
「……ぐっ」
「グルミン星人が何かを守ることは不可能です」
確かに、生態的にナルメロは狩る側の生き物なんだろう。守ったり、耐えたりというのは得意ではないのかもしれない。でも……、
「だからって、やらないわけにはいかねえじゃん。奇跡が起こるかもしれねえんだし」
「世迷い言を」
「グダグダ言いながら俺を助けてくれるくらいなら、碓氷さんも協力してくれよ」
「わたしの現在のミッションは、この場から退散することです」
「……じゃあ早く行ったら? なんでこんなところに居るんだよ」
「…………それは……」
「ただ……友達が心配だっただけだろ?」
「…………」
「…………悪りぃ、時間が惜しいんだ。じゃあな」
片手を振って俺はジャンガリアン星人の元へ向かっていく。正直全身が悲鳴を上げているが、一つの命が救えるんだってんなら、腕の一本や二本はくれてやるよ。
『りうせい これは むりかもな』
「ちょっとーナルメロさん! 向かってる最中に泣き言かよ。俺の決意はどうなんねん」
『われはまもりに むいてない やはり はいじょ か』
「やりたくねえこと無理にやる必要はねえよ。別の方法を思いつくまで今できる最善をやるだけだ。数秒は動きを止められたんだ。限界の限界の限界まで耐えきれば……」
自分がどれだけ驕ったことを言っているのか、わかってるつもりだ。俺の言葉が行き着く先なんて無い。解決策も思いつかない。俺はただ自棄を起こしているだけに過ぎない。
だって仕方ないだろう。俺の人生史上でこんな大事件、起きたこと無かったんだ。俺はスーパーマンじゃない。ただ、ちょっと肝の据わった身体の強い高校生ってだけだ。
どうすれば良いかなんてわからない。でも……目の前に問題があって、壊れにくい頑丈な身体の準備ができてるなら、ぶつかっていかねえと俺は絶対に後悔する。それだけはわかる。
――お前も、そう思わねえか? ナルメロ。
『ふむ それもそうだな しぬのはごめんだが しなないまでに やってみるか』
「つかそれしかできねえからな、頭の悪い俺等には」
死ぬ気で踏ん張ること。それしかできない。でもそれならできる。じゃあやるだろ、当然。
「どうううぅぅぅぅぅらぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
ジャンガリアン星人の逞しい前足を再び気合いと根性で受け止める。血管ブチ切れようが構うか。奇跡起こって動きを止めろ! デカブツの友達ぃ!
『それは むりだろ』
ナルメロの冷静なツッコミとともに、またもや吹っ飛ばされる。
今度は碓氷さんに背中を支えてもらうこともなく、樹木が変わりに俺を受け止めてくれた。
さっきより一秒は長く耐えられた気がする。このまま行けば……ってレベルじゃないよなぁ。
「痛てて……全身血だらけだ。あばらの二本は逝ってるんじゃねえか? ったくハイロかよ」
『りうせいのはいろ』
「真面目にやれ! お前が余計なこと言うから吹っ飛ばされちゃうんじゃねえのか?」
『われ こんしんの ぎゃく だからな』
「ギャグな。もっと勉強して出直してこい!」
いつの間にか、ざあああああああ――と、ジャングル一帯に大雨が吹き荒れていた。
視界が一気に霧っぽくなってきた。碓氷さんは……居なかった。やっぱり呆れたかな。
少し残念ではあったが、頭を切り換えて三戦目。ずぶ濡れ血だらけ姿の俺は、馬鹿の一つ覚えみたいにジャンガリアン星人に突進し、全身でその進行を受け止める。
「頼むぅぅぅぅぅ! 止まってくれぇぇ! このままじゃ殺処分されちまうかもしれねえ!」
「ほぉううおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんんッ!!」
「やっこさんはなんて言ってんだ、ナルメロ」
『かゆくて しにそう』
「俺が無限に掻いてやるから! 世界で一番掻いてやるから! もう少し我慢してくれ!」
――痒いか……。そもそもノミ星人とやらの掃除を滞ったことによるストレスでの暴走って話だったよな。だったら、この鬱陶しい毛むくじゃらを全部刈っちまえば……?
「って言ってもデカ過ぎるんだよなあ……!」
俺とナルメロは根気よくジャンガリアン星人の通せんぼを続けた。もう何度吹き飛ばされたかわからない。しぶとく何度も立ちはだかったが、それでも巨人の進撃は止まらない。このままだと熱帯森林エリアを出て、秘密学園の校舎まで行ってしまう。
「……クソッ、でもやるしかないんだ!」
でもやっぱり吹っ飛ばされちゃう。困っちゃうね。
心身共に疲れ果て、崩れ落ちる俺……の元に人影。
「ああ、進導さん。まだやってましたか」
「出店みたいに……言わんでくれ」
今は碓氷さんのボケに付き合うだけの元気がない。ナルメロも大分疲れてしまっている。
「手伝いに来ました」
「ちょっとタイミングがズレてるんだよなあ……ちょい前のやりとりで協力してくれれば一番感動的だったんだよなあ……へへ、でも嬉しいよ碓氷さん、俺泣きそう」
「もうすぐ津波が来ます」
碓氷さんが当たり前のように言った。
「は? なんだって」
「耳が悪いんですか。津波が来るんです」
「いや聞こえてるよ! あまりにもアレだったから、確認したんだよ!」
「苦労しました。天地災害系のPSIを持つ人は少ないので」
「居てたまるかそんなヤツ! 即刻監禁もんだろ!」
やがて……ゴゴゴゴゴ――とヤバそうな轟音と共に大地が揺れ動く。
背後を振り返る。ま、まさか……? 本当にこれ大丈夫?
「とはいえ……ご覧の通り大雨が降りましたので、必要なかったかもしれませんね」
「頼むよ碓氷さん……ちゃんと天気予報見といて」
「ちっちっち。わたしは毎朝しっかり確認しています。ですが、この熱帯森林エリアは――」
碓氷さんが指を左右に振って得意げに何かを喋ってる。ちょっと可愛いくてずるかったが、俺にはその内容が耳に入ってこない。
「碓氷さん……俺の人生史上最高に生きた心地がしない。心臓のバクバクが止まらないぞ」
「ならば、わたしの人生史上最高に……今、キテます」
「いやキテるのは津波だから! ならばじゃないよ、何張り合おうとしてんだよアンタは!」
碓氷さんが一歩進み、くずおれる俺の身体を担ぎ上げ……られないからなんとかそれなりの体勢に整えてくれてから、少し口角を上げて言った。
「進導さんと……“誰か”がジャンガリアン星人をせき止めてくれたお陰です」
「良い感じのこと言ってるけどさぁ! ヤバいよ碓氷さん! マジで来てんじゃんうわあああああああああもうお終いだあああああああああ」
俺が情けない悲鳴をあげている間にも、密林の至る所から濁水が押し寄せてきていた。もう次の瞬間には俺も碓氷さんも呑み込まれてパイナポーピーポーで終了だ。
「津波と言っても、局地的なものですから大丈夫です。わたしたちしか呑み込まれませんよ」
「呑み込まれるんじゃねえかぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
さようなら、世界――! あばよっ!
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