第24話
「昨日はすみませんでした」
次の日な朝、エスポワールは開口一番そういった。
「ん?いや、大丈夫ですよ」
ほのりは慌ててそう慰めたが、エスポワールの表情は晴れない。
ほのりたちを自分の都合に巻き込んでしまったことはもちろん、皇太子であるにも関わらず、土下座したり、泣いたりといった見苦しい姿を見せてしまったことも後悔しているようだ。
「そんなに気にしてないので元気を出してください!
ところで、エスポワール様は、兄弟達がどこら辺に行ったとか予想できたりしますか?」
荷造りをしながらほのりが聞いた。
「えーっと……分からないです。でも、
ほのりはエスポワールの言葉を聞いて違和感を感じ取った。
(ウーン……なんだろ……喉までは出てるんだけど……あっ!そっか!)
「エスポワール様、私たちに敬語を使う必要はありません。ぜひため口で話してください」
「そうですか……あ、そうか?なら、ほのりたちは僕のことをエスポワール様ではなく、エスと呼んでくれ!二人は僕の命の恩人だ。気遣うことはない」
「ではエス様と呼ばせていただきますね」
「敬語で話さなくても……」
「すみません。流石に言いづらいので、敬語のまま話しますね」
エスポワールは納得した、と頷いた。
「それではエス様?尽刃島でしたよね?まずはそこに行きましょうか。聞き間違えだったとしても、行く当てなく旅をするよりはよっぽど良いでしょうから」
雪斗はそう言ったが、ほのりは難しい顔をしていた。
「ほのり、どうしたんだ?」
「尽刃島って、ここから西にある孤島ですよね?」
険しい顔をしながらほのりはエスポワールに尋ねた。
「はい……」
短い返事と共にエスポワールは頷く。
「どうした?何か問題があるのか?」
「尽刃島は、一応この国に属してるんだけど、ほぼ独立国家みたいなもんなんだよ。
この国では一時期、めちゃくちゃ国が乱れたことがあって……牢屋が足りなくなるくらい……。
だからその時の王は、まだ人が住んでなかった孤島に、罪を犯した人を追放したの」
(確か、こんなストーリーだった気がする)
と、ほのりはうろ覚えのストーリーを思い出す。ほのりの話を聞くと、エスポワールは悲しそうにうつむいた。
「僕はその話を幼いころに聞かされ、王になったときには決してそのようなことをしないようにと言われた。
王というものは、国民のことを考え、国のために尽くさなければならない。民を導くことを諦めて、邪魔もの扱いしちゃ駄目だって……」
「ふーむ。つまり島の人は元犯罪者で襲ってくる可能性があると」
「可能性どころじゃなく、ほぼ確実に襲われるよ」
「なんで?」
雪斗は首をかしげた。
(えーと……なんでだっけ?)
度忘れしているほのりの代わりにエスポワールが答えた。
「当時の王は、罪を犯した人を島に送っただけだったんだ。だから、住む場所も食べ物も何も与えなかった。それに加えて孤島と国との連絡網を完全に断ち切っちゃったから、孤島に送られた人たちは助けを求めることもできなかった……。餓死した人が増え、食べ物の争いでさらに死人が出ました。それに病気も蔓延して……。
しばらくして、一人のリーダーが島民をまとめたおかげで、死人はあまり出ないようになったけど、国の王に対する、そしてその国の国民に対する恨みは、まだ衰えてないんです」
「なるほど」
雪斗は腕を組んで黙考した。
「それならその島に行った兄弟はもう死んでるんじゃ……」
言った直後の顔には「あっ、しまった」と書かれていた。
「………」
エスポワールは黙ってしまった。その顔はいまにも泣きそうだ。
「ゆーきーとー?」
「ご、ごめん!つい考えてることが口から漏れて………」
場を明るくしようと、ほのりはパンッと一度手を打った。
「でもでも、もしかしたら生きてるかもしれないでしょ?
大丈夫ですよ!島は広いし、うん、きっと生きてますって!
