第25話
尽刃島につき、三人は船から降りた。
日が落ちかかり、辺りはきれいな橙色に満たされている。
「あれ、ほのりさん顔が赤い。
暑いのか?」
心配そうにエスポワールはほのりの顔を見つめた。はっとしてほのりは顔をそらす。
「だだだだ大丈夫!
夕日のせいだよ!あと船からおりるのでちょっと疲れただけ!」
「船からおりるだけで、顔が赤くなるほど疲れた!?
やっぱり体調が悪いんじゃ……」
ほのりはエスポワールを見た。からかっている様子はなく、ただ単純にほのりを心配しているようだった。
「大丈夫だよ、ほんとうに。ほら、行こ?」
ほのりは進行方向を指さした。
浜辺に立つと目の前には大きな森林がそびえたっていた。
「さて、どうするか」
顎に手をあてて、雪斗は考えた。
孤島といえど、島全体はなかなかの広さだ。
エスポワールの兄弟を探そうとしてもどこから探し始めればいいか分からない。
「とりあえず、浜辺を歩いて、森のなかがどうなってるのかさぐってみない?」
ほのりの提案に二人は頷き、三人は浜辺を歩いていった。
「あっ!見て!」
数十分くらい歩いた時、ほのりが森のなかを指差して言った。
歩き疲れて死んだ魚のようになっていたほのりの目はキラキラ輝いている。
雪斗とエスポワールがほのりの指差す方を見ると、そこには数軒家が建っていた。
「よし!行ってみよう!」
ほのりが駆け出そうとするのを雪斗は急いで止めた。ほのりの服の端をしっかりつまみながら、雪斗は声を荒げた。
「おまっ、忘れたのか?ここの住民は危険なんだろう?」
「あっ……」
ほのりは頭からその事実がすっぽぬけていた。
「やっと歩いた成果が見つかって嬉しいのは分かるが、浮かれすぎだ」
雪斗に注意され、ほのりはしょぼんと落ち込んだ。フォローするように雪斗は慌てて付け加えた。
「でも実際大事な手がかりでもあるわけだ。
……ここはエス様の身分を隠しつつ、話を聞いてみよう」
雪斗は一軒家を選び、戸を叩いた。
ギイイイと音をたてて扉が開く。
屈強な男が中から出てきた。
茶色の髪に豪快なひげ。腕や足はなにも力を入れていなくても筋肉が盛りあがっていた。
「どうしましたか?
……ん?この島の人ではないですね……。
どちらからいらっしゃったんですか?」
ほのりたちが島の人でないと分かった瞬間、男の雰囲気がガラリと変わった。
男の丁寧な話し方には比例しない戦い慣れてないほのりにも感じ取れるほどの圧迫間。男の重低音が体に響く。
「あ、あの……」
ほのりはどもった。いぶかしそうに男は眉をひそめる。
「俺たちは、迷ってきたんです」
(雪斗!?)
ほのりはバッと雪斗を見た。
「迷って?」
「はい、元々別の島に行く予定だったのですが、この手違いで島におろされてしまったんです」
(ああそっか。迷ったってことにすればなんでこの島に来たかも言わなくていいもんね)
雪斗が実際と違うことをいったから驚いたが、その意図を理解すれば百点満点の答えだと思った。
(雪斗は機転が利くなぁ。私よりもずっと頭がいい。この間も………ん?雪斗この世界に来てからめっちゃ嘘ついてない?
いや、嘘ついた方がいい状況だったけど、雪斗あんなにスラスラ言葉出てくるタイプだったっけ?)
「手違いなぁ……。そんなことあるのかね、特にこの島で」
疑うように男はじろじろと三人を見た。
男の鋭い視線にほのりは考えるのをやめる。
自分に注がれるプレッシャーに、ほのりは冷や汗を流した。
「ちょっとおとーさん!なにやってるのー?
夕飯できたよって、さっきから呼んでるじゃん!」
目の前の男にそう呼びかけつつ出てきたのは、褐色の肌の女の子だった。
「いい加減にしないと怒るよー……って誰?
その子達」
「迷ったんだと」
そっけなく男は答えた。
口調からまだ雪斗の言葉を信用していないのが分かった。
「ふーん……。ねえ!君、お腹空いてない?」
エスポワールの前にしゃがみ、女の子は言った。
「い、いや、大丈夫……」
グウウウウウ
エスポワールが答えている途中でお腹が鳴った。エスポワールは恥ずかしそうに腹を抑える。
「んふふ。お腹空いてんじゃん!
おいで。一緒に夕飯食べよう」
「おい待て!何者か分からないやつを家のなかに入れられるか!」
「いーじゃん!この子まだ小さいし、あんまり冷たくするのもかわいそーだよ!
ほら、そこの二人も!」
女の子に手招きされて、ほのりと雪斗も家の中に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます