03 同期の転校生ちゃん(巨乳)あらわる!

★03 同期の転校生ちゃん(巨乳)あらわる!


「――ですから、脳から微弱に漏れ出てるサイコエネルギー(PE)を、学園地下のコア・クリスタルが引き起こしてくれるわけです」


 1-Aの教室に向かうまでの間、担任の先生が超能力について掻い摘まんで教えてくれた。


「なるほど、わからんですな」


 結論、偶然ではあるが俺にもPSIの素質はあったらしい。長老と別れてからそのコア・クリスタルとやらの洗礼を受け、身体能力向上系のPSIに適性があるということがわかった。本人の趣味趣向を大きく反映するらしいので、それ事態はとても嬉しいのだが、あのときみたいなド派手なやつが使ってみたいなというのが本音だった。なんか地味じゃね?


「コア・クリスタルはとある大型宇宙人の心臓とも言われていて、それがこの学園にあるからこそ、わたしたちはサイキッカーとしてPSIを扱えるようになったんですね」


 サイキッカーという響きに感動する。本当に俺がなれたのかは実感がないが。何故ならそのPSIとやらを俺はまだ一度も使ってないからだ。


「進導くんはまだ目覚めたばかりなので、PSIの使用は一日の終わり、寮に戻ってから寝る前にちょこっとだけやってみてください。しばらくの間は実戦授業も禁止、メです。ただ見て聞くだけでも勉強になりますから」

「調整が難しいんすよね? 一発で暴発してエネルギーがスッカラカンになっちゃうって」

「そうです。一年生で上手く扱える子はほとんど居ないんじゃないかな。PSIと脳は切っても切り離せない関係なんです。人の脳味噌の最大容量をコンピュータのデータ量で表すと大体1ペタバイト。そのうち記憶に関する不可侵の領域が100テラバイトで、残りの90%をPSI使用の領域に充てます。でも、初めは60%くらいをMAXだと思っておいてね。じゃないと心身に影響出ちゃうから」


 本当は小難しい計算式とか色々あるんだけど、それは三年生になったらじっくりやるから、と先生は大人可愛い笑みで教えてくれた。是非先生に教えて頂きたい。

 階段を登ってコーナーを曲がると、前方から俺たちと同じように並んで歩く二人組が見えた。


「あ、あの子が同時期入学の転校生ちゃんだよ。おーい、転校生ちゃーん!」


 先生がにこにこの笑顔で手を振る。それに気付いた付き添い人が会釈をして踵を返し、転校生ちゃんがこちらに向かって歩いてきた。

 そのとき、ぽこりと不思議な感覚が頭から聞こえた。


『われ またおきた』


 あ、宇宙人が起きた。


『おきた おなかすいた なにかたべる』


 ――まさかこれ、会話できてるのか?

 ……ちょっと語りかけてみるか。自分の心の中に言葉を反芻するイメージで、


「悪いが間食はしないたちなんだ。一日三食ガッツリ食べるのが俺の流儀だ」と伝えた。

『でも たべたいから』


 おお、喋れたっぽい。自分の主張を譲らないワガママなヤツだな。

 というか、俺が食事すればこの宇宙人もそれで満足するのか? 精神的な満腹感? 食事を採る必要ないって言ってなかったっけ、長老。


 突然、ぐうううう――という爆音が静かな廊下に響き渡る。


 ――嘘だろ。こんなことがあってたまるか。


 あまりのことに驚きが隠せない。俺は普段腹など鳴らない。適切な時間に適量の食事量を摂取することを守っているからだ。ちょうど腹が減り始める頃には新しいエネルギーを補給できるルーチンを組んでいる。だというのに……マジか。超恥ずかしい。


 顔が熱くなってしまう俺。赤面しているタイミングを見られるのは苦手だ。恐る恐る前を見てみると、正面には転校生。第一印象でこれは……うわー相当恥ずかしい。

 転校生の女の子が、上目遣いで俺を見つめる。


「カロリーメイトフルーツ味ならここに。どうぞ」


 すちゃ――と、一秒もかからない速度でどこからか取り出し、お馴染みの黄色いパッケージを差し出してくる。


「お、おお……どうもありがとう」


 自分より二十センチは小さいであろう小柄な身長に、淡い栗色のセミロングヘア。真っ白な肌は少しも動かない。ビー玉みたいに綺麗な瞳が、精密機器みたいに俺の顔を見つめてくる。

 転校生の突飛な行動に戸惑いつつも、俺は個装を破いて口に放り込んだ。


『うま これはうまだ もっとほしい あとごこ もらうべき』

「あ、こらっ、何普通に食べてるんですっ! まだお昼休みじゃないんですよ!」


 ……確かに。もぐつきながら俺は腕を組んだ。間食しないのに何食ってんだ俺。

 先生にぺしんと優しく頭を叩かれたが、俺の髪は軽い凶器と言って良いほどに固いので、逆に先生の手のひらが心配だ。案の定、先生は「皮膚に刺さったよ、うわーん!」と泣き始めた。


 口元の食べかすを掃除しスラックスで手を拭いてから、俺は転校生に手のひらを差し出す。


「俺は進導リューセイ! 君と同じく今日からこの学園に入学するんだ。よろしく!」


 長老のときに失敗したので、今度こそ。第一印象のスキンシップは大事だ。

 突き出てきた俺の手を見て転校生が手のひらを差し出してきた瞬間、俺はそれをギュッと握ってぶんぶん二回ほど上下させる。転校生は不思議そうな顔でされるがままだった。


「よろしくな! 君の名前は?」


 手を握ったまま、俺は相手の目を見て訊ねる。


「碓氷(うすい)ミゾレです。この握手は、一体なんです?」

「何って、友好の証だよ。これから仲良くしたいからさ」


 彼女は繋がった手と手を見下ろしてから、


「なるほど。あまり意味を感じませんが、あなたの心情は察しました」

「はっはっは、変わった人だな。碓氷さんって呼ばせてもらって良いか?」

「どう呼んでもらっても構いません」

「俺のことは苗字でも名前でも好きなほうで呼んでくれ」

「では、進導さんと」

「…………あの、さっきから何してるんだ?」


 ツッコもうかどうか悩んでいたのだが、気になってしまってしかたない。

 碓氷さんは、握手をする手と反対のほうで先ほどから股座をまさぐっている。涼しげな表情でホント何してんだ。


「この制服、とてもスースーするので落ち着かないのです」

「……そ、そうなのか?」


 別に特段おかしなデザインの制服という訳ではなさそうだが。男子と同じくネイビーのフレアースカートに、グレーのブレザー。下から上に上がっていく過程で、そのはち切れんばかりに飛び出した胸に目が行ってしまう。ダメだぞリューセイ。俺はすぐに目を反らした。


『はいじょ すべきだが おいしいのくれたから こんどころす』


 めっちゃ怖いこと言ってんだがこの宇宙人。マジで凶悪かもしれん。しっかり用心しとこう。


「ううう……痛いよぅ……まさか生徒に泣かされる日がくるなんて」

「すいませんでした先生」


 ぺたんこ座りでシクシクしてる成人女性の手を取って、俺は懐に忍ばせていた緊急医療セットで簡易治療を施す。


「今度から俺の髪には触らないほうが身のためっすよ。あなたで56人目だ」

「被害者多くない? だからこんなに手際良いの? どうなってるのその髪、意味わかんない……もう絶対触らない。ていうか、安全のために丸刈りにしてきてよ……くすん」


 俺たちは、涙目の先生と一緒に1-Aの教室へ向かった。


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