兄弟の、エス様が信じなくてどーするんですか!」
ほのりはエスポワールの背中をポンポンと叩いた。
「はい、そうですね……」
自分に言い聞かせるようにエスポワールは何度も頷いた。
ほのりはエスポワールの頭を優しく撫でたあと、顔を隠すためにフードつきの黒いコートをエスポワールに着させた。
ほのり達が玄関に向かうとそれに気づいたルシーが慌てて見送りにきた。
「どこか行かれるのですか?」
「はい、尽刃島に」
ほのりが答えると、ルシーは口をおさえた。
「そこは……駄目です!
異世界から来た雪斗様とほのり様はご存知ないかもしれませんが、そこは危険すぎます!」
「知ってます……聞きました」
「聞いたのにどうして………あら?そういえばその隣にいる幼い子は?」
「この子は」
「迷子らしいので、島に行く途中に送り届けようと思って」
ほのりの言葉を雪斗が遮った。
「なるほど……よろしければこちらで預かりましょうか?
教会はよく迷子の子を保護していますし、家に送り届ける制度も整っているので」
雪斗はにっこりと笑った。
「気持ちはありがたいのですが、大丈夫です。
幸い、この子の家は分かっていて、俺達が行く途中に寄れる場所なので」
「そうですか……。あの、基本この国は自由に見てまわっていいのですが、尽刃島に行くのだけは中止してください。殺されかねません……」
ルシーは懇願した。
「分かりました。では、少し遠いところにある観光地をめぐることにします」
安心させるように雪斗はルシーの手を握った。
ほっとしたようにルシーは息を小さく吐いた。
「ええそれがよろしいでしょう。
どうぞ羽をのばしてゆっくりしてください」
ルシーは笑顔で送り出してくれた。
「ちょっと、ちょっと!
雪斗どーいうこと?行かないの?尽刃島」
歩きながらほのりは雪斗に詰め寄った。
「行くよ?」
けろっとして雪斗は言った。
「え?じゃあルシーさんに嘘ついた感じ……?」
「なんでも正直に言えば得するって訳でもないだろ。
エス様を助けるって決めたときから尽刃島に行くのは決定事項になった。
もしあそこで正直に「それでも尽刃島に行きたい」なんていったら、その理由を詮索されて、エス様の正体もばれてたかもしれない」
「ルシーさんになら大丈夫じゃない?
聖女だよ?」
「ルシーさんは大丈夫でも、周りには人がいたでしょ?
その誰かが情報をもらしたら、エス様の首を狙うやつらが殺到してくるぞ」
「確かに……」
(流石雪斗!あー言われるまで気がつかないなんて私ったらなんてポンコツ……)
話をしていたらあっという間に船乗り場までついた。
尽刃島まで行きたくないという船乗りがほとんどだったが、お金を多めにくれれば送ってやっても良いという人を見つけた。
三人はお礼を言いながら船に乗った。
ほのりは雪斗の隣に座った。
「ねぇ、なんかデートみたいだよね?」
その言葉を聞いて雪斗はふっと笑った。
「えー!なんか笑う要素あった?
ロマンチックじゃん!なんか船って!」
「いや……ほのりが元気そうで安心したよ」
「むー。なんか子供扱いされてる気がするー」
長時間船に揺られたせいで眠くなった目をこすりながらほのりはあくびをした。横を見ると、エスポワールは眠っている。
うつらうつらとして、ポスリとほのりは雪斗の肩に頭をのせた。
数秒後、はっとしてほのりは姿勢を元に戻した。
「ご、ごめん!」
「いーよ、別に」
グイッと雪斗はほのりを引き寄せた。
「ほのりも疲れてるんでしょ?
エスポワールは俺が見とくから、少し寝た方がいい」
「そそそそそう?
じゃあ、お言葉に甘えて……」
(寝れないよ!?
雪斗の肩に頭乗せてるなんて考えただけでもう目が冴えちゃって……!)
ほのりは一生懸命に目をつむって寝そうとした。
ほのりが目を閉じてからしばらく経ったあと、雪斗はほのりの頭をそっと撫でた。
「絶対守るから」
雪斗はポソリと呟く。
三人を連れた船は着実に尽刃島に近づいていった。
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