第23話

男の子は布団の中からもぞもぞと出てきた。

「僕の正体を知っているの?」

雪斗は男の子を怖がらせないように出来るだけ優しい口調で言った 。

「さっきに男達との会話で大体の察しはついてしまいました。まずお名前と年齢を教えてもらえますか?」

男の子は迷っているように目を左右に動かしていた。

「皇太子だと言ったら殺すんじゃないですか?さっきの男達に引き渡すとか……」

(もうそれ皇太子だって言ってるようなものじゃ……)

とほのりは思ったが、話の進みが遅くなるので黙っていた。

「判断するのは、話を聞いてからです。それに、もしそうするつもりなら、さっきのタイミングで男達に引き渡してますよ」

男の子は雪斗の言葉を信頼したようだった。

「僕はエスポワール・ファミーユ。

6才。あの男達が言っていたように、皇太子なんだ」

「なるほど。教えてくださってありがとうございます」

雪斗は丁寧にお辞儀した。子供とはいえ、王族には失礼な行動をとってはいけないと考えたのだろう。それにはほのりも同じ意見だった。自分の身分を明かすのは彼にとって命に関わる危険な行為だ。彼はほのりたちを信じた。その信頼には応えなければならない、というのがほのりの考えだった。

「どうして1年後の今になって追われているんですか?」

ほのりが聞くと、エスポワールは「分からない」と首を横に振った。

「僕は今まで、お父さんが国を裏切って処刑されたとだけ聞かされてきたんです。本当は僕も処刑されることになってたんだけど、お父さんの仲間の人が逃がしてくれて……。

僕は人目を避けるように1年暮らしてきました。僕はこれからも生かしてもらえたことを感謝して、ひっそりと生きていくつもりだった。

でも急に、隠れ家を男達が襲ってきて……。僕は必死にそこから逃げました。逃げている途中でお父さんやお母さん、お姉ちゃんも魔王にひどいことをされていたというの聞いたんです。

お父さんは自分の意思で国を裏切った訳じゃなかった。そんなことをする人じゃなかったんです!お父さんのやったことは、絶対ダメなことだけど、でも、お父さんだって、魔王にたくさんひどいことされてたんだ。

魔王がいなかったら、今も家族皆で平和に暮らせていたんだって思ったら、絶対に生き延びて、魔王を倒したいと思って……。

それで無我夢中で逃げて、気がついたらこの部屋まできていたんです」

「エスポワール様は、復讐がしたいのですね」

エスポワールは大きく頷いた。

雪斗は小さく眉間にしわを寄せた。

(こんなにも小さい子が復讐なんていう言葉を口にするなんて……)

「ほのり、どう思う?」

「んー私は……かわいそうだと思うよ。

だから、助けてあげたいなぁ」

「そうか。俺も同意見だ」

「決まりだね!

もう大丈夫だよ」

ほのりがエスポワールを撫でると、ポロポロとエスポワールの目から涙が溢れた。

「怖かったんだね」

ぎゅっとほのりはエスポワールを抱きしめた。

ぎゃっと雪斗はショックをうけた。

「いやいや、子供相手になに反応してるんだ……」

雪斗は二回ほど咳払いをして、心を切り替えた。

「さてじゃあこれからどうしよっか!

ただ逃げるってじゃあ、きりがないよね」

「あ、あの」

エスポワールがおずおずと言った。

「どうしたの?」

「あの…… お父さんは、処刑されて、お母さんは魔王に殺されたって聞いたんだけど……お姉ちゃんが行方不明で、まだ生きてるかもしれないんです!あと、僕の義理の弟も!

だから……できれば家族も探したいんですが……」

雪斗とほのりは顔を見合わせた。

「全然大丈夫だよ!

協会からしばらく暇って言われたし、行く場所も決まってなかったから!

とりあえず目的が決まって良かった!

ね?雪斗」

「うん、そうだね。もう十分休んだし、明日か明後日あたりに出発するか」

二人の返事を聞いてエスポワールは涙ぐみ、ペコリと頭を下げた。

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