第26話
家のなかは、思ってたより広かった。
まず玄関を入ると目の前に大きなリビングがあり、その隅に小さいキッチンが設置されていた。
部屋の奥に階段があるので、二階もあるようだ。すべて木でできており、塗装はされていない。家のなかは木の良いにおいが広まっていた。
「失礼します」
ほのりたちは挨拶をしてリビングの中に入った。
中には誰もいない。
「そこら辺で適当にくつろいでてー」
リビングの中央にあるテーブルを指差して女の子は言った。
「あの、お母さんは……」
一言挨拶をしようと思い、ほのりは尋ねた。
「いないよ。あたしとお父さんの二人で暮らしているの」
「あ……そうなんですね……すみません」
(答えずらい質問しちゃったかな……)
気を悪くしていないかと女の子の方をちらりと伺う。女の子は鼻唄を歌いながらご飯を盛りつけている。
不安そうに女の子の方を見ていると、ほのりは彼女と目が合ってしまった。
ほのりは慌てて顔をそらした。
「気にしなくていーよ。ずいぶん昔のことだし!」
そう言って女の子はニカッと笑った。
「はい、おまちどーさま!」
テーブルに置かれたのは野菜の和え物が乗った大皿だ。
女の子はその他に豆のスープを用意してくれた。
「いただきます」
野菜の和え物を一口食べる。
(おいっしーーーー!)
ほのりは目を輝かせた。
「おいしいです!」
ほのりが興奮気味にそう言うと、女の子はにっこりと笑った。
「そりゃよかった!
んで?君たちはどこから来たの?名前は?」
ほのりたちが言うのをためらっていると、女の子は、はっとしたように息をのんだ。
「まずはこっちから名乗らなきゃだよね!
あたしはマリハ。こっちの筋肉もりもりのひとはあたしのお父さんのガイヤ!
よろしくね!」
三人は改めてペコリと頭を下げた。
「それで?君たちは?」
「わ、私はほのりです!こっちの男子は雪斗で、この子はエスさ……」
(危ない、様付けするところだった!)
「エス君です!」
「なるほどねー……。ほのりちゃんに雪斗君、エス君ね!」
よろしく!っとマリハはほのりの手を握った。
「あ、そうだ!どこから来たの?」
「えっと……」
ほのりの手をぎゅっと握ったまま、マリハは尋ねる。
赤い瞳でジーっと見られ、ほのりは自分が観られていることに気がついた。
(フレンドリーだけど、信用されてるわけじゃない。この子は私の、いや、私たちの反応を見ているんだ……!)
「私たちは、サラストム国から来ました」
「サラストム国?あぁ、あの」
ほのりたちがいた国の名前を聞いて、マリハは特に反応をしなかった。
ただ、ガイヤは明らかに嫌そうな顔をした。その表情には怒りもにじんでいる。
「帰れ」
ガイヤは国の名前を聞いた瞬間そう言った。
ほのりはガイヤを引き留めようと焦る。
「いや、あの、私たちは帰れなくて……」
「それじゃ、俺の家から出ていけ」
しっしっとガイヤは手を動かした。
マリハはムスッと顔をしかめる。
「ねぇ、そんな言い方はないんじゃない?
一応こっちが家に招いたんだし。
お客さんに失礼だよ」
ガイヤはため息をついた。
「……お前は知らないかもしれないが、サラストム国の連中が裕福に暮らしていたとき、俺たちは血反吐を吐き、泥水をすする生活をしてたんだよ!
サラストム国はな、俺たちの敵だ……。
さぞかしお前らも贅沢な暮らしをしてたんだろーな」
ギロリとガイヤはほのりたちを睨んだ。
ほのりはサラストム国での生活を思い出す。
雪斗が勇者だといわれ、一日三食の美味しいごはん、フカフカのベッド……確かに贅沢をしたかもしれない。でも私たちは……
「私たちは転移者です」
「転移者?」
ガイヤは首をかしげた。
「違う世界から来たんです。地球っていうところから」
「チキュウっていう国があるのか?」
「いえ、チキュウは全く別の世界です。環境も法律も違うところです」
「そんなの信じられねぇな」
「……あたし聞いたことあるよ」
マリハがそう言うと、ガイヤは「え?」
と間抜けた声を出した。
「言い伝えあるんだよ、昔誰かから聞いたことがある……ほんとかどうかはびみょーだけど」
「本当です!だから、私たちは見ず知らずの土地に来てしまったんです!」
(どうしよう、うまく伝えられない……)
ほのりは知らない土地に来て、自分達も苦労しており、三人の中で裕福でだらだらした生活をしてきた人はいないと、伝えたかった。
ほのりは上手に説明できないもどかしさに下を向いた。
「それじゃ、お前たちはサラストム国とはなんの関係もないんだな」
「は、はい」
ほのりの返事を聞くと、ガイヤは腕を組んでうーんと唸った。
ほのりたちを家に泊めてやるかどうか悩んでいるようだった。
「ねーどうするの?」
迷っている父親にマリハは話しかけた。
「この子たち、可哀想じゃん。急に知らないとこ来ちゃって、挙げ句の果てに船でさらに分からないとこにおいてかれちゃった。
私達の先祖が初めてこの島に来たときくらい、この子たちは心細いんだよ、きっと」
「…………分かった。仕方ない。
しばらくはうちに泊めてやる。
ただし、迎えの船が来るまでだぞ」
しぶしぶ、といった形でガイヤはほのりたちの停泊を許した。
「ありがとうございます!」
ほのりが満面の笑みでお礼を言うと、ガイヤは照れたように頭をかいた。
「お前たちの言葉を完全に信じたわけじゃないが……知らない場所での野宿はこたえるだろうからな」
マリハの家は、リビングの奥にもうひとつ部屋があり、ほのりたちはそこで寝るようにと言われた。
夜、ほのりたちを寝起きする部屋の扉を閉めた後、三人は修学旅行中の学生のように丸くなって、こそこそと話しをした。
「とりあえず、寝起きする場所は確保できたね。あとは探すだけだ」
「うん、そうだね。良かったーいい人がいて。あのマリハちゃんって子と仲良くなれそう」
「でも、マリハさんはどうして僕たちに親切にするんだろう?なにかの罠かもしれない。気をつけたほうがいい」
心配しすぎだとエスポワールに言おうとしたが、ほのりは言うのをやめた。
エスポワールはサラストム国の皇子。身分がバレれば真っ先に殺されかねない人物だ。
ほのりたちと違って、交渉や説得をする間もないだろう。
最大限の警戒をするのは妥当な判断だ。
「うん、分かった。気をつけるよ」
ほのりがそう返事をすると、エスポワールは一度頷き、そのまま眠った。
あどけない寝顔を見ていると、エスポワールもまだまだ子供なんだということを実感する。
「ふふ……かわいいなぁ」
エスポワールの寝顔を見ているうちにいつの間にかほのりも眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます