07 夢の国へのフリーパスらしいぞ
全くもってちんぷんかんぷんのPSI基礎Ⅰやら宇宙人の歴史Ⅰやらで初日の授業をなんとか乗り切った俺は、第一校舎から歩いて十分ほどのところに建設されている秘密学園の学生寮にやってきた。
学生寮は学年、男女ごとに建物がわかれていて、その一つひとつが高級タワーマンションのごとくデカい。近所にはコンビニやショッピングモールがあり、まったく不便を感じない。
……というか、仕送りで親から百万円もらったんだが。
あの長老が何かやらかしたのかと思った俺だったが、クラスメイトの話を聞く限り、この学園へ入学が決まった者にはその家族に三億円が支給されるらしい。怖すぎだろ。
もう働かなくて良いじゃんとかバカな考えが過ぎったが、俺の就職先はもはやエージェントしか残されていないので、自由と引き替えというわけだ。親が得するだけじゃねえか!
そんな怪しさ満点の秘密学園に併設される各企業のショップ店員さんが普通の社員であるはずもなく、あくまで秘密学園を卒業したOB兼エージェントが出向という扱いで学園内の警護をしながら日々働いているらしい。つまりセキュリティ対策も万全、もし何かあったときの対処も万全というわけである。完璧すぎて怖い。秘密バラしたら消されるんじゃないだろうか。
学生寮のロビーに入り、大理石のフロアを堪能しつつ自分の名前を探す。17Fだってヤバ。
とりあえずエレベーターに乗ってパネルを押したのだが、全然動き出さない。
「あれ、動かないぞ」
独り言を言っていると、乗ってきた男子が階数パネルの上で指紋認証を始めた。ハイテクセキュリティじゃん……。俺は感動した。同時に田舎者感ハンパなくて恥ずかしい。
なんとか自室の前までやってくる。ここも指紋認証だ。自分が登録された部屋しか解錠できないようになっているらしい。別室の生徒を訊ねたい場合は、中から解錠してもらうしかない。
重厚な扉を開けると、モデルルームのような広々としたお洒落空間が俺を待っていた。
「うおぉぉぉー! 今日からここが俺の住まいかー! くぅぅぅぅ!」
俺は高そうなソファに飛び込み、柔らかなクッションに顔を埋める。
小さい頃を風呂無しアパートで過ごしていた俺からすると、何でこんなことになったんだっけ? と思わずにはいられない。はしゃぐに決まってんだろこんなの!
「フン……ついに俺の安寧を破壊する野郎が現れたか」
キッチンのほうからワイングラスを片手に不適な笑みを浮かべるヤツが現れる。得意げに揺らしてるその液体、オレンジジュースっぽいけどな。
「そう言うなよハイロ、仲良くやろうぜ」
この大きなリビングは共用スペースだ。学園側が生徒同士のコミュニケーションを推進しているらしい。とはいっても、この部屋から繋がる三つの個室のそれぞれにもキッチンや冷蔵庫などは常備してあるらしいので、引きこもったりもできるそうだが。
一応出迎えに来てくれたらしいハイロと噛み合わない会話をやりとりしながら、俺は個室に入った。このフロアの寮生は俺とハイロだけで、もう一つは空き部屋らしい。だから俺が来るまでハイロは一人で寂しかったのかもしれない。滅茶苦茶喋りかけてきたし。
実家から届いたたくさんの荷物を片付けていると、ナルメロが起きた。
「よう、寝てたか」
『おなか すいた』
「晩飯の時間は七時で絶対固定だ、待ってろって。外食でも良いし、俺が作ってもいいけど、どっちが良い?」
『こだわりは ない うまなら よい』
「おーっし、じゃあ今夜は俺がウマいもん披露してやるよ」
『どのくらいの うまだ』
「和食、中華、洋食、イタリアン、なんでもござれだ。って……言ってもわからねぇか」
『ほお それは うまだ』
どうやらうまらしい。まあでも今朝の件はナルメロの力を借りていなかったらどうなっていたかわからない。ねぎらってあげるべきだ。
「それはそうと今朝は助かったぜ。やっぱスゲーパワー持ってんだなお前」
『われの ほんとうは あれでは ないけどもな ちから じゅんちょうに よわよわ』
「そうなのか? でもちょっとセーブしてくれると助かるぜ。アレに俺の力も乗っかってたらマジでヤバかったぜ」
『りうせいぱんち ごみ』
「ゴミじゃない! ダサいワザ名みたいに言うんじゃない! ったく、これでも結構鍛えてるほうなんだぞ? ってヤベえ、食後のプロテイン切らしてるじゃねぇか! ああどうしよう今すぐ買いに……って、アレ?」
ぐらんと視界が揺れる。
ああ、今日は色々あったからなあ――久しぶりに急激な眠気が俺を襲う。
「ダメだ、超眠ぃ……ナルメロ。俺の身体をベッドまで連れてってくれぇ……」
『どういう せいたいだ りうせい』
まさか宇宙人から突っ込まれるとは思わなかったが、ごもっともだ。俺も知りたい。
「疲れちまうといきなり寝ちまう体質なんだ……スイッチが切れたみたいに…………あぁもうダメだおやすみぃ………………ぐぅ」
『ねた』
現状を淡泊と語るナルメロの声が、夢の中で聞こえた。
「――――おい! 起きろ、お前、起きろ!」
「ん……ああ、ハイロか」
時計は夜の十一を指していた。最悪だ、本来ならもう眠っているべき時間だというのに。晩飯も食後のトレーニングも睡眠も、何もかも予定通りいってない。これじゃ身体に悪影響が出ちまうじゃないか。
「鍵も閉めないで不用心なヤツだ」
「疲れちまってさ、急に寝ちまったんだ」
「客が来て居るぞ」
ハイロが親指で共有スペースのほうを指す。
「客? こんな時間にか」
とりあえず眠気は無くなった。身体を起こし、リビングに向かう。そういえばナルメロに(自分にだが)食事を振る舞ってやるつもりだったが、大丈夫だっただろうか。
『なんか たべたいぞ』
まだ言ってた。でも今は大人しくしててくれ。あとで腹一杯食わせてやるから。
「よう、風紀委員兼クラス委員」
リビングのソファに1-Aの男子連中が集っていた。おそらく二十人全員居る。一フロアにみんな集まれるってこの部屋広すぎぃぃぃ。
「なんだよみんなして……あっ、もしかして歓迎パーティーでもしてくれんのか!?」
「ああそうだよ。やろうぜパーティ……さあ付いてこい、もみ消し担当、イケメン担当」
「もみ消し担当? なんだそれ」
「いいから行くぞ。おい、一応やっとけ」
男子が顎をクイってすると、周囲の連中に俺はアイマスクを付けさせられた。
「なんだ、もしかしてサプライズ会場でもあんのか? ちなみに俺の誕生日会と併合してくれるつもりなら、まだまだ先だぞ」
「いらん心配してんじゃねーよお前は! 図々しいヤツだな、祝うか! とりあえず楽しいことさせてやるから、大人しくしとけ」
「マジかー、ワクワクすんな。夜起きてるとたまには良いことあるんだな」
「まだ十一時だぞ。お前はおじいちゃんか!」
クラスから総ツッコミを受けてから、作戦会議とやらが始まった。視界が閉ざされている俺には、一体何が起こっているのかさっぱりわからないが、これから何処かに移動するらしい。
「――――良し……決まりだ。それで行こう。透明担当、最長で何分行ける?」
「二十人全員だと……最長でも三分だ。それも肌だけだぜ。当然全裸は必須だし、目とか体毛とか爪は浮いちまうよ。本当に俺のPSIなんかで大丈夫か?」
「いや……十分だ。お前は作戦の要だ。全裸になっておけばとりあえず個人名が明らかになることはないだろう。多少のリスクは目を瞑ろう」
「……ちょっと待て、下の毛はどうするんだ」
「透明になった手で隠せば消えるんじゃねえか?」
「おぉっ――」
なんか知らんが歓声が沸き上がった。一体何の話してるんだ? 全裸に下の毛?
「指紋担当、心の準備はできてるな?」
「ああ、任せろ。この日のために特定人物のトレースを必死に試みてきた。興奮するぜ」
鼻息荒く誰かが言った。
「録画担当、空き容量は十分か?」
「無論だ。隅々までこの瞳に焼き付けてやる。皆で突如訪れるハプニングを期待しようじゃないか。今夜はパーティーナイトだぜ」
さっきからこいつらテンションおかしくないか? こんな奴らじゃなかったはずだ。みんなハイロみたいになっちゃってるぞ。
「イケメン担当、もし何かあったらお前だけが頼りだ。任せられるか?」
「……フン。善処する」
俺には見える。壁にもたれ掛かって目を閉じたまま言ってるぞ、こいつは。ていうか作戦知らないの俺だけ?
「それからもみ消し担当、俺たちはお前が風紀委員になってくれて心の底から感謝してるぜ。お陰でようやくこの日を迎えることができる。悪いな、事情を明かせないで。最悪の事態を回避するためには致し方ないんだ、許せ」
「何すれば良いのかよくわかんねぇが、そりゃ良かったな……?」
まとめ役が立ち上がると同時に、ずさっと部屋中の男子が立ち上がった。
「今回の作戦が上手くいけば、俺たち1-A男子は夢の国へのフリーパスを手にすることになる。俺たちは同じ志を持つ同士であり、戦友だ。言うまでも無いが……絶対に裏切るなよ」
夜間のディズニーランドにでも行くのか? それとも学園内に遊園地? ありそうで怖い。
ぞろぞろと部屋から出て行っているのであろう男子陣。俺は二人の男子に腕をガッチリ掴まれ、何処かへ連れて行かれる。なんか背徳感があるな……いつもなら寝る時間だってのに、こうやって学友たちと出かけるだなんて。ワクワクしてしょうがねえ!
『りうせい うまが うまが』
悪いナルメロ。これから何かが始まりそうなんだ。もうちょっと我慢してくれ。
『はらわたが にえくりかえる くうう』
過激か! 俺はナルメロをなだめながら、連中に連れられてエレベーターを降りていった。
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